記録80:クラ・カルロスという男
【中国統一戦争】
華興大聯邦側の作戦:重慶市奪取作戦
総司令官:天菊 桜
中国連邦側の作戦:四川奪還作戦
総司令官:馬慶
【損害】(民間人含む)
華興大聯邦:死者 二〇〇〇
中国連邦 :死者 四五〇〇
連絡:天菊による奪取地域の住民の虐殺開始。報復として中華連邦も虐殺開始。
「フン、ここは少し嫌な匂いがするな。少し場所を移そう。連れも一緒にな」
カルロスに連れられ、私達はすぐ近くのシャイニングバックスに入った。
ここはもう彼の間合いのようで、すべての客、店員が敵であるということはすぐに分かった。
しかしここで引き下がるわけにもいかない。
私達の所属は恐らくバレているんだろう。だから、何を嗅ぎ回っているかを聞くために読んだに違いない。
「探偵の山雁明日香です。よろしく」
「The Atlantic Committeeの委員長、クラ・カルロスだ」
シーン......
奇妙な沈黙が流れた。お互いがお互いの出方を見ているのだ。
私も今言葉を発したら負けだということは分かっている。彼は私がしびれを切らして口を開くのを待っている。
私が椅子に深く腰掛けて長期戦を覚悟した瞬間、カルロスが口を開いた。
「俺の依頼をこなせ。そうすれば命は取らないでおいてやる」
「依頼内容によってはここで辞退して暴れるかもしれませんよ?」
「なら、聞いてもらおう。依頼は簡単だからな」
カルロスはそう言って私に数枚の書類を渡してきた。一部が黒塗りになっていたが、どうやらこの男を探してくればよいとのことで、期限は無期限だと言われたが、他にも任務があり、すぐに探さないと世界が終わりかねないので、実質、一週間以内にかたをつけなければならなかった。
「ま、分かりました。探してきます。場所はボストンで間違いないのですね?」
「ああ、ボストンなことは間違いないが、如何せんギャングが多いからな。俺が踏み込んで奴をシメてやりたいが、あいにく時間がない。頼んだぞ。ジャップの探偵」
私は何も言わずに中峰たちを引き連れて店を出た。
「あ〜怖かったぁ!」
シャイニングバックスを出た私は、開口一番にそういった。中峰に声が大きいと言って叱られたが、それどころではなかった。
本当に恐ろしかったのだ。いや、マジで。殺されるかと思った。
「さて、ここで一旦二手に別れようか。私と...誰かボストンに行きたい人いる?」
「ハイッ!僕が行きます!」
「じゃあラシードと私。後の二人は別件をよろしく。状況に応じて支援を求めるかもしれないから、無線機には気をつけておいて」
「分かったわ。くれぐれも、気を付けて」
中峰が心配してくれているが、恐らくその心配は徒労に終わるはずだ。
たしかにボストンはギャングの集まりがあるが、民間人に被害はそれほど出ていない。
むしろ日本本国の秘密警察のほうが恐ろしいのだ。彼らと同じように、ギャングも躱して賄賂を渡してちょっと黒い道に足を突っ込めばすぐに終わるはずだ。
「そっちこそ、気をつけてね」
私はラシードを連れて、ワシントンからボストンに向かった。
◆
今回、EVから直々に俺とアナにやってきた任務はThe Atlantic Committeeの委員長、クラ・カルロスの側近であった男、アル・メリッサの捕縛及び処刑だ。
まあ情報さえ抜き取ればどうでもいいので、とりあえず接触してシメてやれば情報を吐くだろう。
「見えてきたぞ、アナ」
「そろそろですか。準備はもう終わってますから」
飛行機が到着して、俺達は事前に話を通しておいた空港の職員に合図を出して、検問をすり抜けた。
トランクから武器の入ったケースを取り出して背中に担いだ。
普段でもEVの特殊戦闘員ならば武器の持ち込みは許可されているのだが、今回の任務は合衆国政府に対して調査をする形となるので出来るだけバレないように移動しなければならない。
そして、今回は特別にアナをEVの職員としてロシア帝国から公認で買収している。期限はおよそ半年間。百万ドルは動いたと言われているが、そんなの実際どうでもいい
「ここが...ローガン国際空港ですか。広いですね」
空港を外から見ているアナはそういった。
今、俺達はボストンギャングの拠点近くにタクシーに乗って向かっている。彼らに聞き込み調査をすれば、すぐにアル・メリッサの尻尾もつかめるだろう。
「ここまでです。これ以上は近づけません」
タクシーの運転手が車を止めて言った。
現地の人間でも近づかない、いや、現地の人間だからこそ近づかない場所なのだろう。
「ありがとう。釣りはいらない」
百ドルを渡して俺達は車の外に出た。至って普通の住宅街であるが、若干異様な空気がここまで漏れ出てきている。
それに、人が少ない。危ないから外で遊ぶ子どももいないのだろう。
「さ、行くぞ」
「了解です」
今回持ってきた武器は俺はMG51、アナはSayga12を持ってきている。銃弾はNATO弾に合わせて博士に改造してもらっているので、最悪現地調達も可能だ。
ケースからいつでも銃を取り出せるようにして、警戒して歩いていた時、道端から一人の少年が飛び出してきて、俺達を視認するなり、まくしたてるように言った。
「ママが、ママが!!」
「分かった分かった。だから、な。一旦落ち着け」
「アレックスさん!」
「サブクエストだ。いいだろ?ちょっとだけだ」
落ち着きを取り戻した少年は事の顛末を俺に話してくれた。
「ママが、ね。クスリをやってるんだ。それで、なんだか、ママが動かなくなっちゃって...ずっと天井を見て唸ってるんだ。もう二日もおんなじだから......」
「わかった。一旦親の状態を見せてくれ」
少年は頷いて中々のスピードで路地裏に走り込んで、そのまま家の中に入っていった。
薄汚い部屋に入ると、そこには薄い毛布一枚にくるまれた、やせこけて目を半開きにして唸っている女がいた。少年はその女の隣に駆け寄って呼びかけていた。
「ヘロイン中毒ですね。それも重度の」
アナスタシアがそう言って携帯電話を取り出して、警察に保護してもらおうとした。
「おいおい、嬢ちゃんチョット待ってくれよ。おっと、振り向くんじゃねえぞ」
後ろから明らかにギャングの服装をした男が声をかけてきた。
恐らく銃を持っている。振り向いたら撃たれるだろう。
「やはり、必要なのは救済ですね」
アナスタシアがボソッと呟いて、携帯電話を後ろにいた男の目にダイレクトで命中させ、怯んだ瞬間にコートの内側に常備しているナイフで首元を掻き切った。
「少年、お母さんと暫くお別れ出来る?」
「...ママ、戻って来る?」
「ええ、きっと戻ってくるわ」
これだけ優しい子だから、きっと子どもを愛していた母親だったのだろう。それが今やただのヘロイン中毒者だ。正直、戻ってこれるかどうかは五分五分だ。
「アナ、増援が来るかもしれない。そいつら連れて急ぐぞ」
「申し訳ありません。アレックスさん」
「謝るな。元はと言えば助けようとした俺のせいだ。少年、走れるか?」
「う、うん」
「じゃあお前は誰も居ない路地裏をこのお姉さんと走るんだ。君の母は俺が守る」
少年は不安そうな顔を見せたものの、すぐにアナスタシアに手を引かれて走り出した。
「っしゃ、やるか」
背中の鞄からMG51......ではなく、変な形の、音のしないネイルガンを手にとって、少年の母親を背負って体にくくりつけて影に身を潜めた。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『窮鼠人を噛みちぎる』




