記録47:虐殺スンナ
歴史解説 スンナ派指導者の虐殺
第三次世界大戦に伴って再び再燃した中東問題において、イスラエルとアメリカからの執拗な攻撃から逃れるため、中東全土にいたイスラム教シーア派、スンナ派の過激派及びテロリストが一斉にアフリカ大陸に移動し、アル・ハラータを設立した。
しかし、スンナ派の指導者が圧倒的に多い中、シーア派指導者が『共同体の安定の為』にシーア派、スンナ派の指導者を集めて会議を開いた。
ここでシーア派が突如スンナ派の多数の指導者を逮捕し、処刑するか国外追放をしたのだ。これに対してシーア派は『醜い大人を粛清したまでだ』という声明を出した。残ったスンナ派指導者は残された知識を活用してシーア派指導者との和解に努めた。結果的にこれは成功し、アフリカ大陸ではシーア派、スンナ派、土着の宗教の入り混じったイスラム教が信仰されている。
役所で手続きを終え、正式に入国したことになった僕達三人は、なぜかラシードに釣れられて近くのレストランに連れて行かれた。
彼曰く、入国祝だそうだ。
「さ、食べよう!」
しかし、この料理、ハンバーガーである。しかし、ラシードは祈りなどは捧げずにガツガツと食べている。流石に気になってしまった僕は、彼に聞いた。
「これ、食べて大丈夫なの?牛肉でしょ?」
「ん?ああ大丈夫さ。だってこれ、合成肉だから。元大豆さ」
そこまで配慮しているのかと思いつつ、牛肉ではないことに若干落胆した。長らくまともな飯を食べていないのだ。合衆国に捕まってたときは、不味い飯を食わされていたからこれであもある程度美味しく感じるが、アレックスとアナスタシアは顔を歪めている。
確実に不味いのだろう。
なんの躊躇いもなく食べ続ける僕に、ラシードは不思議そうに聞いた。
「よく食べれるね。僕は不味くて何とか食べるので精一杯だよ?なんで食べれるのさ?」
「何で不味いと思ってる店に連れてきたの!?」
「いやぁ、驚かせようと思って...ま、栄養価は高いから安心して食べていいよ」
「そう...」
僕は、二人の方を恐る恐る見た。二人共、ものすごい剣幕だ。この表情のまま、この街を歩かれれば、ギャングが歩いていると勘違いされ、警察を呼ばれかねないので僕はとりあえず二人を全力でなだめた。
なんとか二人が落ち着いた所で店を出て、今度は衣服関係の店に行った。
店内に入ると異国の臭いが充満していて、海外旅行気分を味わうことができた。ラシードに連れられて、僕達向けの服を見たが、どれもセンスが絶望的で、結局そのままの服の方がいいと服屋の店員にまで言われたのだった。
そして一番楽しみにしていた武器屋に入ると、なぜか武器が一本しか残っていなかった。
店主の言葉を翻訳したラシード曰く、田舎だから物の巡りが少し悪いらしい。その上、最近は野生動物が侵攻してきているからその対処で短剣は売り切れ、長剣も売り切れ、結局残ったのは杖程度の中途半端な長さの、サーベルだった。
仕方なくそれを買うと、なんと鞘を選ばせてくれた。
僕がラシードに任せると、彼は白地に黄金の装飾のついた綺羅びやかな鞘を選んでくれた。剣の柄にも金色が入っているから、結構いい感じになっていた。
僕がラシードに礼を言って店を出ると、アレックスとアナスタシアは何故か嬉しそうな顔をしていた。
恐らくまだナイフを振り回せることに喜びでも感じているのだろう。秘密作戦なので、彼らには悪いが、自重してもらいたいものだ。
「君、探偵だったよね?だったら、ちょっと助けてほしいことがあるんだ」
ラシードが僕に言った。かなり深刻な事態のようで、声のトーンを二段階落として話していた。
「何があったの?」
僕が聞いてみると、彼は
「僕の家の中で誰かが金庫のロックを外したんだ。お父様以外は外せないのに、そのお父様が居ないタイミングで金庫が開いていたんだ。幸い、警報装置が発動したからロック解除だけで済んだんだけど、監視カメラは全てダウンしてたから、犯人がわからないんだ。僕の家まで来てくれたらもっと色々分かるけど...大丈夫そうかな?」
と言った。僕は別に手伝っても良いが、任務が少し遅れる可能性がある。まあ、僕が元気になり次第やればいいような任務だったので別に良いのだが...
さて、二人の反応は...っと。結構乗り気だね。よし、手伝おう。
「分かった。私達が手伝おう」
「ありがとう、感謝するよ!それで、依頼料は...」
「そんなのは良いよ。私たちを助けてくれた見返りだと思ってよ」
「申し訳ないよ、そんなの」
「こういう時は黙って気持ちを受け取っておくものだよ」
僕はラシードに背を向けて、剣を腰のベルトに収めた。
「さ、行こうか。ラシード、君の家はどこかな?」
「アレクサンドリア」
「え?ここ、アルジェリアなんだけど...?それに、アレクサンドリアってアル・ハラータの本部じゃ...」
「そうだけど、それがどうしたって言うんだい?さ、早く行こうよ」
「マジかぁ...」
◆
なぜか空港に待機していたチャーター便に乗り込んで、僕はアレックスとアナスタシアの間に座っていた。
二人共大きいから僕の席が狭い。目の前にはラシードがシャンパングラスに子供らしくレモンソーダを入れて嗜んでいる。
そして、チャーター便に乗ったことで、ある疑問が確信に変わった。
『ラシード、絶対にアル・ハラータの重要人物だろ!』
僕は手に持っていた携帯電話を操作して、現在判明しているアル・ハラータの幹部一覧サイトを見た。
どこにも載ってない。なら、組織の中くらいの階級にいるのか?こんな子どもなら、目もつきやすいから、色んな国にバレるだろうし。
「なあ、ラシード。お前、いくつだ?」
アレックスが唐突に聞いた。
「あ、それ、私も聞きたいと思っていました」
アナスタシアもすぐに賛同した。
実のところ、僕も気になっている。見た所、まで成人もしていないだろうし、学校に通うような年齢だろう。(それはこのムルの体でも同じことなのだが...)
結局、彼の年齢を知ろうが知らないが、どっちでも良いのだが、とりあえず聞いておきたい。
「僕は...確か...今年で一七だったはず。だから今は一六だね」
「「「ファッ?!」」」
思ってたより若かった。っていうかまだ高一じゃねえか。
それなのにチャーター便を使うのか?どんな財力なんだよ。
「...そうか」
言うことが出てこなかったアレックスが呟いた。
僕もアナスタシアも何も言うことが見つからず、黙っていると、ラシードが不思議そうな顔をして言った。
「僕たちの土地じゃ、これが普通だよ。僕らからすれば、大人になるまで評価されない世界がおかしいんだよ。スンナ派も、シーア派もどっちだって良いのに、」
「じゃあ、あなたはアル・ハラータで行われた『粛清』も否定するのですか?この国では、そのような思想を持つのは危険なのでは?」
アナスタシアが堪えきれなかったようで、早口に言った。『粛清』というのはアル・ハラータによるイスラム教スンナ派指導者の虐殺のことだ。
ラシードは、暫く悩んでから持論を展開した。
「あんなの、バカ同士が争ってるだけだよ。結局お互いの利益のことしか考えてないのさ」
その後、彼は話をそらすように付け加えて言った。
「ほら、見えてきたよ。あれが僕達共同体の本拠地、アレクサンドリアだ」
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『アレクサンドリア』




