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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
135/316

135 主人公の特異性

 扉をノックする音が聞こえて私は目が覚めた。どうやら寝てしまっていたみたいだ。窓の外は真っ赤に染まっていてもう陽が沈む頃合いになっていた。そして扉が開かれてリオンの姿が見えた。


「……リゼ、最初に謝らせて」

「うん? 何を?」


「僕は……リゼが昔、湖で水に恐怖を感じた事を知ってる。なのにそれをすっかり忘れてた。あの事故は僕の所為だ。本当にごめん」

「いや、あれは別にリオンの所為じゃないでしょ? 確かに水が怖いと思ったけど、それで離れようとして落ちちゃっただけだし。あれは全部自業自得、私自身の所為だよ」


「いや、あれは僕の所為だ。それに昔、リゼが怖がったのはそうなる事を未来視で知ったからだろ? 僕はもっと考えて、ちゃんと泳げる様に訓練しておくべきだった。そうしなかったのは僕の落ち度だ」


 リオンは物凄く気にしている。だけど元々ここでは人は泳ぐ習慣がないし私の身近に泳げる人もいない。当然私だって泳げないし。だけどそれより私はリオンに相談しておく事があった。さっきリオンが言った『未来視』、私の英雄魔法についてだ。


「……リオン。私、リオンに話しておかなきゃいけない事があるの」

「うん、僕もだ。リゼに話しておく必要がある事がある。リゼの話を先に聞かせて。その後で僕も説明するよ」


 それで私は先にリオンに話す事になった。


 今回、海に落ちる直前に私の予知――今まで危険な事が起きる時に見えていた英雄魔法が発動しなかった。もし本能的に危険を察知出来る力ならその前に発動してなきゃおかしい。と言う事は私の魔法は危険察知とか未来予知じゃない事になる。海に落ちた後に見えた光景が昔、湖で見た物と同じだったのは未来予知だったのかも知れないけどそれ以外は多分未来予知じゃない。


「――まあ、考えてみたら視界が紫になった時ってそもそも私、命の危険を感じてないんだよね。だからリオンが言ってた運命を選択出来る魔法っていうのが信ぴょう性が高くなったと思うよ」

「……そうか。でも出来れば外れていて欲しかったな」


 リオンは少し悔しそうに笑う。だけど私は真剣な顔で続けた。


「そうじゃなくて。もしそうだとしたら、私の魔法は自分の命に危険が迫った事に気付けないって事よ。運命を選べるのと危険を察知するのって別でしょ? なら……全然役に立たないも同じって事だもの」


 私がそう言うとそこで初めてリオンも深刻な顔に変わった。


 もし運命を選べたとしても自分が死ぬ様な危険に気付けない。だって私の魔法がもし運命を選べるだけなら自分の死を予測出来る訳じゃなくて、単に『選べる』だけって事だ。今回みたいに自分一人だけで対処出来ない事は『選択』自体が使えない。それは泳げないのに泳げる事に出来るのと同じで起こり得ない事だから。そう言う状況に陥った時、私自身にその選択肢自体がない事になる。


「……そうか。推測が当たっていたらそう言う事になるのか……」

「うん。そう考えると私が死ぬ未来は全然回避出来てない。今回の事自体、マリエルが助けてくれてなかったら私は多分死んでた。そう考えると今、それが分かった意味自体は大きいと思うんだけどね?」


 リオンは深刻な顔で考え込んでしまう。それを見ながら私は記憶にある悪役令嬢マリールイーゼの死ぬ原因を考えていた。


 思い返してみると私が思い出せる限り、マリールイーゼが死ぬ状況は基本的に私一人だけの時に限定されている。自分で死を選んだ時も他人に殺される時もいつも一人きりだ。自力で乗り越えられない時は助かる手段自体が選べない。今の私は自殺なんてする気は毛頭無いからそれは無いとしても事故や他殺なら幾らでも起きる可能性がある。


 つまり私は自力だけで生き延びられない。傍に誰かがいて私を助けてくれる状況じゃないとそのまま死んでしまうと言う事になる。そもそも本編でも攻略対象達は私を直接殺していない。命を落とした結果だけが分かって、それを後で知る展開が殆どなんだから。勿論直接手に掛けられる展開もあるだろうけど、それは現状回避出来ている気はする。そう言う意味では今まであった事は無駄じゃない。


「……そう言う事か……くそ、そんなの考えてもなかった。もう大丈夫なんじゃ無いかと思ってたけど全然甘かった。マリエルが助けてくれなかったら今頃リゼが死んでたと思うと背筋が冷たくなるよ……」


 だけど深刻に考え始めるリオンに私は尋ねる。


「それで? リオンの話って何だったの?」

「ん? ああ……それは今言った、マリエルの事だよ」


「マリエル? マリエルがどうしたの?」


 それで私が尋ねるとリオンは私をまっすぐ見つめて言った。


「……リゼ。マリエルは英雄一族の魔法阻害を無視出来る」

「……え?」


「リゼは覚えてないかも知れないけど、マリエルはリゼを助ける時に魔法を使ったんだ。それも海に穴を開ける位強力な魔法を。英雄一族は生きてさえいれば魔法阻害が働くんだよ。それにあの時は僕もすぐ傍にいた。なのにマリエルは魔法を使ってリゼを助けたんだよ」

「……どう言う、事……?」


「理由は分からない。だけどあの子は僕らの魔法阻害を無視して魔法が使える。だとしたら以前、教導寮で壁を駆け上がった事も全部説明がつくんだ。彼女の身体能力も全部魔法だ。正確には魔力による身体強化だと思う。あの力を見る限り魔法阻害を無視してるんじゃ無くて魔法阻害を超える魔力をあの子は持っているのかも知れない」


 おうふ……流石主人公、想像を軽く飛び越える。英雄一族の魔法阻害を貫通する魔力だなんて非常識も良い処だ。そう考えると津波から唯一生き残ったのもその後集落の人達の遺体を回収したのも全部マリエルがやったのかも知れない。普通の人には絶対不可能な事を実現出来てしまう――そんなの主人公にしか出来ない筈だ。


「……それって……実は物凄い事なんじゃないの?」


 だけど私が何とかそう言うとリオンは首を横に振った。


「凄い、ってだけじゃ済まないよ。そんな英雄一族を超える力を持つ人は他にいないんだ。これが発覚すれば下手をすれば処刑、良くても王国の管理下に置かれる。幸運だったのはリゼを助ける時に他の誰も見ていなかった事だ。この事を知ってるのは僕とリゼだけだから」

「え、なんで?」


「考えてもみなよ。イースラフトやグレートリーフは他の国と戦争してる。それも英雄一族が大きく関与してる。それを覆す力があれば必ず他国は放っておかない。リゼの魔法も大概だけど、マリエルの力は直接今の戦況を覆しかねないんだ。だから魔法阻害の中であんな強大な魔法を使える事は他の誰にも絶対に知られちゃダメだ」


 そう言われて私は軽い眩暈を感じて目を閉じる。私の時は英雄一族で公爵家と言う事もあったから無理やりにでも守ろうとしてくれたけどマリエルは違う。男爵家の養子だけど元平民って肩書きだ。そんな彼女を守れる人はきっといない。下手をすれば対英雄の兵器として悪用されるに決まっている。そうなれば王国もきっと処分を考える。


「……リオンはマリエルを守ろうとしてくれるの? 幸運だったとか誰にも知られちゃダメとか、マリエルを助けようと思ってるよね?」

「そりゃ決まってるだろ? 彼女はリゼを助けてくれた。そんな子を僕は絶対に見捨てたりしない。ただ、事情が事情だけに頼れる大人が思いつかない。正直な処、どうすれば良いか皆目見当が付かないよ」


 部屋に入ってきた時からリオンが難しい顔をしていたのはどうやら私に対する罪悪感だけじゃなくて、マリエルの事をどうすれば良いかずっと考えていた為みたいだ。だけどそう言われて初めて気付く。


「……そう言えばマリエルは今、どうしてるの?」

「うん? 僕とセシルは彼女に泳ぎ方を教えて貰ってたんだけど今は一緒に戻ってるよ? だけどずっと何か落ち込んでるみたいだ。リゼに会わないのか聞いても何故か余り気が進まないみたいだ。リゼを助けた後、もう本当に抱いたまま離れようとしなかったんだけどね」


 それを聞いて助けられた事を思い出す。余り覚えてないけど薄らと記憶に残ってる。あの時マリエルは必死の形相で私を助けようとしてくれていた。あの時の言葉が本当なら彼女は過去を引きずっている。


「……そっか。まあ、少し時間が必要なのかもね」

「うん? リゼは何か知ってるの?」


「ううん。知らないけど、何となく……ね?」


 それでリオンとの相談は一旦お終いになった。お互いにどうするか考えると言う事でそのままリオンは部屋を出ていく。部屋に一人残された私は横になると陽が沈んで空に星が瞬き始めるのを眺めていた。


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