記録83:合衆国の権利と権威
【中国統一戦争】
華興大聯邦の作戦:重慶奪取作戦
総司令官:■■■(検閲済み)
中華連邦の作戦:四川奪還作戦
総司令官:馬慶
【損害】
華興大聯邦:三〇〇〇
中華連邦 :四六〇〇
無関係だった民間人:7,600,000
「中峰少佐、もう一度言って下さい。中国で、何があったと?」
電話越しに伝えられたその真実に、私の声は震えていた。
何度聞き返してもその真実は変わらない。
中国で七百万人の虐殺が行われたのだ。所属不明の爆弾の攻撃で、重慶市に隠れていた七百万人が一瞬にして全滅したのだ。
夢幻という爆弾が頭をよぎったが、中峰もどうやら同じのようだ。夢幻は簡単に言えばクラスター爆弾のガスバージョンであり、低濃度でも人が眠るように死ぬというガスを使用している。
七百万人が死んだということは、きっとその爆弾がいくつも使われたのだろう。だとしたら使用した爆撃機はSB-49か、合衆国も協賛していたならば、B-5ステルス爆撃機だろう。
これはいよいよ統一戦争が三ヶ月程度で終わる予感がしてきた。戦争開始から一週間でもうこの爆弾を使っているということは、死者が億単位になってしまうのも時間の問題だろう。
「中峰少佐、時間がない。早急に任務をすべて終わらせましょう」
そして、中峰から告げられた任務は現職の副大統領に接近することであった。偽の身分証はもう作っていて、日本と内通している上院議員の招待でその副大統領主催のパーティに参加できるらしい。
パーティーは明後日、ワシントンのとあるホテルで行われるらしい。
私は底に行って、副大統領から現在のギャングの正確な勢力圏および、合衆国の権威がどのあたりまでしか及んでいないのかを聞けばよいとのことだ。
諜報活動ではなく聞き込み活動に当たるとのことなので、身分証偽造がバレない限り、逮捕されることはないそうだ。
「分かった、準備しておきます」
電話を切って、私は早速服屋に向かった。
スーツなどあまり着ないのでどれを着ようか迷っていると、店員が話しかけてくれて、私に会うようなスーツを探してくれた。
「試着なさいますか?」
「はい。ありがとうございます」
試着室に入ってスーツを着てみた。久しぶりなので体を締め付けるような質感に違和感を覚えたが、まあこれはこれで動きやすいかと納得して試着室をでた。
そこで、ちょうど隣の試着室からも人が出てきた。
「あ?」
「え?」
アレックスだった。何でここに居るんだと言う前に、店員が私に話しかけてきた。
「お二人共似合ってます!ここは一つ、スーツの広告用としてお写真を取らせていただいてもよろしいですか?」
「安くなるのか?」
アレックスが食い入るように聞いた。きっと金が無いのだろう。それにしても、どうしてここに...って、アレックスは一応特殊部隊の人間だったな。きっと似たような任務でも貰ったのだろう。
「どうなさいますか?」
「え?あ、はい!お願いします」
何も聞いていなかったとは言えないので、とりあえず返事だけをすると、店員専用の部屋に通されて、いい感じのインテリアの置かれた写真撮影スポットに二人でポーズを取って写真を撮ってもらった。
そしてスーツが半額になると知ったのはその時だった。
店員に頼み込んで顔は映さず、スーツだけ撮ってもらうようにした。
その間、店員は私達に聞いてきた。
「お二人、お知り合いなのですか?」
私はどう言おうかと迷ってしまった。戦友?友人?仲間?それは少し変か。
そう思っているうちに、アレックスに先に答えられた。
「セ㋫レです」
「「えっ?」」
気まずくなったのか、店員はそれ以上話しかけてくることはなく、ただ写真を撮って代金を受け取ってありがとうございましたの決まり文句を言って私達の背中を見送った。
店の外に出るなり、私はアレックスを問い詰めた。
「ねえ、あれ何なの?」
「店員に色々話しかけられるのが嫌じゃなかったのか?少なくとも、俺はそうだった。だから、確実に気まずくなるような話題をぶつけて黙らせたんだよ。合衆国じゃよくあることだって聞くしな」
「それにしても、あんな嘘...もうちょっと良いの無かったの?例えば、元カノ...とか」
「そこまで頭は回らなかったな」
「もう...」
私が膨れていると、アレックスはこっちだと言って僕の服の裾を引っ張って、シャイニングバックスの中に連れ込んだ。クラ・カルロスのいた店とは違う店なので危ない匂いはしなかったが、懐かしい匂いはした。
アナスタシアだ。
彼女は私達を視認するなり手招きを手テーブル席に座らせて言った。
「明日香さん...!久しぶり...と言っても一週間もはなれていませんけど」
「ま、そうだね。元気そうで何より。それで、アレックスとナターシャはどんな任務を受けたの?」
「合衆国ギャング...アル・メリッサの情報です。情報を抜き取り次第抹殺せよとの命令ですが、まだ彼の足取りすら掴めていないのです」
まさか、同じような任務を受けているとは思わなかった。もしかしたら、合衆国を巡って分裂しかけの日本が争っている、そんな展開があるのかもしれない。
天菊首謀で米国のブラックバード政権とロシア帝国と手を組んでいる勢力と、その他の世界中の勢力と言った感じだろうか。
勢力としてはその他の世界中の勢力のほうが圧倒的に大きいが、まとまり具合で言えば、完全に天菊側の優勢だ。そして、このまま行けばいずれこの二勢力は衝突する。そうなれば確実に人類は滅び、少数であっても残るであろう天菊側の辛勝となるだろう。
まあ、勝手な憶測だから、正しいとは一切言えないが、無いとも言えない。
これが最悪の事態であることを踏まえると、今回のアレックスとアナスタシアと私達に与えられた任務が被っているということは、絶対にこの任務は落としてはいけないのだろう。
なら、ラシード単体でこなさせるのは少々悪手だったのではないか、それに―――
「明日香さん。アル・メリッサについてなにか知っているのですね」
「あぁ、うん。ちょっとはね...」
それから、私はラシードが現在アル・メリッサと行動をともにしていることを話した。
アレックスとアナスタシアの顔が一気に曇ったが、僕が彼がまだ行きている証拠としてラシードに取り付けられている心拍測定装置のアプリを起動し、彼がまだ生きていることを証明すると、彼らは落ち着いた様子で椅子に深く腰掛けた。
「それで、明日香さんは何を?」
「副大統領のパーティーで主催者から情報を聞き出すんだよ」
「一人でか?」
アレックスが不安そうな顔でそう聞いた。私が頷くと、アレックスは俺も行くと言って駄々をこね始めた。
なぜそこまで一緒に行きたいのかと聞くと、Code:Clawsが本国へ秘密裏に帰還しているとの情報がEVに入ってきたらしいのだ。
「...ナターシャ。悪いけど、ちょっと借りてくね」
「ええ、構いませんよ。良い厄介払いです」
「おい」
「嘘ですよ。向こうにラシードさんがいるのなら、場所の特定も簡単でしょうし...そっちは任せますよ」
「分かった」
そうして、私とアレックスは明後日に控えられている副大統領のパーティーに向けて準備を開始した。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『レディース・アンド・バーバリアンズ』




