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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
153/318

153 剣の在り方

 食堂から剣技場に行ってすぐ、マティスとリオンは手合わせをする事になった。とは言っても木剣でリオンは受けるだけだ。マティスが剣を振るうのを初めて見たけどヒューゴと違って動きが凄く早い。


 それで呆気なく終わってリオンの部屋に向かう。リオン、私、それとマティスとセシルの四人だけだ。そこで部屋に入るとリオンは革紐を取り出して片方の端を結ぶ。


「……リオン、何してるの?」

「ああ、今からマティスの腕の長さを測るんだよ」


「腕の長さ? それって剣に何か関係あるの?」

「うん。剣身の長さって逆手に持って腕に沿わせた時に正面から見えない様にするんだ。大体肩先から手の甲位かな。片手剣だとそれ位の長さが振り回せる限界だからね――マティス、次はどれ位の重さまで持てるかを確認するよ?」


「うん、分かったわ」

「無理して重い物を持たない様にね。持てる限界の確認じゃなく振り回せる重さの確認だから。鉄の棒だけど自分の腕の長さ位の処を持つ様にして。じゃないと意味が無いからね」


 そう言って革紐をテーブルに置くと次に持っていた鉄の棒みたいな物を取り出す。革紐の両端には結び目があってどうやらその結び目で腕の長さを記録したみたいだ。そしてリオンは部屋の隅に置いてあった木箱から鉄の棒を五本位取り出した。木箱は確かリオンと一緒にこっちに戻ってきた時に部屋に届けられていた物だ。だけどまさか鉄の棒が入ってただなんて思わなかった。


「……これって叔母様のお家から持ってきた物でしょ? この木箱に見覚えあるし。だけどなんでこんなの持ってきてるのよ?」

「あー……ええとさ。剣って実は消耗品なんだよ。身体が成長すれば剣身の長さや重さも変えるんだ。その調整に必要だから送って貰ってたんだよ。アカデメイアに来てから僕も二回位交換してるよ?」


「え、そうなの? そんなの全然気付かなかったわ……」

「普通女の子は知らないだろうね。今やってるこれはブロードソードって言う騎士が持ってる切断剣の測定方法なんだ。普通の剣は殴る為の武器で刃が付いてない。切ると言うより引き千切る武器なんだよ」


 いや、そんなの知らないって。要するにケーキナイフみたいに指が切れないって事なんだろうけど普通そんな知識がある貴族令嬢なんていないと思う。だけどセシルもマティスもウンウン頷きながら楽しそうにリオンの話を聞いていて微妙に疎外感を感じる。


 そして一通り測定が終わるとリオンは鉄の棒を箱に戻してマティスに向かって再び話し掛けた。


「――取り敢えずこれをうちに送って母さんに見繕って貰う。こっちで作っても良いけど新調はかなり高額だしね。ヒルトは鍛治師以外に彫金師にも頼まなきゃいけないし鞘にもお金が掛かる。だけど母さんのお古ならタダだ。使っていけば調整で多少掛かるだろうけど慣らしも余り必要ないから二人ともかなり出費は抑えられると思う」


 気が付くと凄く現実的な話になっている。だけど剣ってそんなにお金が掛かる物なの? それが分からなくて私は三人に尋ねた。


「え……ねえ、剣ってそんなにお金が掛かる物なの?」


 するとマティスが苦笑いをして真っ先に答える。


「あー、うん。ちゃんとした騎士の使う剣は最初から作ると物凄くお金が掛かるのよ。だから男爵や子爵も騎士叙任の時に下賜された剣をずっと使ってるのが普通よ? 特に刃付きのブロードソードは修理や調整も頻繁だし維持していくだけで本当ならかなり大変なのよ」


「ええ、僕らの父上も騎士に叙任された時に賜った剣を今もまだ大事に使ってます。最初は命に関わる剣身部分に拘るみたいです。それとヒルトのガード――握りのすぐ上にある相手の剣を受ける部分も重視してます。折れても受け止められなくても死んじゃいますから」


「……リオン、因みに……お幾ら位するの?」

「んーそうだなあ。いちから新調すれば貴族の新品の馬車一台、勿論馬込みで買える位かな? 最初は慣らしがいるから余計掛かるんだ」


「そ、そんな高いの⁉︎」

「だって剣は殺し合いの為の武器だよ? 特に騎士の剣は普通の鉄で作られてないから余計高い。それに他の中古品と違って前の持ち主が戦功を上げていれば価値が上がり易いんだよ」


「……えー……」

「例えばアベル伯父さんは年に一回新調するんだ。あの人、使い方が荒っぽいから。だけど使ってた物は王家が高額で買い取って新しい剣を準備してくれる。その剣身を交換したりヒルトの装飾を豪華にして家臣への褒美として下賜してる。英雄にあやかりたい人が多いから」


 ……おぅふ……それって英雄が使ってた物だから価値が付与されるって事? もしかしてうちもそれで賄ってる? だって公爵家って領地が無いのにどうやって収入得てるのか分からないし。王様の補佐をしてるだけで大金を貰ってるだなんて無いと思うし。


 そうしてやる事が全部終わって二人が帰った後だ。私はずっと疑問に思っていた事をリオンに尋ねた。


「――それでリオン、どうしてマティスにも剣をあげようって思ったの?」

「うん? まあ……ちょっとね」


「ちょっとって? 何かあったの?」


 それでリオンは真面目な顔で考え込む。そして考えが纏まったのか少ししてからポツリと漏らした。


「……あの二人の剣、かなり癖が強いんだよ。多分、ずっと二人だけで修行してた事も関係してると思うんだけど……」

「癖って……何か問題があるの?」


「……セシルは防御に偏り過ぎてるんだ。逆にマティスは攻撃に偏り過ぎてる。これは多分マティスが女の子だからだと思う。セシルの剣は彼女に怪我をさせたくなくて、攻撃出来ないから受けたり流す事に偏ったんじゃないかな。逆にマティスは防御が致命的だ。きっと攻撃を受け流す必要が無かった所為だろうね」

「えっ……それじゃあ……」


「……要するに半端過ぎて片方だけじゃまともに戦えない。もし剣をきちんと学んだ相手なら絶対に勝てない。矯正していくつもりだけどすぐには無理だ。だから先ずセシルに剣を持たせた。これでリゼが視た事が起きても簡単にはやられない。問題はそれでも時間稼ぎにしかならないって事だ。今回マティスに持たせようと思ったのは将来への投資だよ。二人で一人前でも使えた方が良いからね」


 そう言ってリオンは苦笑する。だけど私は食堂でマティスが言っていた事を思い出していた。彼女はセシルより自分の方が強いと言っていたけどそんな理由があったなんて考えすらしていなかった。


 だけどあんなに喜んでいたのに騙している気がする。自分が生きる為に二人を利用している気がする。それが申し訳なくて私は素直に喜ぶ事が出来ない。そんな憂鬱になる私にリオンは真面目に言った。


「……リゼ。生きていれば幾らでも謝れるしちゃんと二人が戦える様に修行だって付けられる。だけど死ねばそこで終わりだ。そこから先はもう取り返しがつかない。でも割り切れとは言わない。少なくとも戦闘に関しては僕の方が専門だから全部僕に任せてくれないかな?」


「……うん、そうね。私は戦い自体分からないしリオンに全部任せるしか無いと思う。だけど申し訳ない気持ちになっちゃうよ……」


 そう言って落ち込んだ私にリオンは笑って言った。


「……彼らは剣になりたいと望んだ。でもそれだけだとただの道具でしかないんだ。問題はそこから先、ちゃんと剣を振るう側になれるかどうかだ。これは僕らが背負わせるんじゃなくて彼ら自身がなりたい物になれるかどうかの試練だって考えるべきなんだよ」


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