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記録95:代償

私は事の顛末をアレックスから聞いた。


先ほどからずっと見ているムルの夢のようなものは光であり、考え方は少し哲学的になってしまったのだが、原点の光の途中にある地点にビナーはスクリーンを持ってくることが出来るのだ。


そしてスクリーン中で体験した全ては光の先頭、つまり現在に即座に反映される。

弾丸を過去に受ければ現在にしかそれは反映されない。

つまり、傷を受けていたことにはならないということだ。だから、この世界では少しでも怪我をしてしまうということになる。実際、アレックスの腹部には拳銃弾の弾痕が三発分くっきりと残っていた。

まだ拳銃弾だから装甲で防げたものの、これがライフル弾となればただでは済まなかっただろう。


ん?ここで受けた傷は現実に反映されると...なら、ここにいるハルって結構まずいんじゃ...


「アレックス!ここから出るにはどうするんだい!?」

「ここが光だと認識すれば即座に出られるはずだ。だが、自分が認識したと思いこむだけではだめだ。なにか決定的なものを見つけるんだ。俺は先生の不自然なところを幾つか探して戻っていたんだ。お前も、何か...って言っても、これは多分ムルの方の記憶だろ?だから...どうするんだ?」


聞かれた所でわからない。だが、抜け出せないということはないだろう。それに、ビナーのちからにも限界があるはずだ。

最悪そこまで耐え凌げばなんとかなるはずである。


「君、こんな所にって...誰だ?」


後ろから少年の声が聞こえた。


「明日香、誰だこいつ」

「.........ハル」


憎悪が腹の中から溢れてくる。


殺せ、と本能が訴えかけている。


父と母の仇。殺せと願われてなくても殺さなければならない相手だ。


「まあいい。お兄さん、口封じだから」


そう言ってハルは降っている雪の中に消えた。

そしてすぐさまアレックスの後ろに現れたかと思えばどこからともなく取り出したナイフで彼の首に向かってナイフを振り下ろした。


「うおっ危ねっ」


パシッと少年のハルのナイフをはたき落として彼をまるで羽虫のようにはたき落とした。

これなら案外苦戦せずに勝てるんじゃないかと思っていると、アレックスが声を漏らした。


「痛った」


彼は驚いて自分がハルを払った手を見た。血が流れている。

いつ斬られたのか、彼自身もわかっていない。その間にも、ハルは体制を立て直してナイフを構えていた。


「アレックス、逃げよう!確実に面倒な相手だ。戦えば戦うほど深手を負う」

「ああ、分かってる。だが、あいつ速いぞ。逃げられるか?」


珍しく弱気になっているアレックスがそう言って戦闘継続の姿勢を見せた。

いつもなら『よし、逃げるぞ!』とか言って逃げてるのに......


ん?『珍しく弱気』だと?

負け戦は嫌いなアレックスが自分からハルとの正面切っての先頭に挑むのか?何の利益もないのに。


「アレックス、私、先行くね」

「ん...はぁ。やっぱだめか―――じゃあね。ムニカル・アスカ」


そう言ってアレックスは指を弾いた。


周りの景色がぐるぐると回ったかと思うと、私は気づくと現実世界に帰っていた。



「虫が入り込んでるね〜」

「お前を殺す虫だな」


膜の内側にいつの間にか滑り込んでいた明日香を見ながら、俺は剣を構えていた。

ビナーの攻撃は基本全部避けられる。

かなりの事がない限り命中することはないが、消耗戦となれば確実に補給問題でこちらが負ける。

短期決戦をしようとも、その糸口が見えなければ同仕様もない。


さっきから頑張って此方側に入ってこようとしているCode:Clawsが全員入ってきても、ろくな対策はできないだろう。

第一、無が見えるのは俺だけだろうし。


「明日香!聞こえているか!?」


声を張り上げて俺は明日香に呼びかけた。

彼女はこちらに手を上げて応答した。俺は何も言わず、ビナーの攻撃を躱しながら膜の中央の天井を指さした。


明日香は上を見て何かを察して住宅街に駆け込んだ。


「ね〜ね〜どこ行くの〜?」

「お前の相手は俺だッ!」


振り向いた背中に剣を叩き込んだ。

そろそろ剣が折れそうになっている。ビナー、一体どんな材質で出来てるんだ。硬すぎだろ。


ビナーは俺に向き直って手を合わせ、無を収縮させて言った。


「そろそろ終わりにしようか。無限の光(オウル・エン・ソフ)

「させない!」


明日香の声が聞こえたかと思えば、一発の弾丸がビナーの喉元を貫いた。

光は正確に作動せずに周囲に散乱した。


「なん...で?」


ビナーの再生が遅れている。確実にダメージが通っている証拠だ。


続けざまに同様の弾丸がビナーの体を貫通した。

右足が吹き飛んだ所で明日香が姿を表して、俺に一つの大きいカバンを投げた。


キャッチして中身を見てみると、何時ぞやにファールキーから貰っていた拳銃が入っていた。

弾丸は12.7mm弾薬を使用し、ボルトアクション式の一発弾倉になっている。

使うことなど一切ないと思っていたが...感謝だな。


一緒に入っていた弾薬ベルトを体に巻き付けて拳銃に弾丸を込めた。

明日香の反応を探してみると、彼女はとっくに安全圏に避難しようと膜の外側に走っていた。


「逃げ......ルナ」


残っている手で無を発射しようとした。


その手を撃ち抜くき、続けざまに数発残っている所に撃ち込むと、無は完全に発射できなくなり、膜が一瞬にして消滅した。

急行していたCode:Clawsの部隊と合流し、事情を話そうとした時、ビナーの残骸がカタカタと動き出して、地面に潜っていった。

そう、潜ったのだ。モグラが地面を華でかき分けるように、破片が地面を削ってその中に入って行った。


そして地面に真っ黒な沼が出現し、そこから膜の天井にあった手がぬるっと出てきた。


「何だあれ?」


じっと見ていると、俺の方に向かって銃を打つような手をして、声を発した。


「ばん」


無はまっすぐに俺の方に飛んできた。到底避けられる体制ではない。避けたらCode:Clawsを数人巻き込むことになる。

俺は剣を差し出して無を受け止めた。


無はそのまま俺の剣を粉々にして消滅した。


腰から二本のナイフを取り出して一本をビナーの手に投げた。

ナイフは手に刺さらず沼に命中して沈んでいった。


「何したの?」


明日香が俺に聞いた。見ていなかったのかと言いたかったが、Code:Clawsの連中も分かっていないようだった。


ここでようやく気づいたのだが、今の戦闘は完全に音を置き去りにしていた。Code:Clawsも明日香も一切反応できていなかったほどだ。


「Code:Clawsは今の速度に着いてこれるか?」

「私は可能です。他は援護に当たらせます」

「了解」


後方でCode:Claws隊員がそれぞれの持場についている中、俺は沼から伸びている手に向かって一歩ずつ歩き出した。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『仇討ち』

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