使節団
ニ十年ぐらい前、我が国とクラレンス王国にて、前後して王太子の婚儀が行われた(もちろんこの二国の結婚ではない)それを機に民間では細々と交流があったが、国同士でも行われだした。そして、数年に一回正式な使節団を送りあうようになった。
私の父ヒューズ公爵はとある年に何回目か連続でそのメンバーに選ばれた。兄のライアンとは五才ほど離れていて、この時兄は二回か三回目ぐらい行っていて、私は初めてだった。
二国間は馬車で一週間ほどの行程で、道中の宿場町では宿や領主の居城で歓待を受ける習わしがある。兄は、容姿端麗で、性格も良く、人当たりも良く出会った人全てを魅了するといわれている人間で、それは子供のころ初めて来客にあった時からも発揮されていたらしい。次にお会いできるのは……楽しみですな……と言わせることができる。一緒に家族でお出かけすると本当に兄妹?と昔、そういう話が聞こえてきたこともあった。
これについては、声を大にして叫びたい。同じ両親から生まれても似てない兄妹がいるのだと……
「お嬢様、口に出ていますよ……」
とマーナが微妙な顔でこっちを見る。
私は答えずに色々書いているノートを持って、ソファーに横になり、突っ伏した。
もういいや。今日は祝日。どうしても寮に残る人もいるが、家が近い人は帰るが、遠い人は家族も一緒にホテルに滞在したり、級友のお屋敷に招かれたりする。私はだいたいいつも祝日は領地の家に帰っている。そうすると何人か遊びに来る。兄目当ての人もいる。
クラレンス王国に入ると、お迎えの使者が来てその日はそのまま領主のお城で歓待を受けた。その場所は、我が国では珍しい温泉や南方の植物を集めた公園もある。お城にも温室がある。そこがナイジェルの家の領地である。
王都に入って少しで、使節団の滞在場所である離宮に着いた。離宮は王都の中心部にある。王都の少し離れた高台のところに国王一家がお住いの王宮があり、この離宮は、国賓の滞在場所やお祭りの際王家の秘宝を公開する場にもなる。この国では温室が好きなようでここにもあり、市民に公開されている。どちらの宮殿も、ガラスを基調とした大広間と謁見の間を備えており、色は白や青で統一され、非常に洗練された美しい宮殿だ。我が国は少し装飾過剰な所があり、特に宮殿はちょっとやりすぎの部屋もある。
使節団は歓迎行事がたくさんあり、正式な会談や同行の夫人や令嬢令息も参加する、夜会やお茶会ももちろん慈善活動などがある。十日ほどの期間に予定が詰まっている。
といっても、十才以下の子達は余り参加せず、みんなで離宮の温室に入り浸っていた。 私は今も仲良しの、ブラン伯爵令嬢メリルとケリガン男爵令嬢エミリーと一緒にいた。
そんな中、日程も後半に入った頃、王宮にて、ガーデン・パーティーが行われた。これは、この使節団に対する公式行事ではなく、クラレンス王国においてのかなり重要な年中行事であり、それに参加させてもらっている状況である。これは、今までの使節団には無かった待遇である。
なので、この日は朝から使節団全員、使用人まで物凄くピリピリした状態であった。
王宮のお庭は整然と配置された庭園から、お花の種類が多く細かいテーマを表した庭園まで色々なタイプがあってとても広大で、温室、東屋などがあり、王都全体を一望出来る見晴らしの良い丘もある。
ガーデン・パーティーは儀礼的で子どもにとっては楽しいものではなく何とか耐え抜いた感じである。それでも何事も無く全体の行事は終わり、歓談の場になった。ここで大人と子供で別行動になった。
子女達はそのまま庭園にて、茶会とかはなく立食の形式だった。美味しそうなケーキやパンや普通の食べ物などがあり、それを自由に食べまくる子達は国関係なく大声でしゃべりつつ楽しそうにしていたが、大体はお互いの国でまとまり、おつきの侍女や乳母も巻き込み牽制しあっていた。私はメリルとエミリーとで東屋にてお茶会風の事をしつつ周りを眺めていた。
「しかし、よくあんなに食べられますね……」
「あら、あの牽制は楽しいですわ、ファッション対決……」
このころの私達より少し大きい子女達が、ドレスを見せあっている。くるくる回ったりして、軽やかに踊り出しそうだ。
「ここもそんなに服の流行は変わらないですね」
向こうの庭園の奥には、ピクニック用の草原がある。そこでは、クラレンス王国の年少の貴族の子女達が、花束を作ったり、花冠を作って載せ合ったり、後、花束を少女に捧げる少年もいた。
「いやぁ、微笑ましいですね」
この庭園にあった本当にとても美しい光景が繰り広げられている。そんな中、
「あのお年からまあ、あの方は侯爵のご子息、夢見勝ちなお嬢さんを泣かす罪深い殿方が出来ますわ」
私たちはさすがに振り返った。今までぼーっと会話を聞いていたが。
さっきから私たちの背後でメイド達が話している。さっきの発言は男爵家のメイドであった。
「なにそれどんな妄想ですか……今、何をお読みなの?」
伯爵家のメイドがたずねた。男爵家のメイドは、
「後で紙に書いてお渡ししますわ」
と、ニッコリ答えた。三人組は私達がずっと仲良しなのもあり、ある意味親友のような感じではある。
しかし、背後の三人組のそばには、両国の使節団の貴族のメイドさん達も親しげに話している。さすが、皆さん情報収集要員も兼ねているといわれるだけあって、すぐ打ち解けられる。なので、余り変な事は言って欲しくないと子供心に思っていた。