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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
174/315

174 養子に出された子供

 秘密の作戦会議が終わった後、生徒達は私の部屋に集まっていた。


 リオンとエドガーは部屋に残ってお父様達と話している。多分後で何の話をしていたか教えてくれるとは思う。


 だけど考えてみたら皆で集まるのは婚約パーティ以来だ。あの時はまだ今程深刻な事態は起きていなかった。つい先日の出来事なのに随分と昔の様に感じる。ただ違うのは何だか皆、少し私に対して遠慮しているみたいだった。


 クラリスは私の腕を抱いて離そうとしない。だけど特に何かを言ってこようともしない。クラリスは一緒に孤児院に行った時飛び出したレミを追い掛ける様に促してその結果私が殺されそうになった事を相当気にしているみたいだ。私には魔眼はないけどそれ位は分かる。クラリスが何か気に病んでいる時は何を言っても変わらない。口数が極端に減ってこうしてくっ付いて来る。だから私も何も言わずクラリスの手を取って普通でいる。今回一番傷付いているのはクラリスかも知れない。


 特に今回は起きた事件が酷過ぎた。私も殺されそうになったし捕まったのも同じアカデメイアの先輩で最後は自害してしまった。今まで色々あったけど死人が出た事件はこれが初めてだ。それでこんな風に集まっている訳だから和気藹々と出来る筈がない。


 だけどそんな風に私が考えていた時だ。それまで黙ってむず痒そうな顔をしていたルーシーが突然私に飛びついてきた。余りにも突然過ぎて私も他の皆も反応出来ない。そんな中ルーシーは私を胸に抱いて言う。


「――もーこの子は! 事件の事を聞いて心配してたのに全然戻って来ないし、戻ったら戻ったで難しい顔してるし! 皆マリーを心配して気を使ってるんでしょ! なんで上の空で色々考えてんのよ!」


「……え、え、でも……無関係な先輩が自殺して……」

「マリーは馬鹿なの? 全然知らないマリーを殺そうとした先輩が自殺して何で悩んでんのよ? マリーを良く知ってて心配してる皆の事だけ考えて笑ってれば良いじゃん! 良かったね、有難う、って!」


「だ、だけど、私の所為で騙されたのかも知れないんだよ⁉︎」

「そんなの騙した奴が悪いし騙された方も悪い! エマさんだって言ってたじゃん! 悪い奴の言う事しか信じなかった人だよ? マリーに直接聞けば良いのにしなかった人だよ? なのに何で同情してんの?」


 そう言われて私はもう言い返す事が出来なかった。だってルーシーの言う通りだ。確かに可哀想かも知れないけどあの先輩は私に謝ってくれた訳じゃない。それに最後まで自分の所為で両親が自殺してしまった事を悔やんでいただけだ。あの人は私に悪い事をしたとは言わなかった。


「――だからマリーも優先順位を間違えんな。勝手に敵視して自殺した先輩なんて放っておきなよ。それよりもマリーの事が好きで心配してる皆を見なきゃダメでしょ? マリーは難しく考え過ぎなんだよ」


 ルーシーは本当にブレない。自分の考え優先で他人にきつい言い方をするけど逆に好きな相手に対しても真っ直ぐだ。好きな男の子の為なら裸でベッドに潜り込んだりもするけど彼女は一直線に突き進む。


「……ルーシー、心配してくれて有難う。それに……クラリスも自分の所為だと思っちゃダメだよ。悪いのは悪い事をした人でクラリスは何も悪くない。レミが無事だったのはクラリスが行かせてくれたからだよ」

「……ルイーゼお姉ちゃん……」


 私はルーシーと隣で俯いていたクラリスを抱き寄せる。ルーシーはそれでやっと満足そうな顔で笑う。クラリスもやっと顔を上げて私の方を見てくれる。ルーシーの言う通りだ、私はよく知らない人に同情する前に好意を持ってくれて心配してくれる皆にちゃんとお礼を言うべきだ。


 本当に私は馬鹿だなあ。一番大事な事を忘れて勝手に巻き込まれた人に同情するなんて。こうして私を心配してくれる皆の事を一番最初に考えて大事にしなきゃいけないのに。ずっとそう思っていた筈なのに状況に呑まれてちゃんと考えられなくなっていたのかも知れない。


「――皆も本当に有難う。私は全然平気。セシリアが駆けつけてくれたお陰で怪我もしなかったしね。私、一番大事な事を忘れてたよ」


 私がそう言うとバスティアンが近付いて来て楽しそうに笑う。


「……ルーシーは空気が読めませんからね。だから自分が嫌だと思えば無視して動くんですよ。だけどそう言う部分に救われる事も多いです」

「……うん、そうだね。だからバスティアンもルーシーの事を好きになったんでしょ?」


「えー、バスティアンもマリーもひっどーい! だけどそれで好きになってくれたんなら別に良いかな!」


 ルーシーがわざとらしく頬を膨らませて笑う。それで部屋の中の空気がふっと緩む。本当にルーシーはムードメーカーだ。空気が読めなくて大変な事になる場面も多いけどそれ以上に助けてくれる親友の一人だ。


 そしてそんな処にリオンが戻ってくる。深刻な表情になっていたけど部屋に入って明るい空気になっている事に気付くと穏やかに変わる。


「皆、お待たせ――そう言えばヒューゴ、マティスとセシルに剣を教えてくれたんだって? あれはちょっと驚かされたよ」

「うむ。今の処は二人で一人と言う感じだがな。それでも攻撃と防御に分かれて別の人間が動けばリオンも一筋縄ではいかなかっただろう?」


 それまでセシリアと一緒に少し離れて見ていたヒューゴがリオンから尋ねられて近付くとニヤリと笑う。あの時一緒に街を走り回って事情を知っている二人は部屋の状況を見守ってくれていたらしい。


 マリエルのあの魔力による打撃を見せてくれた後、マティスとセシルはリオンを相手に勝負をした。それまで二人別々に相手をしていたのに二人同時になった途端リオンの反応が変わった。私には剣の事は全然分からないけど多分、二人はお互いの弱点を補ったんだと思う。


 そして空気が一変して和やかになった中、ソレイユさんが近付いて来ると真面目な顔になって話し掛けて来る。


「……マリールイーゼ様。あのパーティの時に奉仕活動の事を尋ねられたのは、今回の事件をある程度予想されていらっしゃったのですね」

「え、まあ……はい。私は英雄魔法が使えるから、今回の事もちょっとだけ予測出来てました。だけどこんな事になっちゃいましたけど……」


 だけどそう答えるとソレイユさんは真剣な顔に変わる。


「ですが! マリールイーゼ様は女の子なんですから、例え分かっていてもそんな無茶はしないで下さい! エマなんて話を聞いてショックで倒れてしまったんですよ? 私とカーラも動揺して大変でした!」

「……えと……その、ごめんなさい……」


「ですけど……本当にご無事で良かったですわ……」


 そう言ってソレイユさんは私を胸に抱き寄せる。そこに今度はカーラさんとエマさんがやってきた。だけどエマさんは真剣な表情だ。


「……ルイちゃん。私を助けてくれた時もそうでしたけど、ルイちゃんはもう少し自分を大事にして頂戴。孤児院の子を守ろうとして殺され掛けたと聞いて気が遠くなったわ」

「……はい……ごめんなさい……」


「だけど話を聞いてちょっと思ったの。ルイちゃんはあの時、絡んで来た人を覚えてる? ほら、お茶会講習の時に……」

「え? お茶会講習の時、って……?」


「ほら、あの時ルイちゃん、正規生の令嬢に絡まれたでしょう?」

「……ああ、そう言えばそんな事もあったっけ……」


 そう言われて私は当時の事を思い出す。準生徒の頃に参加したお茶会講習で魔法が使えなくなって絡まれた事件の事だ。結局テレーズ先生が駆け付けて不正行為をしようとしていた正規生がいた事が発覚して私はお咎めなしだった。考えてみたらあの後からろくな事がない。


 だけどその後にエマさんが言った言葉に私は驚いた。


「……あの時ルイちゃんに絡んでいたのはね、ベアトリス・ボーシャンと言う人なのよ。ボーシャン家のご令嬢なんだけど」

「え、そうなの? ごめんなさい、名前まで知らなかったよ」


「今回の事件で犯人は褫爵された子爵家令嬢って聞いて、もしかしたらあの人かも知れないって思ったの。ルイちゃんは知らないかも知れないけどあの後に嘘の請願書が王宮に提出された事件があってね? どの家が爵位を剥奪されたかまでは知らないけど大勢の生徒があれからアカデメイアで姿を見なくなったのよ」


「……ちょっと待って? そのベアトリスって人は子爵家だったの?」


 私が驚いて尋ねるとカーラさんとソレイユさんが頷く。


「……そうですわよ。ベアトリス・ボーシャン子爵令嬢。私達の一つ上の正規生で次に陞爵(しょうしゃく)される噂だった子爵家の方ですわ」

「ええ、それに褫爵(ちしゃく)処分を受けましたが確か妹さんがその前に養子に出されていて今年の新規正規生として入学している筈です」


 あの正規生が子爵家令嬢で褫爵処分を受けている――その妹が今年の新規正規生として入学している。下流貴族の子が他家に養子に出されるのは珍しい話じゃない。結婚や婚約以外でもそうやって家同士の繋がりを強くするのは普通にあるし、子供が産まれない貴族家に養子に出される事はよくある話だ。特に女の子は家督を継がないから男の子に比べると養子に出される事が多い。その目的、用途は大抵の場合、他家との縁組みだ。


 あの事件で爵位を剥奪される前に養子に出された――という事は十二歳で別の家に入った事になる。私と同い年の女の子と言う事だ。


 これはロックさんに調べて貰う必要があるかも知れない。それにリオンにも相談しないと――話を聞いて私はそんな事を考え始めていた。


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