記録43:爪
しばらく地下に潜伏し、体力を回復した後、僕達は市街地へと続くマンホールを開けた。
すっかり日は落ちており、周囲に人影は見えなかった。運良く路地裏に出たようだ。
順番に外に出て、全員が外に出たのを確認してからマンホールの蓋を閉めた。恐らく後を追ってくる米兵へのプレゼントとして手榴弾を巻き付けたワイヤーをセットしてその場を離れた。
街は、不気味なほどに静かで大通りに少し顔を出してみても、誰一人として歩いているものはいなかった。
窓は完全に閉められ、建物からの光は一切見えない。街頭だけが誰も居ないジブラルタルの街の大通りを照らしていた。
「なんだ...これ?」
不気味なほどの静けさに、アレックスが呟いた。アナスタシアも、久保田もバグも不安そうな顔を浮かべている。ここに居る全員の手に握られているであろう銃火器を握る手に力が入った。
「厳戒令だろうね...ミスったね。これは...」
「どういうことだよ?何か不味いことがあるのか?」
「ああ、不味いも不味いさ。多分この街全域が今や米軍の手中にあるね。どこから爆弾やドローンが飛んできてもおかしくない」
「じゃあ、どうするんだよ?」
僕はアレックスの顔を正面から見て言った。
「分からない!」
「は?わ、分からないって明日香...まじか?」
「ああ、大マジだよ。私達じゃ、どうしようもないよ。相手が一歩上だったんだ。今、多分私達の頭上にはUAVとか色々飛んでるだろうから、こちらの場所はもうバレているだろうね。私達ができるのは...一つだけだ。さっきも言った通り、誇りを捨てる。つまり民間人に手を出すんだ。そこで色々盗んで脱出する。でも、これをするくらいなら、アレックスと博士は投降することを選ぶでしょ?残り二人は...やりかねない、と言うよりやったことあるよね」
「「もちろん」」
アナスタシアと久保田が、二人同時に同じ答えを出してきた。
僕はため息をついて、できるだけ長く生き残るための方法を考えた。もう、一つしか残っていないな。
「もう一回だけ下水道の中に入って時間を稼ごう。もしかしたら、中峰が天菊に連絡を入れてくれているかもしれない」
「分かった。それで明日香、骨の調子はどうだ?まだ治りきってない上にあの爆発だったろ?相当痛いんじゃないか?」
うっ...バレた。アレックスはこういうところの気遣いは出来るんだよなぁ...
まぁ、隠すことでもないから素直に認めるけど。
「うん、痛いよ。多分右足は相当いってると思う。だ、か、ら!背負って!」
「いいぜ、ほら、乗りな」
「わーい」
僕がアレックスの背中に乗ると同時に、マンホールの手榴弾が炸裂した。恐らく米兵がもうすぐそこまで来ているのだろう。
アレックスとアナスタシアが銃を構えていると、とんでもない勢いでマンホールの蓋が空中に撃ち上がり、穴からはフル装備状態のウーヴが出てきた。
「...まずい!逃げるんだ!早く!アレックスと私でなんとかする!」
僕の声にアナスタシアが通りに向かって走り出した。久保田がバグを片手で抱えてその後を追った。
さすがエリートたちだ。足は早い。
「さて、ウーヴ。僕達を殺しに来たのかい?」
「いえ、そういう訳でもないんです。ただ、大人しくアメリカに来て、協力していただければ市民権も与えます。日本にも帰します。悪い話ではないと思いますが」
「実は、言ってなかったけど、私には殺さなきゃいけない人がいるんだよ。今はこんな体たらくだけど、いつかこの銃のタングステン弾頭を脳天にぶち込むって決めてるんだ。だから、アメリカには行けない」
ウーヴは頷いて言った。
「そうですか。それならっ―――」
「明日香!許せ!」
アレックスが僕を背中から落としてウーヴの突進攻撃を銃で防いだ。全身に骨折の痛みが走り回る。
呼吸を整えて、僕が二人を見上げると、ウーヴはCode:Clawsの代名詞とも呼べる武器である鋼鉄の鉤爪をむき出しにしていて、銃を半分突き破っていた。
アレックスが銃を引っかかっているウーヴごと蹴り飛ばし、僕を抱えて通りに出た。
アナスタシアと久保田と博士はどこかに逃げていて、近くにはあら手の米兵たちが一個小隊、つまり約五十人程度が集合していた。僕達は大人しく両手を上げて静止していた。
この中で、大体十人程度をやっつければ部隊は撤退するだろう。僕はアレックスにその旨を伝えたが、彼は顔を曇らせてこう言うばかりだった。
「どうするんだ。俺でもあの人数から射撃を受ければ死ぬぞ?」
「だから、策があるんだ。この街の街灯がまだ電子部品を使った街頭で良かったと思わない?」
「あぁ、なる程な。まだEMPグレネードが残ってるのを見たんだな」
「うん。じゃあ私は暫く目を閉じているから、できるだけ時間を引き伸ばしてね」
アレックスが頷いたのを確認してから、僕は目を閉じた。米兵が近づいてきた時、アレックスがピンを抜く音が聞こえた。
そして、バシュンという音と同時に僕は目を開けた。
こちらのほうが先に目が慣れていて一歩先に銃を抜いた。
先に銃を構えている人間から順番に撃った。すぐに反撃しようと銃を構えて発砲したが、まだ目が慣れていない状況でなれるはずもなく、僕は次々に射殺していった。
マガジンを交換した所でアレックスとウーヴの戦闘が始まっていることに気づいた。僕さっきの路地裏に逃げ込み、追手を数人排除した所で、屋上に続く梯子に手をかけた。
実は、先程屋上に続くはしごがあることは確認済みなのだ。
米兵たちは欧州一のサイボーグと米国のサイボーグの戦闘の激しさに目を取られ、僕のことを見失っていた。まあ、眼の前で花火大会が急に開催されたようなものだ。普通に今まで追っていた小さな目標など忘れるだろう。
僕は拳銃を構えて、狙撃の姿勢に入った。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『バチバチ花火』




