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記録63:博士は枷

「ふむ...アナスタシア君はひとまず大丈夫そうだね」


アナスタシアの足の具合を見て、博士はため息をついて言った。久保田と俺は一旦武器の点検を終えてから、今後のことについて話し合っていた。


「実は、地下への入口は一つだけなんや」

「何だと!?なら、通信室からしか出られないのか?俺だけならまだしも、博士も...負傷しているアナだっているんだ」

「まあまあ、落ち着けや。あそこはワイらが勝手にこじ開けた出入り口で、全然正規の出入り口やあらへん。本来の出入り口はこの空軍基地の近郊のとある倉庫に繋がってるんや。そこは多分近衛隊に押さえられてる」

「だが、モタモタしてたら近衛隊の奴らが無理やりこじ開けてでもここに入ってくるんじゃねえか?」


俺の心配とは裏腹に、久保田は落ち着き払った声で言った。


「その心配はない」

「何故」


彼はこの地下室の地図を見せてくれた。どうやらこの地図は情報管理上この地下にしか保管されておらず、近衛隊の人間は地下の構造をよく知らないまま制圧を試みているのだ。

だが、これだけでは問題しか残っていない。結局こじ開けられれば終わりだ。久保田の顔を見て俺は静かに抗議をした。


彼は、ニヤッと笑い、ポケットからタバコを取り出した。タバコの匂いが嫌な俺があからさまに嫌な顔をすると、久保田はそのタバコを僕に押し付けて言った。


「ま、何とかなるわ。そんなに気にしとったらアカンで。これ、お守り代わりに持っとき」

「吸わねえぞ」

「それでもええ」


渋々タバコを受け取って、ポケットの中に忍ばせた。それから、久保田に向き直ってもう一度聞いた。


「で、どうするんだ?まさか、こじ開けられる前にこっちから出ていくなんて言わねえだろうな」

「ご明察や。怪我人はある程度動けるやろうし、枷は博士やな。あの人は戦いも出来へんし、走ることも出来ひん。正直、足手まといや」

「結構ズバッと言うんだな」

「ズバッと言っても言わんでも、結果は変わらんやろ?」

「...そうだな。それで、作戦はどうなんだ?時間もないだろうし、さっさと決めようぜ」


それから、俺と久保田で作戦を立案した。アナスタシアに戦闘は任せることが出来ないので、先頭に俺、最後尾に久保田、真ん中にアナスタシアという布陣だ。そして配置場所に困る博士はアナスタシアの前に配置することになった。


「そうと決まれば、早く行くぞ」

「まだや」


久保田が止めた。どうしてだと聞く前に、彼は敵の突入を待つとだけ言って近くのソファに寝っ転がった。

俺が咎める声も聞かずに、彼は俺に非常食のチャーハンの缶詰を渡した。スプーンも付けてくれていた。


「まだ時間はある。十分に回復するんも、作戦が開始するまでの大切な布石やろ?それに、今の状態じゃ、アナスタシアの姉ちゃんも全然動けへん。とろとろ動いとったら囲まれて終わりや」


確かに、筋は通っている。

俺は非常食の缶詰を開けて、その中身を食べだした。



「水谷隊長、そろそろ穴を開けられるころです」


近衛隊員の言葉に、僕は頷いた。持ってきていた『八菱 一〇〇式機関短銃』を眺めて、ため息をついた。

誰かに聞かれたかと思って口をつぐんだが、誰にも届いていなかったようで、少し安心した。


「では、穴を爆破して、それと同時に突入しろ。敵は恐らく満足な装備も持っていないだろう。それに、こちらには『あれ』があるから例え君たちが死せども確実に仕留められる」

「はっ!」


近衛隊員の背中を追って、僕は突入予定の穴の入口までやってきた。爆弾が備え付けられ、全身装甲板に身を包んだ一個小隊が待機していた。


「突撃開始」


僕の号令とともに、地下室に開けられた穴に取り付けられた爆弾が爆発した。

瓦礫の崩落音とともに兵士が次々と穴の中に飛び込んでいき、すぐにしたで銃声が聞こえるかと思ったが、下に行った隊員の第一声を聞いた僕は唖然とした。


「誰もいません!もぬけの殻です!」

「何!?そんなはず―――」


ズドォォォンッ!!


爆薬の音が基地全体を震わせた。それと同時に周囲から立ち込めた濃い煙幕が僕達を覆った。すぐに銃声が鳴り響いたと思えば、下の兵士の威嚇射撃だったようで彼らの報告が聞こえた。


「ただのトラップです!やはり誰もいません」

「了解した。すぐに捜索を開始しろ。敵は四人だ、五人で移動しろ」

「はい!」


隊員が直ぐに行動を開始するのを見届けてから、僕は一旦資料の整理のために作戦室に戻った。

作戦室のモニターにはこの基地の衛星写真と、現在この基地に配置されている兵士の心拍を元にした位置情報が示されている。先のEMP攻撃でダウンしていたが、今息を吹き返したようだ。


これでどこかの隊が攻撃を受ければそこに急行できるという算段だ。

僕はここでじっくりと見守ってればよいというわけで...


ピピッ


全ての心拍反応が消滅した。

十秒ほど何が起こっているかが理解できず、硬直していた。


「クソっ!」


銃を手にとって作戦室を飛び出した。他に伏兵がいないかと警戒している兵士十数人を連れて穴の中の偵察を行わせた。


「隊長。敵影は確認できません」


下に降りた兵士も周囲の探索に出ようとした所、何食わぬ顔で先に探索に出た重武装兵が騒ぎを聞きつけて帰ってきた。


「生きてたのか!?」

「え、ええ。大丈夫です。他の隊も依然敵影確認できずと。なにかありましたか?」

「...敵には、確かバグとかいう博士だったな。この術、もしかすれば現在手配中の久保田も混じっているだろう。相当厄介なことになってきたな。総員、一旦引き上げるぞ。『アレ』を使う」

「アレを、ですか!?」

「ああ、使うぞ。出し惜しみは無しだ」


部隊を全て地上に戻して、僕達は一旦作戦会議のために作戦室に戻った。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『濁流』

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