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悪役令嬢マリールイーゼは生き延びたい。  作者: いすゞこみち
アカデメイア/準生徒編(12歳〜)
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102 意外な真相

 私がセシリアとルーシーに引っ張られてリオンの部屋に行くと、そこでは男子達ががっくりと項垂れていて同じくリオンがキョトンとした顔になっている。シルヴァンも苦笑しているのが見える。


「……な……ま、まさか……マリーさんとリオン君が、婚約してなかっただなんて……してるとばかり、思ってました……」

「……俺も……かなり、驚いた……」


 そう言ってバスティアンとヒューゴの二人が呻き声をあげる。そんな様子にシルヴァンが感想を述べる。


「……まあ、普通はそうだろうな。二人はどう見ても婚約してる様にしか見えなかったし。僕もびっくりしたけど何か変だとは思ってたからそれほど衝撃は受けなかったんだよな」

「……ちょっと待ってくれ、シルヴァン。もしかして僕とリゼって入学する前から婚約してるって思われてたのか?」


「決まってるだろう? 男女がいつも一緒にいれば普通は婚約してるって言うのがこの国では割と定番だよ? リオンとマリーは入学した時、男女でずっと一緒にいた訳だしね?」

「……そうだったのか……」


 そんな二人のやり取りを聞いていて私はやっと理解出来た。つまり私とリオンはもっと以前から婚約していると周囲から思われていたと言う事だった。


 思い返してみるとセシリアとルーシーの二人もアカデメイアの最初の授業では女子だけで集まっていたしアンジェリンお姉ちゃんだって一人だけで座っていた。あれは別に男女がグループに分かれていた訳じゃなくて単純に男女で一緒にいれば婚約していると思われるからだったのだ。当然私もそんなの知らなかったしリオンだってイースラフトにはアカデメイアなんてないから当然知らない。私は膝から崩れ落ちると床の上に両手をついて項垂れた。


「……くっ……私、この世界の男女関係、甘く見てたわ……」


 考えてみれば当然の話だ。貴族の子供達が集まる学校なんだから男女が親密な訳がない。それに教導寮の幽霊騒ぎの時だって男女が隠れて出会っていると聞いて疑問に思わなかったけど、当然の様に一緒にいれば周囲に『お付き合いしてる』と告知するも同然だから隠れて出会っている訳で。


 うん、まあ、そりゃそうだよね。大体授業だって殆ど男女別だし一緒でも男女が綺麗に分かれる。それに他の生徒も男女が一緒にいるのを殆ど見た事がない。それでも一緒にいるのはきっと婚約してたりお付き合いしてる事が公表されている男女だけだ。


 基本的にアカデメイア内で男女が触れ合う機会は限られる。一番簡単なのはダンスの授業でペアを組む時だ。逆に言えばその時しか男女が進んで触れ合う機会は無い。男女が水と油みたいに綺麗に分かれている。それにどんなに騒がしい令嬢も異性がいればそれだけで猫を被って静かになる。実際にセシリアやルーシーも私がいる時は男子と話すけどそれ以外だとほぼ話す事がないみたいだし。


 そりゃあいつも一緒の私とリオンは物凄く目立つだろうし反感を買った事もあったかも知れない。風当たりがきつかったのもそれが原因だった可能性まである。準生徒は割と男女一緒に集まる事が多いけどアカデメイア側が私やリオンを中心に準生徒達が集まっていると考えたとすればそれも当然だ。


――あれ? と言う事は……主人公マリエルは貴族令嬢が出来ない事が出来る平民だからこそ反感を買う事になるって事?


 不意にそんな考えが脳裏を過った。だってマリエルは貴族と違って異性に対して普通に話し掛けられる筈だ。だって平民には異性と話せない奥ゆかしさなんて感覚がない。異性と一緒にいても婚約を疑われる認識自体がない。異性と話したくても話し掛けられない貴族令嬢と違ってマリエルは普通に話し掛けられる。


 そして今の私――と言うかアカデメイアに入った私はリオンといつも一緒で他の男子相手に話す事にも全く抵抗感がない。だって私は叔母様の処に行ってリオン達兄弟、男の子達と一緒に過ごす事に慣れている。貴族がどうとか男女の付き合い方なんて物とは無縁でそう言った常識自体が無い。


 それはマリエルと全く同じと言う事だ。つまり私が今までに受けた嫌がらせや陰口って全部、マリエルが受けたであろう嫌がらせだった可能性が物凄く高い。


「……バスティアン。ちょっと聞きたいんだけど」

「……え、はい。何ですか、マリーさん……?」


「もし私が婚約してなかったとしたら私の事、どう思う?」

「え……え、そりゃあ……可愛いと思いますよ。マリーさんみたいに普通に話し掛けてくる令嬢なんて他にいませんし……」


 何と言うか、私が尋ねた途端にルーシーから凄い圧みたいな物を感じる。それで同じ様にヒューゴにも尋ねた。


「……ヒューゴは? 私の事、どう思う?」

「俺か? そうだな……他の令嬢と違ってマリー様は話し易い相手と言うのは確かだ。セシリアとも多少話すがマリー様程話し易くは無いからな。自然と好感度だって高くなって当然だと思うぞ?」


 セシリアからも緊張した気配が漂ってくる。だけどルーシーとは違って圧までは感じない。それで最後にシルヴァンに尋ねた。


「……シルヴァンは?」

「……その質問の意図が分からないけど、従兄弟って前提で言うとマリーは可愛いと思うしかなり興味もある。身内として言わせて貰うとマリーは警戒心が無さ過ぎる。前にも言ったけど小さい女の子みたいで無邪気過ぎるんだよ。だから大抵の男は話しただけで興味を持つし好きになったりもする。もしリオンがいなかったら告白して婚約を望む男は結構多いんじゃないかな?」


 そのシルヴァンの答えが決定打だった。要するに男女が触れ合う機会が無さ過ぎる環境で、基本的に社交界で公式に出会う場でしか異性と触れ合わない。だから私みたいな話し易い女子には興味を持ち易いし好感も抱き易い。だって他の女子は本当に会話自体が成立しないから。箱入り息子と箱入り娘が集まっても貴族の習慣があるから会話自体が発生しない。異性に興味があっても触れ合おうとはしないからそれ以上関係が進まない。そんな中で親しげに話してくる異性がいれば興味を持つし好感――好奇心も刺激されるだろう。


「……まぁーりぃーい? もしかしてバスティアンにも手を出そうとしてる? この悪女め!」


 ルーシーが凄い目で私を睨みながら耳打ちしてくる。それで私はため息を吐くと少し頬を引きつらせながら答えた。


「……ルーシー。要するに皆、箱入り過ぎて会話しないから相手に興味を持たないんだよ」

「……え。どう言う、こと……?」


「だからルーシーももっとバスティアンに話し掛けまくればバスティアンもルーシーに興味を持つって事。ルーシーがバスティアンを好きならもっとお話を一杯しないとダメって事よ?」


 だけど私がそう言った途端ルーシーは顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。そう、同性同士なら強気に言えても異性が絡んだ途端に奥手に変わる。それがこの世界の貴族令嬢だ。


 そしてセシリアは嬉しそうな顔になったり複雑そうな顔になったりと落ち着きがない。きっとセシリアの場合は同じ辺境伯家と言う事もあって軍事教習を受けてるから割とヒューゴと話す機会があるんだと思う。何よりヒューゴの口から自分の名前が出たのが嬉しいみたいだ。


 そんな二人を眺めているとリオンが近付いてくる。思わず視線を逸らしてしまう。だけど彼が尋ねてきて私は答えた。


「……リゼ。何かあった?」

「……ううん。でも……今までの理由が分かった気がする……」


「今までの理由?」

「……うん」


 私はリオンに頷く。だけどそれ以上何も言わなかった。


 きっと私は主人公マリエルと同じ事をしていた。それは異性に対する言動だ。この世界の貴族は男女関係に厳粛で気安く異性と会話したり出来ない。したくないのではなく、したいけど出来ない。


 特に家督を継がない令嬢にとって貴族男性は近付かないとならない相手なのに気安く男性に近付く事は令嬢としてふさわしくない事だと貴族の倫理観や習慣が邪魔をする。


 なのに平民のマリエルや私は容易く男性と近付ける。特に私の場合は公爵家令嬢で貴族の頂点だ。隣国の公爵家出身のリオンが婚約者だと思われている上、王族のシルヴァンや上流貴族であるバスティアン、ヒューゴもすぐ傍にいる。それが出来ない貴族令嬢にとって私は主人公と同じく忌々しい対象だ。普通は婚約すれば婚約者以外に近付かないとアンジェリン姫も言っていた。なのに私はリオン以外とも割と普通にやり取りしている。


――そっか。私は嫌われるべくして嫌われてた訳ね。


 乙女ゲーム全般で主人公達が他の貴族令嬢達から嫌われる理由が良く分かる。彼女らは嫌われる事をしているから嫌われている。貴族社会では当然の事がプレイヤーには分からない。文化や習慣の違いが善悪の基準と一致していない。プレイヤーにとっては主人公が善で被害者に見えても実際は令嬢達にとって絶対悪なのだ。


「……リオン。私、リオンと婚約して良かったかも」

「え? え、なに、リゼ、急にどうしたの?」


「婚約して初めて色々気付けたかも。私はリオンだけを見て他の男子に近付いちゃダメだったのね。これからは気をつけるね」


 だけど私がそう言うとリオンは私の頭を撫でて笑う。


「別に構わないよ。皆、僕とリゼの共通の友達だもの。それに最近はリゼも僕の事を意識し始めてくれてるみたいだしね?」

「え、意識って……別にそういうんじゃ……」


「だって最近、リゼは僕と会った時に最初、視線を外して顔を赤くして俯いちゃうだろ? こうなるまでに一〇年以上掛かった訳だし今更普通の貴族令嬢みたいな事をしてもリゼらしくないよ?」

「……うぐっ……」


 これって婚約者公認って事なの? まあそれならそれで気楽ではあるけど。でもちょっと気を付ける様にしよう――私は頭を撫でられながらそんな風に考えていた。


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