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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
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191 お願いって難しい

「――ねえ、マリー。なんか……マリーもリオン君も何か変じゃない?」

「え、そうかなあ? いつもと同じだと思うけど……」


 セシリアが眉をひそめて言う。だけど私は取り敢えず笑って答えた。


 この処、私もリオンも多数の生徒が集まる授業には出ずテレーズ先生がやっている様な少人数向けの講習や授業にしか参加していない。生徒の中にまだ監視者がいる事を考えての措置だ。


 そしてルーシーもセシリアもそんな私に付き合って同じ授業を受けてくれる。勿論バスティアンとヒューゴも一緒だ。シルヴァンは一人で寂しいのか絶対に合流してくる。それにマリエルとレイモンド、マティスとセシルだけじゃなくてコレットも同じ授業を受けている。クラリスは他の授業も受けているけど必ず私と一緒に来てくれる。総勢十三人もいれば少人数向けの講習や授業なんてその時点で定員になってしまう。他の生徒に申し訳無い気もするけど元々テレーズ先生の授業は極端に生徒が少ないらしいから多分大丈夫。と言うかちょっと都合が良過ぎる気もするけど。


「……そう言えばセシリア、ルーシーはどうしてるの?」

「うん? 確か今日はクラリスと一緒の授業に出てる筈よ?」


「ふぅん……それでどうしてセシリアは剣を持って来てるの?」

「……えー、あー……まあその……運動不足にならない様にね!」


 いやいや、私の部屋に来て運動不足にならない様に剣を振り回すってその方がよっぽどおかしいじゃん? つまりセシリアは嘘を付いてる。


「……えー、本当にー?」

「……ううっ……」


「……本当にー?」

「はぁ……もう、分かったわよ。マリーに隠しておくと絶対に勝手に動いて目的果たせなくなっちゃうしね。ちゃんと説明するわよ」


 そう言ってセシリアは諦めた様子で私に全部教えてくれた。どうせこうなるんなら最初から隠さず全部言えば良いのに。まあそれも全部、友人達が色々考えてくれた結果という事だった。


 要するにセシリアは私の護衛、ルーシーとバスティアンはクラリスの護衛で付き添っている。クラリスの魔眼は見るだけで相手の思考を読む事が出来るけど流石にまだ十一歳の女の子に監視者探しはさせられない。だからいつもなら一緒の二人が分かれて行動してる。


 セシリアの実力は折り紙付きだ。私が襲われた時も余裕でジェシカ先輩を撃退してたしきっと女性剣士としては凄く強いと思う。昔勝負した時に先輩の動きは鋭かったからセシリアは相当な実力者の筈だ。


 だけど女性剣士の護衛って凄く安心出来る。最近はロックが護衛してくれる事が多いけどあの人、私とクラリスしかいない時って絶対に部屋に入ってこようとしないんだよね。それで前に何の気無しに尋ねてみたら凄く丁寧な言い方で『すいません、勘弁してください』って頭を下げられた。


 私としては護衛なら同じ部屋で近くにいるべきだと思うんだけど未婚の貴族令嬢、特に婚約している女性は婚約者以外と二人きりになると不貞を疑われるらしい。リオンは大丈夫だと思うんだけど当人の問題じゃなくて周囲がどう思うかで決まる面子の話だそうだ。お兄様より歳上で二十八歳のロックと十五歳の私でそんな事はあり得ないと思うんだけど貴族の世界ではそれ位の歳の差は珍しくないらしい。怖いね、貴族って。


「……だけどセシリアが来てくれて助かったよ。女子の剣士が重宝されるのってこの為なのね。だけど扉の向こうで護衛した処で窓から入って来られたら対処出来ないと私は思うんだけどなあ」

「……えー、マリー? 流石にそれは普通ないよ? ここ、三階だし」


 いやー……それが窓から入れる人が実際にいるんだよ。少なくとも私が知る限り身近に二人――勿論リオンとマリエルの事だ。それにきっと英雄一族なら全員出来ると思う。いや、流石に私には絶対無理だけどね。


 そしてそんな処でキッチンからリオンが入って来た。手には菓子皿を持っている。どうやらクラリスが作った物らしい。最近はクラリスがお菓子作りにハマっていて厨房の石窯を借りて良く作っている。


「――リゼ、それにセシリア。クラリスのお菓子、持ってきたよ」

「ありがとうリオン」


「お邪魔してます、リオン君」

「セシリアもお疲れ様。リゼの相手は大変じゃない?」


「え、大丈夫よ? マリーは大人しくしてれば可愛い物だし」

「まあ大人しくしてればね? もし大変ならいつでも僕を呼んでね」


 ……二人共ひでーなおい。私だってそんないつも飛び出して行く訳じゃないし静かに大人しくしてる事だってあるもん。ちょっと不貞腐れながらクラリスのお菓子を摘む。だけどクラリスは甘い物が好きでどれも大抵が甘い。リオンの作る物は甘さが抑えられていて私はそっちが好きだ。それで私はセシリアと話しているリオンを見て言った。


「……あの、リオンさん。私、リオンさんの作った物を頂きたいんですが何かございませんでしょうか?」

「ああ、一応新しいのを作ってあるから持ってくるよ。新しいパンも作ってみたからセシリアも食べてみる?」


「えっ? ええと……うん」

「じゃあ持ってくる。ちょっと待ってて」


 そう言ってリオンはキッチンに行ってしまう。だけどセシリアは私の方を胡散臭そうに見つめている。


「……ん? どうしたの、セシリア?」

「……いや、ちょっと……まあ、別に良いんだけど……」


 そうしている内にリオンが大きなお皿を持って来た。上にはお菓子以外にパンが載せられている。食欲をそそる香りが漂ってくる。


「これ、新しく作ってみたんだ。パンを焼いて上にシチューとチーズを乗せて二度焼きしてみた。日持ちしないからすぐ食べなきゃダメだけどね?」

「わ、美味しそう……リオン、なんか料理の腕が上がってるよね」


 そして私とセシリアが舌鼓を打っていると不意にリオンが言った。


「……あの、リゼさん。大変申し訳ないんですが、僕もお茶を戴きたいのでリゼさんが作ったお茶を淹れて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あ、うんいいよ。新しくジャムも作ったし、淹れてくるね?」


 そして私がお茶を淹れて戻ってくるとセシリアが複雑そうな顔になって私を見た。何だか奇怪な物を見つめるみたいな視線だ。そして私とリオンを見比べると彼女は本気で嫌そうに言った。


「……マリーもリオン君も、おかしくない?」


「え、そう?」

「僕がおかしい?」


「そうよ。と言うかどうしてお互い、お願いする時だけすっごい敬語になってるの? なんか見てて痛々しいというか気持ち悪いというか……」


 そう言われて私とリオンはお互いに見つめ合う。だけど少しの沈黙の末に私達はほぼ同時にテーブルに突っ伏した。


「……ううっ……リオン、もうこれ止めない?」

「……うん……凄くしんどくなってきた……」


「え、何二人共? もしかして意識してやってたの?」


 セシリアが驚いた様子で尋ねてくる。それで私とリオンは少し疲れた顔になって答えた。


「……実は、お兄様が戻って来たんだけど……」

「……お互い我儘を言っても許せるのが家族だって言われたんだよ」


「えっ? それでどうしてお互いお願いする時に敬語になるの?」


「その……相手が許してくれる様に自然と丁寧になっちゃって……」

「……何というか難しいね。相談してないのにそうなってたんだ……」


 だけど私達が答えるとセシリアは本気で嫌そうな顔に変わる。いつもは余りきつい事を言わない彼女が珍しく厳しい意見を口にした。


「もしかして……二人共バカなの?」


「えっ⁉︎ なんかセシリア、酷い!」

「ば、バカ……え、何処がだよ?」


「いや、あのさ……お互い相手の反応が怖くて敬語になるのは分からないでもないけど……それ、家族から余計に遠ざかってない?」


「……あっ……」

「……うっ……」


「まあでも二人がお似合いっていうのはよく分かったわ。どっちも同じ位バカな事してるし。前みたいに普通にしてる方がよっぽど家族だったもの」


 セシリアが呆れながら呟く。だけどそんな彼女を見ていて私はある重要な事に気が付いた。


「……はっ⁉︎ だったら……セシリアはヒューゴと普段はどんな感じでお互いにお願いしたりされたりしてるの⁉︎」

「……え。私とヒューゴ?」


「そうだ! ヒューゴは余りそう言う話をしないから、良ければセシリアがどんな感じか教えてくれないかな? 参考にさせて貰うから!」

「さ、さ、参考? え、私とヒューゴがどんな感じか、って……」


 だけど私とリオンが尋ねるとセシリアの顔が赤く染まって行く。やがて真っ赤になったセシリアが私とリオンに向かって大きな声を上げた。


「――な、なんでそんな恥ずかしい事を言わなきゃいけないのよ⁉︎」


「……え。恥ずかしい事……?」

「……セシリアは一体ヒューゴに何をお願いしてるんだ?」


「わ、私を巻き込まないで! もう知らない!」


 結局、それから私とリオンは顔を真っ赤にして怒ってしまったセシリアを宥めるのに時間を費やす事になってしまったのだった。


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