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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
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168 黒幕の存在

 私は王様の私室に行くと表に立っていた騎士二人に尋ねる。二人が私の事を知っていてくれたお陰で特に止められるでもなくすぐに部屋の中にいるお父様に話を通してくれた。王宮で話題になってるってこう言う時だけは本当に便利だ。それに以前お姉ちゃんの部屋から王様の私室まで移動した事があったから迷う事すらなかったし。


 部屋に入ると王様とお父様がいる。だけどそれ以外にも二人、知らない人の姿があった。一人は髪の毛のない小父さんで、もう一人は黒い髪の二〇代から三〇代位の男の人だ。


「――ルイーゼ、そんなに血相を変えて一体どうしたんだい?」


 お父様に尋ねられたけどすぐに答えられなかった。だって知らない人が二人いるんだもの。そこで話して良いのか判断出来ない。それで私が躊躇していると視線に気付いたのか王様が笑って教えてくれた。


「ああ……マリールイーゼ、この二人はレンジャーギルドの者だ。今回確認の為に来て貰った。まあレンジャーと言っても原則隠密活動が基本だし口も固い。それとも聞かれたくない話なのかな?」

「……え、いえ……ちょっとお父様に確認したくて……」


「そうか。なら先にこちらを済ませてからでも構わないかな? マリールイーゼも傍で待っていれば良いよ」


 だけど王様が笑ってそう言うとお父様は顔をしかめる。


「……陛下、娘に聞かせるのはちょっと……」

「何を言ってるセディ。マリールイーゼも関係者だろう? 特に秘密の話をする訳でもなし、聞かれても問題なかろう?」


 私が――関係者? そう言えばレンジャーギルドってあの時レミを捕まえた人も所属してるって言ってた筈だ。それにあの時の男の人って黒い髪が見えてた。それで黒髪の方を凝視しているとその男の人は苦笑した。


「……まあその、何だ。あの時は悪かったな、英雄のお嬢ちゃん」

「やっぱり貴方、あの時レミを捕まえた人ね?」


「まああれも仕事だから勘弁してくれ。但し依頼じゃなくてギルドの、だけどな? 最初から怪我とかさせる気なんてなかったんだよ」


 男の人がそう言うと大人達は話をし始めた。髪の毛のない男の人が軽くため息をつくと王様に向かって口を開く。


「話を戻しますが――我がギルドが内偵を行っていたのに介入されては非常に困る訳です。やっと関係者の一人であるジェシカ・ゴーティエと接触して大元に連絡を取るのを待っていたのに、事もあろうか自殺まで許してしまうとは。死者には尋問は出来ないとお分かりですか?」


 え、ジェシカ・ゴーティエって……あの先輩の話? ギルドの人達は話をしに来たと言うより王様を責めている様に聞こえる。それに連絡を取るのを待っていたって……それは私が一番尋ねたかった事だった。


「――お父様。これって……あの先輩は誰かに思想誘導されていたってお話ですか? 一体誰なんです、それって。それに内偵って……やっぱり別に主犯がいたって事なんでしょう?」


 我慢出来なくて思わず口を挟んでしまう。だけどそれを聞いた頭の禿げあがった男の人は驚いた顔に変わった。


「な――何故今のやり取りだけでそこまで理解出来るんだ⁉︎ このご令嬢は一体何者――どちらのご令嬢なのですか⁉︎」


 だけどそんな隣で黒髪の男性が苦笑した。


「あー……ギルド長。そちらのお嬢さんはマリールイーゼ様。そちらの英雄様のご令嬢ですよ。ちゃんと報告しただろ? ジェシカ・ゴーティエが捕縛されたのはこのお嬢さんを殺そうとしたからだ。まあ事件の当事者が聞けば大体察しはつくだろうが流石に飲み込みが早い。それにその事を真っ先に尋ねるって事はここに来た理由も同じって事だよな?」


 そう笑って言われて私は頷く。そして複雑そうな顔のお父様に向かって私は尚も尋ねた。


「……お父様、あの時言いましたよね? 先輩は偏った思想を持っているって。でも貴族が王族を敬うのは普通でしょ? なのに偏ってるって言ったのは先輩が他の誰かからそう言う考え方にされたって事なんじゃないかって思ったの。つまり――黒幕が他にいる、って事よね?」


「……どうしてそう考えたんだい、ルイーゼ?」

「アンジェリンお姉ちゃんが言ってたのよ。元々あの先輩はそこまで偏った考え方じゃなかったって。それに入学する前にアカデメイアの規則もあるから敬語は使わない約束をしてたのに恭しい態度になってたって言ってた。本当にお姉ちゃんを敬ってるならお姉ちゃんとの約束を守らない筈が無いでしょ? だってお姉ちゃんは王族の姫君なんだもの」


「……そうか。アンジェリンはそんな風に言っていたのか……」

「それにテレーズ先生も言ってたわ。あの先輩は立派な貴族になろうと頑張ってたって。多分、テレーズ先生の教え子だと思うしおかしな思想なんて教える筈がない。じゃあお姉ちゃんと会って二年が過ぎる内に誰かがジェシカ先輩の思想を歪めたって事でしょ?」


 私はそう言いながらやっとあの先輩、ジェシカ・ゴーティエに対してモヤモヤしていたのか分かった。ずっと何か引っかかってたんだ。


 だって私の知ってる先輩と他の人の評価が違い過ぎる。お姉ちゃんが傷付いているのは信じていた人に裏切られた気持ちになったからだし、テレーズ先生もどちらかと言えば先輩に同情的でちゃんと導けなかった事を悔やんでいた。私の知っている先輩と皆の認識は明らかに違う。


 それにアンジェリンお姉ちゃんもテレーズ先生も最近の先輩じゃなくて昔の先輩を知っている。だから私や友人達が殺されそうになったと聞いてもにわかに信じられない――それはあの先輩が元々そんな事をする人じゃないと思っている証拠だ。私は昔の先輩を知らないから同情出来なかった。だって憎しみの目でしか見られた事が無いから。


 つまり本当の黒幕は他にいる。先輩の考えを歪めて事件に至らせた人物は他にいて今も捕まらずにのうのうとしている。そうとしか考えられない。


 一人憤っている私に黒髪の男性が禿げた男の人に笑い掛ける。


「――すまねえがエポック。俺は今回の内偵から外れるわ」

「は、はあ⁉︎ ロック、いきなりそんな事を言われても……」


「実際もう俺は面が割れてる。続けても役に立つ処か邪魔にしかならねーよ。あのジェシカって娘が捕まって自殺した時点で俺はもうお払い箱だ。この仕事を続けるだけ無駄にしかなんねーんだよ」

「……しかしな……じゃあお前は今後、どうすると言うんだ、ロック?」


 黒髪の男――ロックと呼ばれた男性はギルド長と呼んだ人に尋ねられると私を見て笑った。


「……そうだな、俺はこの嬢ちゃんに付く事にする。相当頭が切れるし一人で突き進む処があるみたいだしな。あん時だって貴族令嬢が路地裏に駆け込んできて度肝抜かれたんだぜ? こんなの放っといたらすぐに殺されて終わっちまうだろ?」

「……む、むむむむむ……」


「流石にタダ働きはしたくねーからな。だから――英雄様よ、賃金弾んでくれると助かる。その代わり嬢ちゃんが危ない事に首を突っ込もうとしたら止めるなり守るなりしてやるよ。それでどうだ?」

「……ふむ。分かった、それでは君に娘の護衛を頼む事にしよう。しかしうちの娘は予想出来ない事をする。例え君がギルドのベテランでも振り切られる可能性が高いと思うぞ? それと婚約者のリオンとも相談してどうするか打ち合わせてくれ。恐らく彼に勝てる者は滅多にいないだろうからね」


 黒髪の男にそう言われてお父様は呆気なく許可する。お父様がこんな風に即決するなんて滅多に無い。それだけこの男の人は有能だって事なんだろうか。でもあの時の様子を見る限り、ちょっと抜けてる気もするんだけどなあ。


「ああ、イースラフトの英雄一族か……分かった、理解した――まあそう言う訳だ、嬢ちゃん。俺が影で動いてやるしギルドで得た情報も流してやる。レンジャーギルドの情報網は中々便利だぜ?」

「え、うん……何かよく分かんないけど、お願いします……」


 お父様が決めてしまったし後は私も頷くしか無い。そう言えばこの世界のギルドって独立組織じゃなくて王国が管理運営してるんだっけ。と言う事は王様公認の組織って事だ。お父様は仕事や立場があるから自由に動けないし、いざと言う時に頼れる大人がいてくれると助かる様な気もする。


「そういや名前をまだ名乗ってなかったな。俺はロック・レロック。褫爵(ちしゃく)された元貴族で今はレンジャーギルドのレギュラーだ。よろしくな?」


 褫爵(ちしゃく)された、貴族――何よりもその一言に私は心底驚く事になった。


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