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17 甘え方が分からない

 それから私はお兄様に抱き抱えられて運ばれた。何と言うかこの歳になって重くないんだろうか――だなんて考える余裕は勿論その時の私には無かった。だけど幼い頃と同じ様に抱き抱えてくれる事が嬉しくて仕方ない。


 だけどお父様は複雑そうな表情でお兄様を見ている。きっとお父様も私に甘えられたかったんだろう。だけどここで暮らしていた時からお父様はお仕事で家を空ける事が多かったしこんな風に甘やかして貰った思い出も殆ど無い。それでもちゃんとリオンに声を掛けたのは流石お父様だ。


「――リオン君、だったね。初めまして。私はマリールイーゼの父親でセドリック・アル・オー・アレクトーだ。お父上とお母上は今もお元気にされていらっしゃるだろうか?」

「はい。父はとても元気で病気一つしていません。母も今頃は畑で薬草の世話をしている筈です」


「そうか、それは何よりだ。そうそう、例の荷物は部屋の方に運んである。ルイーゼの隣の部屋だよ。手続きは全部終わっているから後は荷物の確認をして貰えると助かる。何か足りない物があれば何でも言って欲しい。叔父さんだと思っておくれ」

「はい、ありがとうございます、叔父上」


 リオンの受け答えもしっかりしている。と言うか普段は父さん母さんと呼んでいたのにきちんと公爵家らしい話し方も出来るんだ、なんて私はぼんやり考えていた。何と言うか感動し過ぎた所為か、余り頭が上手く回ってくれない。


「――だけどマールは相変わらず軽いね。とても十一歳だとは思えない位だ。だけど本当に元気になって良かったよ……」


 レオボルトお兄様はそう言ってくれるけど私は何と返したら良いのかが分からない。四歳の頃と違って今はどんな甘え方をすれば良いのか全然分からなかった。その所為でまるで小さい子がぐずっているみたいに黙ってしがみつく事しか出来ない。


 こればっかりは例えリオンに見られていてもどうする事も出来なかった。恥ずかしいと感じるよりどう振る舞えば良いのか分からなくて戸惑う気持ちの方が強い。それは私にとってかなりショックな事だった。大好きな家族との接し方が分からないだなんてあると思わなかったんだから。


「そう言えばマール。それにリオン君も。長旅で疲れているだろうし、それぞれ一度休んだ方が良いかも知れないね。マールも元気になったとは言え一〇日間も相当疲れただろう?」


 だからお兄様の方からそう言ってくれて私は少し救われた気分だった。間が保たない。会話が続かない。次に何を言えば良いのかが分からない。そう考えてしまう自分が嫌で仕方ない。


 そんな感じでベッドに転がって悶々としていると部屋の扉がノックされた。返事をすると扉を開いてリオンが入ってくる。


「……リオン、どうしたの?」

「リゼが何だか変だったから様子を見にきたんだ」


 そう言われて私はベッドから起き上がると俯いた。リオンにはもう色々と恥ずかしい処も見られている。それに叔母様の処にいる時から何でも相談していたし正直に話す事にした。


「……えっとね。お父様やお母様、お兄様にどう甘えて良いか分からないの」

「えっ? 甘え方?」


「うん。私、この家に四歳までしかいなかったから。この歳でどう甘えて良いか分からないの。それに帰ってきたら四歳の頃の自分に戻ったみたいで振る舞い方が全然分かんないのよ」


 だけど私がそう言うとリオンは不思議そうな顔になって首を傾げた。私が何を言ってるのか分からないみたいな反応だ。


「ええと……それをお母さんに直接相談すれば良いだろ?」

「……そんなの、出来る訳がないじゃない……」


「それはどうして?」

「だって……私がこんな子と知ればきっと失望するよ。お母様に嫌われたくない。だからどうしたら良いか分からないの」


 私がそう言うとリオンは少しだけ考える顔になった。だけどすぐに面白そうに笑うと私をじっと見つめる。


「ふぅん、そっか……リゼって案外バカだったんだな」

「……どう言う意味よ?」


「だって相談すれば済む事なのに相談しないんだろ?」

「だから……怖くて出来ないって言ってるじゃない!」


 流石にそんな言われ方をして私もカチンときた。だけどリオンは悪びれる風でもなく真面目な顔になって続ける。


「だって、それを僕に教えてくれたのはリゼだろ?」

「え……私? 私、そんな事リオンに言ったっけ……?」


「言ったよ。僕が自分の魔法で悩んでいた時にさ。母さんは僕が甘えるのを待ってるってリゼが教えてくれた。リゼが教えてくれなかったら僕はきっと今も母さんと触れ合えてないよ」


 そんな事があった気もする。だけどあれはリオンがまだ五歳の頃で十一歳の今の私とは少し話が違う気もする。それで私が悩んでいると彼は優しそうに笑った。


「リゼの『お母様』は凄く優しい人だ。そんなの魔法を使わなくても分かる。だって馬車から出たリゼに駆け寄って真っ先に抱き締めた人だよ? うちの母さんと同じだよ、あの人は」


「……え、そうかな……お母様、分かってくれるかな……?」

「本当にいつものリゼらしくないな。そう思うなら先ず話してきなよ? あの人は子供を一番に考えるお母さんだよ。それにリゼも大好きなんだろ? なら幻滅する訳がないじゃないか」


 そんな風に言われたらもう居ても立ってもいられない。私は立ち上がるとリオンの隣を通り抜けて廊下に飛び出した。


「私、お母様とお話ししてくる!」

「あ、うん……話したい事があったんだけど……」


「――リオン、ありがとね! 話は明日聞くよ!」

「……まあいいや。それじゃあまた明日」


 リオンは何か私に話したい事があるらしい。だけど今は先ずお母様とお話ししなきゃ。やっと帰ってきたのに気不味くなるのは絶対嫌だ。それに半年経てばまた一緒にいられなくなる。


 私は裸足でお母様の部屋を目指して廊下を走る。昔はこんな風に走る事も出来なかった。折角頑張って元気になったのに、それを言えないままだなんて嫌だ。


 お母様の部屋の扉をノックすると少ししてからお母様が出て来る。私を見て少し驚いた様子だ。だけど――


「――お母様、今日は一緒に眠っても良い? 私、お母様にお話ししたい事が沢山あるの。駄目、かなあ……?」


 私がそう言うとお母様はにっこり笑ってくれた。


「良いわよ。それじゃあ久しぶりに一緒に寝ましょうか?」

「うん!」


 私は頷くとお母様に促されて部屋へと入る。その日は久しぶりにお母様にくっ付いて夜を過ごした。お母様もしっかり抱いてくれて、私はやっと我が家に帰ってこれた気がした。


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