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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/正規生編(15歳〜)
105/314

105 無邪気な主人公

 マリエルはクラリスの魔眼を受け付けない――それを聞いて私とリオンはかなり驚いた。考えてみればクラリスは『あの人は誰か』ではなく『あれは何か』と尋ねた。その時点で気付くべきだった。


「……あの人は、何て言うか……魔眼で見ると真っ黒な影みたいになっていて、何も見えないんです……」

「……クラリス、それって人間に見えないって事?」


「いいえ、魔眼を使わなければ普通のお姉さんに見えます。私の魔眼って相手を知りたいと思ってると見えるんです。だけどあの人は全然見えません。何を考えてるのか分からなくて、怖い……です」


 それを聞いて私は少しだけホッとした。マリエルが人外とかそう言う話じゃないみたいだ。ただ単純にクラリスの魔眼でもマリエルの考えが見れないと言うだけみたいだ。クラリスの怯え方もそう言う物じゃなくて、普段の習慣として魔眼を使う癖が身についているから見えない相手で戸惑っている様に見える。


「……どうやらリゼが言ってたみたいに、あの子は見た目通りの女の子、って訳じゃないみたいだね」


 リオンがそう呟く。私は無言で頷くと彼に話し掛けた。


「……以前、私に見える本の話をしたでしょ? あの子がその本の主人公なの。私はそのライバル……の筈、なんだけど……」

「筈、だけど……何?」


「……なんか私、凄く懐かれてるっぽいのよね……ほら?」


 そう言って私が促すとリオンも同じくマリエルを見る。彼女はシルヴァン達に囲まれながら少し困った様子だ。時々私の方へ助けを求めるみたいに視線を送って来る。どうやらマリエルは男子を相手にする事に余り慣れていないらしい。それでリオンも苦笑するとため息を一つ吐いた。


「……まあ、シルヴァン達の例もあるから多分、あの子が直接リゼに危害を加える訳じゃないと思う。これまでに起きた事を考えるとむしろ彼女がいる事で周囲がどんな反応をするかじゃないかな?」

「うん……私も多分、そうじゃないかって思ってる」


 私がそう答えるとリオンは頷いた。


 これまでに起きた事は誰かが直接私に対して敵意を向けた訳じゃない。確かに正規生には敵意をぶつけてきた人がいたけど登場人物の誰かが煽動した訳でもない。むしろ皆とても友好的だったし私を陥れたりもせず、逆に助けてくれようとする。その事を考えると現時点ではマリエルもきっと私に対して悪意や敵意を持っていない。


 だけどリオンは一度私の顔を見ると苦笑した。


「だけど……あの子はリゼに似てると思うよ」

「え? マリエルと私が……似てる?」


「うん。性格とかそう言う意味じゃなくてね。多分、シルヴァン達は彼女にかなり好意を抱いてる。特にバスティアンは先に出会っていた分、それが顕著だ。シルヴァンも言ってたけどリゼもあの子も小さい子供みたいで貴族相手に物怖じしない。普通の貴族やシルヴァン達は多分、そう言う相手に慣れてない。だからリゼに対しても好意を持っていたんだと思う」


「……それってリオンはどうなの?」

「僕がどれだけリゼと一緒にいると思ってるんだよ。それに皆も僕とリゼが婚約してると思ってたみたいだし、だから一線は超えない様にしてたんじゃないかな。だけど――あの子は違う。マリエルはどう見ても婚約者なんていない。あの無邪気さに当てられて好きになってもおかしくないと思うよ?」


 だけどリオンがそう言って私は思わず彼の顔を凝視する。それってつまり、もし婚約してなかったらリオンだってマリエルを好きになってたかも知れないって事じゃん。それはそれでイラッとする。


「……それってリオンもそうなってたかも、って事?」

「リゼは僕と最初に出会ってるだろ? それに今はこうやって婚約もしてる。こうなってるのはリゼが僕と出会う展開を望んでくれたからじゃないか。だからこうなってない状態の僕がどうなってるかなんて言われても僕の所為じゃないだろ?」


「……そ、それは……まあ、そうなんだけど……」

「兎に角知らない可能性に焼き餅を焼かれても困るからね?」


 そう言われて私はハッと我に返った。焼き餅……これって焼き餅なの? え、確かに微妙にイラッとはしたけど。でも冷静に考えると私だって恋愛に敗れたマリールイーゼ本人だ。本気で恋愛にのめり込むと酷い事になる気がする。それがブレーキにもなっている。


 兎も角、どうであろうとマリエルは要注意対象だ。クラリスの魔眼が効かないなら対策を練る事も出来ない。相手のカードを見ながらイカサマ勝負という訳にもいかない。そうなるとテレーズ先生に教えて貰ったレディクラフト位しか私にはもう打てる手がない。


 いやもう、本当にレディクラフトに興味を持って良かった。学びたいと思っていなかったら本当に何も出来なかった。


 そして必死に私へチラチラと視線を送るマリエルに声を掛ける。


「――マリエル、教室に行きましょ。シルヴァン達もそろそろ行かないと先生に叱られちゃうよ?」

「あ、うん。そう言えばそうだね」


 それでマリエルは私の処に駆け寄って来る。まるで子犬を見ているみたいだ。


「ルイちゃん、ありがとお! もう私、どうしようかって思って物凄く困ってたの!」

「……マリエルって男の子は苦手なの?」


「苦手って訳じゃないけど得意でも無いよお! 男の子ってすぐに女の子を虐めたりするし! でも貴族の男の子は優しくてちょっとびっくりしたかな!」

「あ、あはははは……まあいいや。取り敢えず教室に行きましょ。セシリアとルーシーも、早く行かなきゃ」


 そして私達は講堂から教室に向かって歩き始める。私とマリエルの後ろにセシリアとルーシーが無言で続く。だけどこの時の私はルーシーが唇を噛んでマリエルを睨んでいる事に気付いてなかった。


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