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記録81:窮鼠人を噛みちぎる

【中国統一戦争】


華興大聯邦側の作戦:重慶市奪取作戦

総司令官:天菊 桜


中華連邦側の作戦:四川奪還作戦

総司令官:馬慶


【損害】

華興大聯邦:二一五〇

中華連邦 :四九〇〇


無関係な人:三二〇


(いずれも民間人含む)

少年に案内されながら走る私は、ちょっとしたことを考えていた。アレックスが負けるというようなことではなく、この少年のことについてだ。

この少年、足が速い。それに、体も小さめだから、もしかしたら......向いているかもしれない。

これから親は更生施設にでもぶち込まれるだろうから、ロシア(暗殺代理委員会)に拉...監き...保護してもらうのも良いかもしれない。


「少年、ロシアに興味はある?」

「え?よくわかんないよ!でも、今はそんな状況じゃないでしょ!?」

「うん、そうだね」


少年の歩く道をついて行っていると、急に角から男が飛び出してきた。銃を持っている。


こちらを視認するなり銃を向けようとしてきたので投げナイフを使って怯んだところを別のナイフでとどめを刺した。

少年がドン引きしているが、こっちとしてはいちいち構っていられることでもない。


「行くよ」

「う、うん」


少年にそう言って私は再び走り出した。



さて、敵勢力は合衆国ギャング十数人。全員物騒にも銃を持っている。一人に発砲されてしまえば、仲間もやってくる。そうすればアル・メリッサも危機感を感じて脱走するかもしれない。


だから―――


パシュッ


「ヌッ―――」


ドサッ


こうやって、物陰に近づいてきたギャングを一人ずつ丁寧にネイルガンで眠らせている。実はこの釘には強力な睡眠薬が入っているので、どんな人間でも速攻で眠る。ただ、近距離で撃たなければいけないのが難点だが...


おっと、また誰か来た。


パシュッ


「ヘッ―――」

「ファッ!?だr―――」


パシュッ


「ヌッ―――」


ドササッ


二人ダウン。そろそろ位置を変えなければバレるかと思い、近くのゴミ箱の中に三人の体を詰め込んで次の場所に移動した。



「ねぇ、本当にこんなきれいな街にギャングなんているのかい?」


ラシードが少し不満げに聞いてきた。

たしかに、交通整理も区画整理もきちんとなされたきれいな街だ。

一見するとギャングなんて居ないように見えるが、路地裏に目をやってみると、タバコを吸っている若い男性が複数人。完全にギャングの構成員だ。

いつの間にか合衆国がギャングで溢れかえっていることは、ここに住んでいる人たちは分かりきっていたことだろう。

原因として考えられるのが過度な経済の効率化による失業率の増加と、第三次世界大戦による徴兵。親が戦争でPTSDになって働けなくなったのでグレてしまったというものだろう。


グレるのも自由、さすが自由の国アメリカ合衆国だ。


「あ、明日香。見てよあれ。美術館だって。ちょっと見ていこうよ」

「あのさぁ、今任務中だよ?」

「もしかしたら、僕達の標的のアル・メリッサもいるかも知れないよ?」

「まさか。ほら、うだうだ言ってないで行く―――」


最後の一文字が出る前に、ラシードの顔を少しだけ見た。ものすごく悲しそうな顔をしている。このままだと任務中ずっとこのしょぼくれた顔になっているかもしれないと思うと、急に美術館くらいならと思ってしまうようになった。

まあ、連れてきたの私だし、と勝手な言い訳を添えて彼と一緒に美術館に入ることにした。


小さめの美術館で、大学のすぐ側の美術館だったということもあってか、若い人たちもたくさんいた。

知らない芸術作品がたくさんあったが、どうやらラシードはそういうものには精通していたようで、かなりの数のものを興味深く楽しんでいるように見えた。


そして、暫くしていると、急にラシードが少し前の客を指差して言った。


「ん?あれ...さ。まさかだけど...」


彼の指差した方向には、なんと、お決まりの流れのごとくアル・メリッサがいたのだ。

特徴的なあのピンクのモジャモジャは、確実にアル・メリッサだ。

ここで、確か、と書類内容を思い出してみると、芸術に深い造詣があるとの記載があったような気がする。

早速捕縛しようとするラシードを一旦なだめて、私は彼が家に帰るのを見届けてからそこに突撃しようという作戦を立てた。


「ここは君に感謝するしかなさそうだね」


私はラシードにそう言って懐の追跡装置を起動してメリッサの後ろを通るタイミングでくっつけた。


「おい、そこのお前」


しまった、バレてしまったかと思って恐る恐る振り返ってみると、アル・メリッサはラシードに突っかかっていた。

アル・メリッサはラシードの顔を舐めるようにじっと見て言った。


「お前、見たことある顔してるな。誰だったか......」

「多分昔大学とかであったんじゃないかな。ほら、僕みたいなアラブ人は沢山いるから。君たちが取引してきた中にでもいるんじゃないかな」

「お前、色々知ってるな、面白い。俺はアル・メリッサだ。お前は?」

「ラシードだ。君こそ、面白い人間じゃないか。観察しがいがある」

「ところでラシード、俺達についてこないか?金も大量に手に入る。お前みたいなのがいないから、最近のギャングは張り合いがねえんだよ」


なんだか思っていたのと違う方向に進んでいる気がするが、今のところ両者敵意はそれほど感じない。ただ、両方とも警戒しているので拳銃に手を掛けている。


暫く睨み合った後、ラシードが拳銃から手を離して言った。


「分かった。君の勝ちだ。では、少しの間だけだよ」


ラシードに何をしていると言って飛びかかってやりたかったが、彼が先に私の方を向いて二回瞬きをした。

事前にサインなど一切決めていなかったが、彼が自分に任せろと言っていると思い、私も瞬きをして返事をした。


「じゃ、行こうか。早いほど良いだろ?」


ラシードがアル・メリッサの隣に立って出口に向かって歩き出した。

心配してその背中をじっと見つめていると、ラシードの服から一枚の紙片がひらりと落ちた。


彼らがいなくなった後にその紙片を取ってみてみると、彼からの伝言が書かれていた。


「任務は単独で遂行する。だから、他の任務を...か。フッ、流石だね」


恐らく彼なら大丈夫だろうという思いで、私はその紙片をポケットの中に入れた。

そして、別任務を遂行するために私は携帯電話を取り出して、中峰に連絡を入れた。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『重慶市攻防戦』

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