表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
103/317

103 再会、そして

 あれからアカデメイアでの生活は穏やかだった。三ヶ月があっと言う間に過ぎて夏季休暇、私とリオンは実家に戻って過ごした。


 そして九月からは遂に本編が始まる。つまり主人公マリエルと攻略キャラ二人が入学してくる。最近は穏やかに過ごしているけど正直それまでに酷い出来事が起こり過ぎて余り緊張感も無い。気をつけようとは思うものの、具体的に何をどうしても対策にならない事だけはこれまでに経験している。


 夏季休暇が終わる二週間前から私とリオンはアカデメイアの寮に戻っていた。何故かと言うと授業が始まる二週間前から入寮手続きで新入生がやってくる為だ。対策は無理でも警戒だけはしておいた方が良い――リオンからそう言われて早速私は彼と一緒に戻った。


「――ほら、リゼ。この上に座って」


 寮の手続きをする受付のすぐ近くにある木陰でリオンが上着を脱いで草の上に敷く。女子が座る時に男子がよくやるアレだ。だけど正直慣れない。


「……んー、大きめの布を持ち歩いた方が良い様な気がするんだけど……」

「そんなの荷物になるだろ? それに男子の上着って軍服と同じだから耐水性もあるんだよ。色も黒いのは汚れが目立たない為だし」


「……やっぱり、なんか落ち着かない」

「いいんだよ。男だって草むらに寝転がる時は自分の上着を敷いてその上に寝転がるんだから。表側が汚れなきゃ良いんだよ」


 それで仕方なく腰を下ろす。アカデメイアの正門からは入寮手続きをする為に新規生の姿がちらほらと見える。男子は一人で女子は侍女や執事、それか親と思しき人が同伴で訪れている。


 それとやっぱり女子は髪を伸ばした人が大半だ。基本的に女子は社交界で髪を結うから仕方ない。まあ私もその為に伸ばしているし人の事は言えないけど無個性になりがちなんだよね。


 木漏れ日に思わず顔を上げる。大分涼しくなったけど日差しはまだ結構強い。目を閉じてぼんやりしていると不意に視界に影が差して私はうっすら瞼を開いた。


 逆光で顔が見えないけど女の子らしい生徒が立っていて、私の上に影を落としている。肩口で切り揃えられた髪がふわっと広がっているのが見える。それで誰かと思っていると人影は口を開いた。


「――マリーちゃん! 約束通り、私、来たよ!」

「え……その声って……もしかして、マリーさん?」


「うん! すっごく会いたかった!」


 そう言って彼女は私に抱きついてくる。髪からはお日様の匂いがして確かに彼女だ。だけど髪型が随分変わっている。以前に会った時は凄い癖っ毛で伸ばした髪が酷い事になっていたのに今はスッキリした感じになっている。


「……久しぶり……だけど髪、切ったの?」

「うん! 私、癖っ毛が酷くて結うの無理っぽいから。それでお父さんと相談して切っちゃった!」


 そう言って彼女は私から離れると髪に触れて笑う。だけど印象が変わり過ぎて変な感じだ。前髪もさっぱりして前は隠れていた顔がはっきり見える。赤く見える茶色っぽい瞳がキラキラしている。


――あ、れ……? 赤い、瞳……?


 なんだろう、凄く落ち着かない。妙な不安につい黙り込んでしまう。そんな私の隣でリオンが私の肩を指先で突ついてきて振り返ると彼は首を傾げた。


「……リゼ、この子は?」

「あ、ああ……前に言ったでしょ? クラリスと一緒に特待生の試験を受けてたマリーさん。あの時は落ちちゃったけど今年、新規生で入学出来たみたい」


「あー……そう言えば言ってたね。バスティアンに手伝って貰って勉強会をしてたんだっけ」


 それでリオンが納得のいった顔になると今度はマリーさんが不思議そうに首を傾げた。


「ええと……マリーちゃん? こっちの男の子は……?」

「あ、えっと……これ、リオンって言うの」


「……これって何だよ。ええと、リオン・エル・オー・アレクトーです。よろしくね、マリーさん。リオンって呼んで下さい。それとこれでも一応、リゼの婚約者です」


 だけどそれを聞いてマリーさんは両手で口元を押さえる。頬が赤く染まって彼女は私とリオンを交互に見つめた。


「えっ⁉︎ マリーちゃん、婚約してるの⁉︎ 凄い、私よりちっちゃいのにもう結婚の約束してる男の子がいるんだ⁉︎」


 うんうん……そう、これだよ。普通は婚約なんて言えばこれ位の反応を見せてくれなきゃ。まあ『ちっちゃい』って言うのは引っ掛かるけど期待通りの反応がやっと返ってきて笑ってしまう。そんな彼女はリオンに向かって深々と頭を下げた。


「よろしくね、リオン君! あ、ええと私の事はマリーって呼んでくださいね! マリーちゃんとは前にお友達になったんです!」

「うん、それは聞いてるよ。バスティアンも友人だから、何かあれば僕にも何でも相談してね。それでマリーさんは何処の家の人?」


 リオンにそう尋ねられてマリーさんは草の上に膝を付くとにっこり笑顔になった。


「あ……ちゃんと名乗らなきゃですね! 私、マリエル・ティーシフォンです! マリエルだから皆は私の事をマリーって呼びます! そう言えばマリーちゃんにもちゃんと名乗った事がなかったね! これからもよろしくね、マリーちゃん!」


 それを聞いた瞬間、私とリオンの首が傾いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ