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記録3:黒歴史

時代解説 戦時・戦後下の日本


戦争初期の日本人は徴兵に反対するだけの木偶の坊のような存在であったが、沖縄が一度占領され、本州の米軍基地に爆撃機が飛んでくるようになると、国民の意識は本格的に臨戦態勢に移行した。

大規模徴兵には積極的に参加し、刑務所に収監されていた若い男たちは最も危険な台湾戦線に送られた。

(老人は別の使い方をさせられた)

戦争中期から後期にかけては先の大戦と同じく物資不足に悩まされ、配給が実施されると思われたが、アメリカ主導の物資支援によりその心配はなくなった。

一時的に物資不足の危機にあったが、結局物資は十分に蓄えたまま日本は東京を核の炎で消滅せただけで戦争を終えた。

戦後は外交面では蓋をして必要最低限の取引しか行わくなり、政治体制が大幅に移行したことでアメリカやロシア、欧州、中国との関係は一時劣悪になった部分もあったが、現在は落ち着いている。

 僕達が初めて会ったのは、十年前の朝か昼か夜。その日はたまたま銀行に行っていて、ちょうど順番を待っていたときだった。(しかし、もう十年も前だから、よく覚えていない。そこは許してほしい。)


 戦争が始まってまだ間もないときだったから、国民は戦争を知らない。まだ普通の日常だった。


 そんな日常の銀行に、黒い覆面男三人が拳銃をちらつかせて入ってきた。

 腰には軍用ナイフのようなものも差している。逃げ惑う客に何も言わず、容赦なく一発銃弾を叩き込み、その人は赤い血溜まりの中に倒れ込み、動かなくなった。


 それが僕が見た初めての殺人現場だった。


 男たちは全員を一同に集めて、金を詰めさせた。

 三人だけで来ていると気づいたのはその時だ。一人は監視、一人は金を詰めさせている。そしてもう一人も監視なのだが、注射器で何かを体内に入れていたのが見えた。


 僕は瞬時にそれがクスリだと分かり、新手の闇バイトじゃないかと勝手に推定した。

 最近増えているからというのがこじつけた理由だったはずだ。今考えれば、わざわざ銀行をターゲットにするくらいなんだから闇バイトなはずはなかったのだが...


 僕は人が死んでも、パニックになっていたのか特に何も思わなかったが、今度は男が何かを叫んで銃を子どもに突きつけた。

 必死に抵抗する母親を引き剥がし、子どもに向かって二発の鉛玉をその男は叩き込んだ。


 その子は足と腹を撃たれて、最初はもがいていたのに、だんだん呼吸が止まり始め、ついにはさっきの死体と同じように、そこにあるだけの人の形をした肉塊になってしまった。


 その子の母親が強盗に飛びかかったが、強盗は意味のわからないことを叫び、その母親を殴り飛ばし、顔面に鉛玉を残っている限り打ち尽くした。


 拳銃のスライドが完全に後退したのを確認してから、何を思ったのか、僕は一気に走り出して男の拳銃を奪い、得意の格闘技の投げ技で地面に投げ飛ばし、腰にあったナイフを奪って強盗の首に一刺し加えた。もう二人は一瞬何が起こったのかよく分かっていないようで混乱しつつも無造作に銃を撃ちまくっていたが、すぐに弾が切れ二人共同じく僕のナイフの餌食になった。


 血溜まりの中に佇む僕を見て、ありがとうと声を掛ける人、何やってるんだと叫ぶ人、逃げる人など、色んな人がいた。


 とりあえず僕は警察が来るまで待って、そのまま連行された。


 初めて乗るパトカーの中で、僕は色々質問された。

 よく覚えていなかったので、ここは飛ばす。


 そして、警察署に着こうかという所で、僕の乗っていたパトカーは、正面の車から襲撃にあった。

 フロントガラスに鉛玉の雨が降り、運転手と助手席の人は即死した。


 隣に乗っていた警察官は、機転を利かせて僕を外に出してくれた。

 その警官は急いで銃撃戦に参加し、何発か撃っていたが、すぐに銃弾が切れて、僕を逃がそうと、車から離れ、自ら敵の銃弾を浴びに行った。


 僕は急いで反対方向に走り出し、路地裏に隠れた。

 近くに落ちてあったパイプでマンホールのふたを開けて中に入った。

 服が汚れるのが少し嫌だったが、背に腹は代えられないということで下水道に入った。


 激臭漂う下水道に、一回だけ嘔吐し、上からさっきの銃撃犯と思われる声が聞こえてきた。

 どうやらまだ気づいていないようだ。


 僕はそのまま一晩くらいを下水道で過ごし、気づけば激臭も感じないほどには鼻が狂っていた。

 流石に鼻が狂ったままは嫌なので、恐る恐る外に出てみると、外には自衛隊や警察官がたくさんいて、全員が小銃を持っていて、厳戒態勢を敷いていた。


 昨晩切っておいたスマホの電源を付けた。

強盗犯とは関係なく、ただ警察を狙った中国が仕掛けたテロ攻撃だったと知ったのは、そこだった。

父親や友人からの連絡がひっきりなしに来ていたが、とりあえず全部無視してスマホの電源を切った。

どうしようかと思案していると、後ろから声が聞こえた。


「両手を上げて跪け」


 背中になにか小さな円形のものが突きつけられた。多分銃口だろうと思い、僕は跪いて両手を上げた。

両手を縛られ、目隠しをされ、そのまま声を上げることもなく僕は何者かに連行された。


 車の中に突っ込まれると同時に目隠しだけが外された。どうやらトラックの荷台に載せられたようで、外の景色は一切見えない。しかし、電灯を設置していたので中は明るく、荷台の景色は見えた。

目の前には一人の青年がいた。それがハルだった。

その隣になぜかあどけない顔をしながらも、小さな拳銃を握りしめる少女もいた。これがムルだ。

僕が、十六歳だったからムルは九歳、ハルは二十歳だったはずだ。


 今考えてみると、よくそんな小さな子に拳銃をもたせたなと思えるのだが、これから十年の間に世界に名を馳せるような暗殺者になるのだから、恐らく彼女の素質をハルは見抜いていたのだろう。


 そして発車すると、すぐにハルが自己紹介とムルの紹介をした。僕も一応自己紹介をしたはずだ。

彼らとはすぐに仲良く慣れそうな気がしたが、誘拐されていた僕はそんな悠長なことは言ってられなかかった。

とにかく二人を問い詰めて、僕を殺すのかと聞いた所、二人は顔を見合わせて笑った。


 二人は今からとある人に会いに行くと言って僕を落ち着かせようとした。


 数時間車に揺られて、僕達は防衛省までやってきた。車から降ろされるまえ、ハルから臭いのでとりあえず着替えろと言われて僕はスーツに着替えた。マスクとメガネ、かつらも付けられ(僕は決してハゲては居ない)、ハルから香水を掛けられ匂いと見た目を偽装した。

 ムルはトラックの中で待つと言ったが、ハルが危ないからと言ってトランクケースの中にムルを詰め込んだ。まだ小さい子どもにやることじゃないと僕は思ったのだが、とりあえず何も言わずに彼の後ろについて行った。


 ハルはエレベーターに乗り込み、それには何にかの暗号があるようで、順序よくボタンを押していった。

一応覚えてはいるが、ハルから秘匿命令が出たので口外は出来ない。


 そして、上に行ったか下に行ったか横に行ったか、よく分からなかったが、扉が開いた時、そこにはレッドカーペットが前に敷かれており、いかにもボス部屋前といった雰囲気だった。廊下の突き当りに一部屋だけがあり、そこには『総司令室』と書かれていた。

一体どんな人と面会するのだ。

固唾をのんで、ハルが扉を開けるのを見守った。


重い木製扉が開けられると、そこは和室で左右対称の構造になっており、中央の最奥には日本国旗が掲げられていた。その前に、一人の男が座っていた。見た所、五十から六十の見た目だったが、それにしては目に炎が宿っている。野心マシマシだ。


 男は、大久保と名乗り、単刀直入に僕に言った。


「お前に、二つの選択肢を与えよう。儂について来て英雄となるか、君の父と一緒に人殺しと呼ばれるか...まあ、聡明なお前なら分かるだろ?悪いな、初対面の少年にこんな質問しかできなくて」


 父の事が何故出てくるのかと聞いた所、大久保は父の上司だそう。それで、僕が銀行で三人殺っつけた事を餌にして僕に何かをさせるつもりなのだろう。

 悪いところも見当たらなかったので、結局、僕は英雄となる方を選んだ。


 僕が大久保にそう伝えると、彼はニコニコして僕に一つのネクタイピンをくれた。

ピンク色の桜の裏に黄金の菊花紋章があるというような靖国神社と似たようなデザインでネクタイに穴を開けてシャツと固定するタイプだ。


 それから、僕は大久保から山程の紙を貰って、その場を後にすることとなった。帰ろうにも家には警察やその他の組織が待ち構えているということで彼が用意してくれた家をもらうことになった。


 ハルに連れられてもう一度トラックの荷台に乗り込み、他愛のない話をしながら僕達は新居に到着した。

お読み頂きありがとう御座いました。次回も請うご期待!


次回『シェアハウス』

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