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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君と出会えてよかった

こちらはBL要素を含む短編小説となります。

「うわー、やばい。ネクタイのせいで時間無くなったし、せっかく髪セットしたのにボサボサじゃん・・・」

「ほらー早く門に入れー。入学式から遅刻することになるぞー。」



 門には桜をイメージした花が飾られ、春らしい雰囲気だった。

 俺も含め、周りの数人が先生の声に反応して駆け込む。



「広いんだよこの学校。」


 俺は無意識に独り言を言っていたらしい。



「そうだよなー。わかる。あっ、ごめん、勝手に返事しちゃった。」


 これが俺と幸司との出会いだった。



 俺は矢田聖弥。今日からこの高校に通う新一年生だ。


「早く教室入んないともうギリギリじゃね?」


 そう声をかけてくる幸司の軽快な声が妙に安心感を与えてくれた。


「俺は高嶺幸司。俺のこと覚えてないよね?」


 俺は人見知りと独り言を拾われた恥ずかしさで会話も出来ず下を向いて顔を見れずにいたが、そう聞かれて顔を幸司の見上げる。

 バレーをやってる俺より身長が高く、顔は所謂、王道のジャニ顔。

 黒のブレザーを当たり前に着こなし、ぱっちりした二重に長めの睫毛。

 髪もサラサラで地毛の割に茶色味が強く朝の陽光の力でキラキラして見える。



「うーん、ごめん。俺地元が違うから知り合いとか多分いないはずなんだけど。」


 さっぱり思い出せない。


「大丈夫だよ。こうやって話すのは初めてだしね。」

「どういうこと?」

「だってヤダセイでしょ? 俺は全中で準決でフルセット負けした。」

「あっ、あー!」



 俺は記憶を辿り、着いた先はイケメンエリート集団と呼ばれ毎年全中に出場している超強豪校、犬学こと「犬宮学園中学」。

 犬学の歴史の中でも最高クラスレベルと言われ優勝候補筆頭だった。


 そんな犬学に俺がいた中学は奇跡的に勝利したのだ。

 その犬学の中でライトポジションでサウスポーのイケメンがいたような。



「もしかして、ライトの左利きの人?」

「そう! 覚えててくれて嬉しい!」



 喜んでいる幸司の笑顔がキラキラと眩しくて見惚れてしまう。



「すぐ気付けなくてごめん。」

「全然大丈夫! 知ら中で一回試合しただけだしね! それよりマジ走んないと時間ヤバいかも。」



「ふぅー、ギリギリセーフ!」

「たーかーみーねー、先生より教室に入るのが遅いなんて最初からやってくれるなー。明日から気を付けろよー。」


 初日から危なかったー。

 俺はふと幸司の方を見ると幸司は外を見ている。


 綺麗な横顔だなぁと俺は無意識に幸司を見つめていた。



「それじゃ朝のホームルームを始めるぞ。担任の慶樹高雄だ。数学担当で3年間一緒だ。」

「えー、先生私勉強は苦手でーす!」

「俺もでーす。」

「苦手だから何だよ、やるしかないだろーが。部活と一緒だ、頑張るしかない。」

「はーい。」



 さすが、スポーツ専門クラス。

 俺も含めて周りも程度に差はあれどみんな生粋の所謂、ザ・体育会系。


 そんな体育会系の高校生を纏める担任も色んな意味でパワーが無いと務まらない。


 先生は黒髪でセンターパーツ、二重で韓国アイドルがそのまま出てきたかのような雰囲気で幸司と2人で並ぶと少女漫画か雑誌の1ページみたいに映える容姿をしている。

 そんな描写に自己嫌悪に陥りそうになった俺は幸司がこちらを見ていたことに気付かなかった。



「入学式までまだ時間あるな。じゃあ先にこれをやるか。」


 そう言って渡されたのは自己紹介シート。


「体育館に移動するまでまだあと20分あるから全員しっかり書いてくれよー。それで教室出る時にここに入れていけー。自己紹介に何も書いてないやつがいたら、そいつは保護者の方にクレーム入れることになるからなー。」


 ヤバい。ほんとに苦手なやつだ。

 何書いて良いか全然わからない。

 自分のことを書くだけなのだがそれが難しい。

 幸司をちらっと見ると真剣な表情でシャーペンを動かしていた。



「時間だ、体育館へ移動するぞー。」

「うーっす。」


 元気もノリも良いクラスメイトたち。

 総じて男子人口が多め、女子は2割くらい。


 入学式の並び順は名字順に2列なので俺は1番後ろだ。

 俺は前にいるクラスメイトを観察していると幸司が目に入る。

 後ろ姿もかっけーよなぁ。

 絶対性格もいいしモテるよな。

 幸司と同じチームで試合出れるかなー? とか色々考えてると心が弾む。


 式自体はどこもやっているような校長先生が話しをしてくれるのを聞いて、生徒代表からの挨拶等を聞くだけ。

 ただこの学校の違うところは一年生の挨拶が2名あり、そのうちの一名はスポ専からだ。



「スポーツ専門クラス、咲月凌。」



 俺は聞き覚えのある名前が呼ばれたことで危うく寝そうになって下がっていた顔を上げる。

 ステージの壇上でスピーチをする彼は間違いなく全中一位のチームの選手。


 俺の中学は今話している彼にことごとくスパイクを止められ全国2位に終わった。

 それにより高校で日本一になりたいと俺は貪欲になり今こうしてここにいる。


「~~これからの高校生活、精一杯楽しみます。」


 咲月凌が一礼をし、拍手が鳴るなか席に戻っていく様子を俺はぼーっと眺めていた。


 それから俺は幸司の後ろ姿を見ていると幸司が後ろを向いて俺と目が合う。



 トゥクン



 そんな音が聞こえたような気がするくらい、俺は目が合っただけなのにドキドキして目を逸らしてしまう。



 その後は特にハプニングも無く入学式は終わり、教室で保護者と一緒に先生の話しを聞いて今日は終わりだ。

 教室に戻ると後ろに並ぶ保護者の中に母親を見付けるとその隣りにスタイル抜群の女性と話していた。


 元々は母親の影響で始めたバレー。

 スポ専でここに入りたい気持ちや寮生活も最終的には俺の為になると応援してくれている。


「聖ちゃん、元気そうで良かった。」


 母親が後ろから話しかけてきて、振り返ると満面の笑顔の母親と目が合う。


「母さん、恥ずかしいから。」

「なによー、母さんだけしか来れなかったからいっぱい聖ちゃんを見ておかないと次いつ会うかわからないでしょ?」

「それはそうだけど・・・」



 俺が口籠ると母親の隣りの女性が声を掛けてきた。


「あなたが聖弥君ね。さっきまでお母さんに話しを聞かせてもらっていたの。うちの息子もバレー部だからよろしくね。」

「はい、、、」


 俺は何と答えたら良いか分からずに曖昧な返答になってしまった。


「ごめんなさい、無愛想というかもう16歳になるのに人見知りが抜けないみたい。」

「大丈夫ですよ、うちの息子にわけてあげたいくらい。」


 そう言って親同士笑い合う。



 誰のお母さんなんだろう。しかもバレー部の息子。

 俺は教室を見渡す。雰囲気的に一番可能性が高いのは幸司だ。

 その次に咲月凌だけど、こっちは何というか凛々しい感じで雰囲気がちょっと違う。

 他にもいるのかな? そう思いながら再度見回すともう一人見付けた。

 確か幸司と同中の奴であれはリベロ君? リベロ君も同じ学校か。


 俺はもう幸司はもちろん今教室にいる他のメンバーとも一緒のチームでバレーが出来ると考えただけで顔がにやけてしまう。



「~~です。~~ということで、これから3年間このメンバーと後ろにいらっしゃる保護者の方々も長い付き合いになります。みんな仲良くなー。」



 キーンコーンカーンコーン



「それじゃあ今日はこれで終わりで明日からは普通に学校が始まるからみんな寝坊しないように。」


 みんなが教室から出ていく中で

「ヤダセイー!」


 幸司が俺を呼ぶ声がした。


「ヤダセイー?」

「はーい?」



 俺は幸司に返事をしながら声がした方向を見ると、母親たちと一緒になって話しているのが見える。


「ヤダセイのお母さんって良い人だな!」

「母さん何話したの?」

「何でしょう? 秘密。ねー幸司君。」


 何だろ? 気になる。

 俺の失敗話しなんて山ほどあるし余計なこと言ってないと良いけど・・・

 でも母親と仲良くなってくれたのは嬉しかった。



「矢田君は寮なんでしょう? それならたまには家に遊びに来てね。おばちゃん待ってるから。」

「かあさーん、ヤダセイは俺に会うために家に呼ぶわけだから母さんはダメだよー?」

「あら、良いじゃない? 幸司の新しいお友達と母さんも仲良くなりたいしね。」


 目の前では雑誌の撮影かなにかでモデル二人が話しているかのようだが、そんな二人の会話に俺は若干引きつつも


「ぜぜ、ぜひ今度お邪魔させてもらいます。」

「じゃあ次の部活休みのときか早く終わりそうなときなー! こういうのは早めに決めとかないと!」

「俺も久しぶりに幸司の家に遊びに行っていいか?」

「おう!」

「あっ、ヤダセイ、俺は犬学のリベロだった星乗龍気。」

「はっはじめまして、俺は矢田聖弥。」

「星乗君も鳳星に入ったんだね。」

「星乗君だとなんかよそよそしいから龍か龍気の呼びやすい方で呼んで! 俺もヤダセイって呼んでるし。」



 龍気はまだ幼さが見える感じというか、イケメン集団の犬学の中でも可愛い系だ。

 天パらしく髪はくるくるで少し茶色味があり目もぱっちり二重でくりくりしている。

 まさにトイプードルのイメージ。

 それにニコニコしていて人当りも良い。


 俺は龍気と会話をしていると、隣で幸司と咲月凌が話しをしていた。



「凌も来いよー。ねー母さん3人来ても良いよねー?」

「良いけど幸司の部屋だと狭いからリビングなら大丈夫じゃない? お兄ちゃんたちもいたら龍君久しぶりだし喜ぶわよ。」

「えー、兄ちゃんたちいたら結局狭いじゃん!」



 賑やかな親子だなー。

 俺はふと母さんを見ると、母さんは楽しそうに他の母親たちと話しをしている。


 俺一人で寮に入るとか言って心配かけてるよね? ごめんね。

 でも3年間やっていけそう。

 だから安心してね母さん。


「ヤダセイ、凌も寮らしいぜ。リョウもリョウって駄洒落みてー。」

 そう言って一人で笑っている龍気は楽しそう。



「今さらだよな。俺は咲月凌。よろしく。」

「よ、よろしく。」


 凌は所謂クール系イケメン。切れ長の目にちょっと流された前髪。

 着痩せするタイプなのか、身長から思わせる威圧感というかゴツさは全くない。

 すらっと見える外見はモデルさながらの立ち姿。


「さ、咲月君も一緒なんてなんか凄いね。」

「ははっ。凄いって何だよ? それに凌で良いよ。まさかヤダセイがいるとはなー。」


 凌は見た目からは話し掛け辛い雰囲気を醸し出しているが、実際はフレンドリーで笑うと目が無くなる。


 こっちはハスキー犬みたいだな。

 そんな風に考えていると、


「てかすげーよ! イケメンオールスターに選ばれた中の3人が目の前にいる!」


 龍気が楽しそうに話すその内容に俺は愕然とした。

 それはバレー雑誌の中の特集で


 ”全中参加チームの中からイケメンオールスターチームを作るなら”


 という内容でSNSも使って大々的に行われた読者参加型企画だ。

 選考基準は単純で、出場チームの選手の顔写真一覧がありそれには番号が振ってある。

 推しがいればその番号を投票するというものだった。


 何で俺が選ばれたのかわからないし、この結果は俺の恥ずかしい歴史であり、ヤダセイという呼び名もこの企画で付けられたものだった。


「うわぁ、そうだよな。そうだよなぁ。」


 改めて目の前の3人を見るとなんだか壮観だ。

 企画としてはチームメンバー選出ということで最終の順位までは発表されていなかったが、目の前の3人は明らかに上位だったはずである。



「そうだ、俺だけヤダセイってなんか恥ずかしいから俺も聖弥でいいよ。」

「そうかー? ヤダセイってわかりやすいし俺は良いと思うけど。」

「ヤダセイってその雑誌企画でついたあだ名なんだよね。」

「じゃあ聖弥でいっか。とりま入学記念に写真とろーぜー。」



 幸司が軽い感じで答えつつさらっと話題を変えてくれる優しさ。



「ハイチーズ。」

「俺のでも撮ってー。それで幸司が撮ったやつは送っといてー。」

「はいよーって俺、凌の携帯とか知らんから教えてー。」

「あーじゃあ俺のでもー! 俺はこのカメラアプリで!」


 俺からしたらイケメンに囲まれた記念写真なんて恐れ多いが良い気分でもあった。


「聖弥、聖弥? どうした?」

「あぁ、ごめん。ちょっと考え事。」

「あー、聖弥は記念写真とかで何故かよそ見してたりする奴だな!」


「あははは。」


 みんなで声を揃えて笑う。


 そして俺たちが写真を送り合ったりしていると先生から声がかかった。



「ほーら、もう今日は良いだろ? 明日から毎日会うんだしお前たちは同じ部活だろうが。教室締めるぞー。」

「うぃーっす。」

「お母様方も今日はご足労いただきありがとうございました。これから3年間よろしくお願いいたします。」

「あら、もうそんな時間? たかちゃんごめんなさい。これから幸司をよろしくお願いしますね。」

「ははは。」



 先生は笑っていた。


「それじゃ先生また明日ー。」

「明日はもうちょっと時間に余裕もって来いよー。」

「了解っす。」


 それから俺たちも下駄箱にみんなで向かう。


「先生と幸司のお母さんって知り合いなの?」

「知り合いというか、先生俺の兄ちゃんの親友。」

「へー。なるほどね。」

「なーなー、聖弥と凌ってこのまま寮に行くのか? だったら俺も寮見たいなー。」


 龍気がそう聞いてくる。


「えっ、龍気だけずりーぞ! 俺も見てーし!」


 俺は凌と目を合わせて苦笑いをした。


「あー、俺は荷物片付けたりしなきゃだからまた今度にしようぜ?」

「あれ? もしかして。」


 寮は2人部屋だ。

 俺は昨日入寮したが相部屋になる相手は今日来ると聞いていた。


「凌と俺もしかしたら同じ部屋かも。」

「あらそうなの?」


 凌の母さんが話しに割り込んでくる。


「そうだったら凌も心強いわよね。良かったじゃない。不安がってたから心配だったのよ?」

「別に不安がってなんかないから。どんな人と一緒か気になってただけ。」


 凌が照れ隠しをするかの様に口早に答える。

 でも俺も同じ気持ちだった。


「もし凌が一緒ならめっちゃ嬉しい! 嬉しすぎる!」

「なんかずりー! 母さん俺も寮に入る! 聖弥と同じ部屋にしてもらう!」

「はぁ。あんた馬鹿なの?」

「だってー、絶対楽しそうじゃん!」


 幸司にそう言われて俺は嬉しかった。

 俺も幸司とも同じ部屋で生活したい。

 楽しいだろうなー。


「母さんたちはどうするの? 帰る?」


 何事もないかのように笑顔で龍気が質問する。


「私たちはどうしましょうか? ちょっと移動しますけど私が好きなカフェがあるのでそちらに行きます?」

「あら、そういうお話しなら是非。」

「聖ちゃんちゃんと連絡してね。」

「うん、わかってるって! 母さん、じゃあまたねー!」

「凌も、ちゃんと荷物受け取ったら連絡しなさいね?」

「わかったわかった。」

「聖弥君も凌君も、なんか合ったら頼ってくれて良いからね?」

「そうよ、龍気も世話になるんだしおばちゃんたちも話し聞くし相談乗るから。」

「あら、気を使わせてすみません。」

「いえいえ、これから3年間同じクラスで同じ部活ですし、これも何かのご縁です。」


 母さんたちは一生話しが終わらなさそう。


「龍のお母さんも幸司のお母さんもありがとうございます! じゃあ母さん俺たち行くねー!」



 幸司が別れ際に母親に


「母さん、フルーツいっぱいのタルト買っといて!」


 イケメンがタルトを母親に頼んでるのがなんか微笑ましくてほっこりする。


「聖弥、何ぼーっとしてんだよ? 行こうぜ!」

「あっ、ごめん! イケメン3人組に目を奪われてしまったー!」

「あはは、聖弥こそだろ! イケメン聖弥様ー。」


 幸司がからかってくる。


「悪ノリやめてー! 恥ずかしい! 幸司置いて行こう!」


 そんな感じの軽い会話をしながら4人で寮に向かう。

 凌の部屋番号を聞くと、想像通り俺と同じ部屋だ。


「おおっ! やばっ! ガチ同じ部屋じゃん俺ら!」

「ま? ガチ嬉しいんだけど!」


 そう言って俺に後ろから抱き着いてくる凌は、絶対に普段は見せないであろう表情ということはわかる。


 イケメンに抱きつかれのは悪くないけど、凌ってやっぱりデカいなー。

 俺も小さい方ではないが、凌が後ろから抱き着いて収まり良い感じになってる自分がなんとも不思議な気分だ。



 カシャ



「良いの撮れたー!」

「うわー、不意打ち! ぜってー今の俺ヤバいっしょ! 見せてー!」



 龍気が携帯で撮った写真。

 そこには笑顔の凌とちょっと照れたような自分の姿だ。



「げー、マジ良い感じの写真じゃん! お前らずりー! 俺も聖弥と写真撮る! 凌とも撮る!」

「別にみんなで撮ったら良くねーか?」

「それはそれ! 入学式の寮でなんてもう二度と無いんだから、記念に撮っときたいじゃん!」

「あー、こうなったら幸司はもう無理だよ。」

「なんだよチビ龍。」

「あぁ? なんだバカ司。」


 俺は凌に後ろからハグされたままだったので顔をずらして見上げた。

 凌は優しい顔で2人を見ていたが俺と目が合うとお互いに笑いが溢れる。


「お前らガキかよー? 早く撮ろうぜ! そして早く部屋に行きたい俺は。」

「いつまで2人は抱き合ってんだよ? 次は俺の番な!」

「やっぱガキか。」


 龍気がそう言ってまたみんなで笑い合う。


 最高の入学式。

 地元の友達とも離れて昨日は一人で正直寂しかった。

 部屋は静かすぎたし色んなことを考えた。


 だけど考えたこと全部無意味なくらいに楽しいと今思える。



 ずっとこのメンバーと一緒なら、ずっと幸司と一緒なら。


 そう切に願う。



「聖弥、何ボーッとしてんの?」


 耳元で声がして俺は慌てて横を向くと、至近距離に幸司の顔がある。



 ドキッ、ドキッ



 鼓動が早くなる。


 顔が近過ぎて見られるのが気恥ずかしい。



「幸司顔近いよー!」

「そうかー? この高さ丁度良くない?」



 幸司は後ろから抱きしめる感じで俺の肩に手を回し、そこに顎を乗せていた。


 改めて綺麗な顔だなぁ。



 カシャ



「おーマジ良い!」


 今度は凌が撮ったらしい。


「あー俺も撮りたいからもっかい!」

「もっかいってなんだよ?」

「聖弥が幸司を見つめてるとこ!」

「え? 見つめてた? 恥ずかしい!」

「俺も恥ずかしいと思ってたけど、これも記念! もっかい!」

「聖弥ー、何でお前が照れんだよー? 顔真っ赤だぞー!」



 あはは


 みんなで笑い合う最高の瞬間。



「撮るよー!」


 俺は幸司を見たいが恥ずかしくてまともに見れない。

 そのとき幸司が小声で



「聖弥、こっち見て。」



 耳元で俺だけに聞こえる囁きのような声。



 トゥクン



 幸司の目に俺の視線も心も吸い寄せられたような気がした。


「うぇーい、ベストショットいただきましたー! ありがとうございます!」



 龍気の声で我に帰る。

 龍気って良いキャラだなぁ。

 そして凌は相変わらずニコニコと優しい笑顔で学校にいる時とは大違いだ。


 それからしばらく各々写真を撮り、最後に四人で撮ることに。



「チビ龍は凌に抱っこしてもらうかー?」

「はぁ? ふざけんなよバカ司!」

「じゃあ抱っこバージョンと2枚撮れば良くね?」


 凌もなんだかんだノリ気で楽しそうだ。


「凌が撮るのが良いよね? 1番手長いし。それか幸司が撮る?」

「じゃあ俺撮る。」


 そう言って幸司はスマホを掲げて撮り始めた。


 何枚か撮ったところで結局、凌も龍気も撮ることになる。


「俺だけ撮ってないからみんな送ってねー!」

「おっけー! てかグループ作ろうぜ。」


 そう言ってちゃきちゃき動くのは龍気。


 リベロってポジションもそうだけど、全体の把握とか見極めとか上手いからこそ犬学のレギュラーでしかも推薦で高校も入れたんだろうなぁ。

 龍気って小さいけどなんか凄いな。


「今グループ作ったー!」

「サンキュー!」


 グループ名

 イケメンオールスターズ



「なんだよ龍センスねーなー!」


 凌が茶化してまたみんなで笑う。


「じゃあ凌が考えろよー!」


 龍気は拗ねているがそれも可愛らしい。

 つい頭ポンポンしたくなって龍気にやってみると、


「おー、聖弥は優しい!」


 そう言って嫌がる素振りもなくポンポンされ続けていた。

 俺は実家で犬を飼っていることもあってわしゃわしゃするのには日常茶飯事だ。


「龍気ー、拗ねるなー。かわいーなー。」


 そう言って髪をわしゃわしゃしてると幸司の視線を感じた。


「なんか、凌も龍も聖弥と仲良くてズリィ。」

「あはは! イケメン幸司様が俺に嫉妬かー? 聖弥ー、もっとやってー。」


 幸司が嫉妬? なんで?

 龍気は悪戯っ子のように頭を擦り寄せてくるので俺も調子に乗って


「龍気はかーわいーなぁ。龍気は俺のことがほんとに好きだなぁ。」


 俺は実家の犬と遊ぶんでいるときのような感じで龍気と戯れていると



「バカ龍、そんなに髪ボサボサにされたいならしてやるよ!」


 そう言って幸司も入り込んできた。

 凌はずっと笑いながら写真を撮っている。


「凌ー、後で全部送っといてよー!」

「同じ部屋なんだし、めんどいから欲しいのだけ選んでくれ。」

「あー凌はそうやって聖弥を独り占めか? いーなぁ。俺ぜってー泊まりに来る!」

「バカ司は聖弥に負けてからずっと聖弥のことお気に入りだからなー! 同じ学校で、しかも同じ仲間で良かったじゃん。」

「ばかっ! お気に入りとか言うなよ!」


 そう言って照れてる幸司は可愛い。

 そして色んな表情が見れて嬉しいと思っている自分がいる。

 もっともっとと欲張りたくなってしまう。



「はい、あとは部屋に行ってから!」


 凌が動き出す。


「聖弥、部屋の場所覚えてる?」

「うん、3階の奥だよ。」

「うーわ、入口遠いしトイレしたいときやべぇな。」



 そんなことを凌も思うんだ。こんなイケメンなのに親近感が湧く。


「そんときは猛ダッシュするしかないっしょ。」

「楽しそーだなぁ。」


 会話しながらだと部屋までもすぐだ。


「ここが俺と凌の部屋ー。」

「凌鍵無くすなよーって、むしろ俺の方がか。」

「そうだろうな。」


 最早俺たちは完全に打ち解けてずっと一緒の友達かのような距離感になっていた。


「凌が開けたら?」

「おしっ、じゃあ開けるぜ?」



 ピー


 俺たちの部屋はカードキーだ。



「おー、ホテルの部屋に入る時みたいだな。」


 凌はテンション上がっている。


「うわー、寮の部屋ってこんな感じなんだな!」


 幸司も部屋に興味津々だ。


「さーて、じゃあ色々チェックしないと。」


 龍気が楽しそうに部屋を物色し始めた。


「龍気、何探してんのー?」

「そりゃ、聖弥が怪しいもん持ってるかに決まってんじゃん!」

「なんだよ怪しいもんって?」

「エッチなオモチャとか、その、、、コンドームとか?」

「なんだよ聖弥、そんな慌てるなんて怪しいぞ! それに耳まで真っ赤じゃん!」


 凌ががっしりと肩を組んでくる。

 俺は田舎育ちでバレーだけやってきた。

 だから当然色々と未体験? 未経験なわけで・・・。


「何もないからー! ほら龍気、動画撮るぞー。」


 さっきまでの悪戯っ子だった顔が嘘のように、龍気はカメラに向かって笑いかける。

 ふと幸司にカメラを向けると、俺のベッドにダイブしてポーズと笑顔をくれる。

 画面越しでもイケメンの破壊力は半端ない。

 俺は一瞬見惚れて、直ぐに恥ずかしくなり凌にカメラを向ける。



「凌君、今のお気持ちは?」

「サイコー! お前らこれからよろしくなー!」


 ドアップで笑顔をくれた凌がそのまま俺に近付きカメラを取る。


「最後は聖弥な! それではこれから始まる高校生活の意気込みをどうぞ!」

「うわー、急な無茶ぶりじゃん! えー、幸司、凌、龍気、こんな俺ですがこれから末永くよろしくお願いします。楽しい3年間にするぞー!」

「あはは、聖弥からプロポーズされた気分!」



 幸司がそんなことを言うから恥ずかしさマックスだ。



「恥ずかしいから終わりー!」

「照れんなよー! こちらこそこれからも末永くよろしくなー!」

「聖弥大好きー!」

「聖弥、離さねーからなー!」



 ピッ。



 あれから3年、俺たちは卒業を迎えた。



「この動画懐かしいなぁ。」

「入学式だもん。」

「そうだよな。そしたら俺から改めて、こんな俺ですが、これからも末永くよろしくお願いします。」



 俺は卒業式のときからずっと泣かないように我慢してたのに、幸司からの言葉で一気に涙腺が緩んでしまう・・・



「あー、泣かないって決めてたのに!」


 涙が止まらなくて幸司の顔がまともに見れない。


「動画の最期で離さねーって俺言ってたじゃん? 嘘じゃないから。」



 うん、うん、


 俺は頷きながら声にならない声を出して返事をした。


「それで、聖弥の口からちゃんと返事を聞かせて?」

「こちらこそ、ふつつかものですが、これからもよろしくお願いします。」



 俺の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でもちゃんと正面から目を合わせてくれている幸司を見つめておでこをぶつける。



 幸司、大好きだよ。

 入学式の朝声を掛けてくれたときからずっと。

 そしてこれから先も大好きだよ。



 俺たちは大学生になる。そこでも高校の時とは違ったいろんなことがきっとあるだろう。

 でも2人でならきっと乗り越えられる。



「あー、ここにいたんだー! なんで泣いてるの? 聖弥どうしたー?」

「お前ら探したんだぞ、帰ろーぜ! 2人の時間はこれからいくらでも作れるだろ!」

「よし、それじゃ帰りますか。」

「3年間ありがとね。そしてみんなこれからもよろしく。」



 みんなで携帯で写真を撮り合うこんな時間さえも愛おしい。

 俺たち4人はいつも一緒だった。

 それは環境が変わってもきっと変わらないし、友情も変わらないと信じている。



 幸司がそっと俺に手を伸ばしてくれた指先を握り返す。



 この学校に入って、幸司と出会って、みんなと出会って俺は幸せです。

 そしてこんな俺だけど、改めてこれからもよろしくね!

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