母は侯爵令嬢の取り巻き、私も……
「では、こちらで貴方達も入れて続きを」と、私の母上が口を開く。客間に入ると、メイドがお茶の準備をしていた。最後に私が腰かけると、母が「さあ、お茶をどうぞ」という。
私の前には、コンスタンスのお母上のモーガン公爵夫人が座っている。
この国の社交界の頂点におられるとされる方で、若き日から最高の美女、完璧な美貌そして才媛として高名で、学園では彼女目当てに生徒(女子も)や教師関係者が群がり危険なため初めて(本来は王族も寄宿舎ですが……今もそう)通学を認められた。実家の侯爵家は国内随一の肥沃な領地を持ち運営も得意という屈指の大富豪のせいもあり求婚者がひっきりなしだったという。今も変わらぬ美しさで夜会で一番目を引くのは居並ぶ令嬢、令夫人を差し置いて公爵夫人である。しかも実家の侯爵家にはシュタイン王国の血が入っている……世間には非常に厳格で畏怖されるが、一部の人間にはお茶目で人を笑わすことが好き……というのを知っている。私はよくからかわれたりされてしまう。
「ねえ、キャサリンこれどう思う?」
モーガン公爵夫人は、テーブルの上に広げられている色々な大量の書類の一つをを指さして言う。
「これは礼拝堂の装飾の予定ですか。何種類あるのですか……でも、最初のが一番良いのでは」
と私が答えると、彼女は「ほら、貴方の娘もそういっているじゃない」と私の隣に座っている我が母上を見つつ言った。「そうね。確かに一番だわね……」と呟いた。モーガン公爵夫人は続けて
「彼女二枚目がいいと言い張ってたのよ……」という。それに対して母は、
「こ、これは、貴方が好きな色や形式なので……何時もならこれを選ぶと思っていたのですのに、……外れてショックですわ」と言っていたが、いつもこんな感じである。
私の母は昔、侯爵令嬢の取り巻きと言われるような令嬢だった。結婚後も社交界でもずっと一緒にいる。取り巻きってだいたい物語上では本人に向けられない恨みを結構買うのよね……私も、小さいころお茶会とかで、コンスタンスにくっついて歩いてたので、言われていたと思うけど。お二人が基本敵の居ない人だから、いいけど。もちろん、この親子に挑める人間はこの国には居ないだろう。完璧、隙がない、そして、人たらし。コンスタンスの口癖は、陰口とか最低大っキライ、何かあるなら正々堂々と寮のドアをノックしなさいというものだ。カッコいい。
でも、やっぱり苦手は苦手、ついつい緊張してしまうのだ。
結婚式の中身はその辺のロイヤル・ウェディングよりも凄い。ここまで、する?と思ってしまう。ロイヤル・ウェディングの代わり?そういう扱い?ああ、そうね、王家も入っているようなので、多分、王太子の式の予行練習なのかもしれない。
私の結婚についての話も出たが、この国も向こうの国もお式のドレスは花婿側が用意するらしい。この休み中に仕立て屋さんなどが来て採寸させらせた。今日はなぜかコンスタンス用のドレス候補……候補なので待ち針が沢山刺さっている……を何枚も着せられた。ステップを踏まされたり、部屋の隅から隅へ歩かされたり……で、婚礼の衣装に動きやすさ求めるかと思ったが、式の時の最初のダンスを完璧にしたいそうだ……というわけで私はマーナと組んで踊らされた。マーナは貴族の端くれと言ってたが、実際には弁護士の娘である。学園の卒業生で私の五年ぐらい上だ、何でもできる人で爵位があれば……と教師たちから言われている。そのため非常にダンスなど上手い。男性側のダンスも。
その後は……招待客のチェック……貴族やブルジョワジー、医者、弁護士、海軍や陸軍士官などこの二家の知り合いなど多岐にわたる。彼女自身も顔が広く、兄は軍属でもあるし……この礼拝堂こんなに入るの?と思ってしまう。きつそう。喧嘩起こらない?別派閥の人もいるし、貴族以外を人間と思っていないご夫人も居られる……なんか怖いわ。あと、演出とか色々……夜会のメニューなども。
その後やっと解放されて部屋へ……マーナに、
「どーして、私が着なきゃなのよ」などと愚痴っていたら、コンスタンスの声が……
「だって、貴方に入ったら私には絶対入るもの……身長もまあ同じでしょう?それにね、仕立て屋さんは家に来るしね、さすがにまだ他家なのですから着替えはいけないわよ」
「そう……で、何でいるの?帰ったのでは……」
「母だけ帰ったのよ。といいつつ公爵夫人同士外で話しているみたいだけど……」
「本当に仲いいのね」「で、本題よ」
「本題?」「エミリーのことよ」
と彼女は私の普段の姿に呆れつつ言う。
それに対する私の答えが、
「ああ、忘れて……」なので心底呆れられた。ごめんなさい。あなたがた親子に会うと疲れる。なんか疲れるの……
「そもそも、何でエミリーなの?そりゃあ仲はよろしいけど、私もご一緒させていただいた事もあるけど、みんなでピクニック程度よね……王家の結婚よ、気持ちは別では?彼女は優秀だけどね、あの……天然……しかも、計算されたものではないのよ。すごく不安。シンデレラって絶対後が大変よ……」
とまくし立てて、また引かれてしまった。