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記録38:MR.KUBOTA

二人の男が、パリのとあるバーでワインを飲んでいた。大柄な男と、小柄な男。小柄と言っても、隣りにいる巨漢のせいで少し小さく見えてしまっているのだ。


大柄な男がワイングラスをカウンターに置いて、呟いた。


「なあ、クボタさん。明日から異動なのかい?寂しくなっちまうよ」

「なぁに、すぐ片付けて来たるから、安心せえよ」

「それだと良いんだが...毎回毎回、アンタの任務は長くなるだろ?」


クボタと呼ばれた男は暫く天井を見ながらワイングラスを回した。そしてピタッと手を止めたかと思えば、ワインを一気に飲み干して言った。


「人生百年、たかが半年くらい大丈夫やろ?ワイが、おらんでも此処パリは上手いこと行くさかいに、心配すんなよ」


ワイングラスを置いたクボタは、隣の巨漢、レックスに向かって言った。


「ほんなら、パリ最後の仕事、行こか」

「ああ、最後だ。派手にやってやりましょう」

「ハハッ、ええ度胸や」


多すぎるチップと代金をカウンターに乗せ、二人はそのまま店を出てパリの人混みの中に消えていった。



ワイの手元の時計では、今は午後十時ぴったり。今から五分以内にこの建物を制圧するのが今回の任務であるとお上は言うとった。

目の前には三階建ての宿屋。ここが今アル・ハラータの活動拠点の内、一番大きい場所や。


手に持っているのは消音器付、亜音速弾のAR15ライフル。


扉の合鍵はもう持っているから、いつでも突入はできる。後はレックスの合図を待つだけやけど...


パァンッ!


電波阻害手榴弾の炸裂する音が三階から聞こえた。

同時に扉を合鍵で開けて中に侵入した。まだ誰にも気づかれていない。

わいはゆっくりと各部屋を見て回り、資料の入ってると思われるパソコンに片っ端からデータ解析装置を接続して、内部情報を全て抜き取った。


二階に行くと戦闘員が銃を持って、三階からの襲撃に備えていたので、暗闇に紛れて残っていた戦闘員を制圧した。


それから、クリアリングはレックスに任せて、わいは破壊されていない全てのパソコンから速やかにデータを引き抜いた。


抜き取った情報を全て一つのUSBメモリに移して、専用ケースに押し込んだ後、ポケットにねじ込んだ。


銃声を聞いた近隣住民が通報したパトカーのサイレンの音がする前に、ワイ達二人は装備をその場に捨てて監視カメラの付いていない路地裏を通りながら現場を離れた。


USBメモリの中身をコピー、レックスのパソコンを通じてEV諜報部に流した後、レックスにバレないようにワイは情報収集のために近衛隊に情報を転送した。


「なあ、クボタさん」

「なんや?」

「ここで、お別れみたいだぜ。ほら、迎えの車だ。アンタはこっから徒歩で空港に向かうんだろ?」

「せやな。ほな、さいなら」


EV諜報部の車がやって来たので、レックスに簡単に別れの言葉を残して、ワイはレックスの乗る車を見送った。彼は最後にこういう言葉を残した。


「最高の傭兵だったぜ。クボタさん」


車が行った後、ワイは地面を見つめて鼻で笑った。


「スパイも楽や無いなぁ...ついわろうてまうな」


偽造パスポートに偽造チケットを握りしめ、ワイは一人空港に向かった。



近衛隊本部では、今日も大量の将官たちが忙しなく動いている。軍の人間も数人混じっているが、恐らく簡易的な報告だろう。

私が歩けば周りの人間は私をまるで人外のような目で見ている。それほど怖がる必要など無いのに。


「大久保長官。ご報告に参りました」

「おぉ、戦闘群長か。それで、何の報告だったかな」

「大阪で活動をしていたKKKもどきの調査結果です。結果から申し上げますと、探偵、山雁さんの言っていた通り、中国の差し金でした。実行犯は全て外患誘致罪及び国家反逆罪で処刑済みです」

「...全員か?」

「もちろんです。我が国に仇成す劣等種は全て排除しなければなりませんから」

「そうか......そういえば、朝鮮半島の統治は進んでいるか?最近は南部の委任統治もうまく言っていると聞いているが、デモなどは起きていないのか?」

「おきてはいました。しかし、これも全て秘密裏に処刑し、事故死と公表しているので、問題ありません」

「やはりな...戦闘群長。少し良いか?」


大久保は椅子に座り直して、大きなため息をついて、眉間にシワを寄せて言った。


「君の暴政ぶりは他の人からも聞いている。少しは自重しなさ―――」

「お言葉ですが長官殿。『他の人』とは、具体的にはどのような人を指すのでしょうか?軍人ですか?近衛隊の人間ですか?それとも原住民の政治家ですか?」

「軍人と現地の日本国民、それから現地活動家だ。あわせても数万人にはのぼる」

「長官殿はお忘れになっているようですね」

「何をだ?」

「近衛隊、日本国国家近衛隊は、国家に忠誠を誓い、国家に仇なす者を排除するための組織です。借りにもその長官である貴方が、敵勢力かもしれない者共の言葉を信じ込んでどうするのですか?」

「いや―――」

「なにか違うことでも?」


大久保は、下を向いて黙ってしまった。私は報告書を彼の机の上において、読んでおいて下さいねと言って立ち去った。


それから、私は自分の執務室に戻り、パソコンを起動した。

久保田からメールが届いており、中身はどうやらアル・ハラータの活動報告のようだ。こんな事後報告の文書を送ってきてどうするのだと思ってが、よく見てみると、これから実行することも書かれていた。


【CIA基地襲撃作戦】と書かれた題名には思わず見入ってしまった。

なぜなら、そこは明日香の収容されている基地だったからだ。私は急いで久保田にメールを送り返し、椅子の背もたれにもたれかかり、木製の天井を向いてため息をついた。


「大丈夫ですかね...山雁さんは...何とも無ければ良いのですが...」


しばらくした後、私は【CIA基地襲撃作戦】の内容を読み込んで、じっくりと彼女を救出するための作戦を練った。



夜中に、研究所の前で立つ二人の男女の人影があった。

男のほうが先に女に問いかけた。


「なあ、ミハイル」

「なぁに?ウラジミール」

「ナターシャは、このサプライズ参戦は喜んでくれるかな?」

「ええ、喜ぶでしょうね。なにせ、彼女はずっと一人ぼっちだったんだもの」

「そうだと良いけどね。旧友のこと、覚えてるかな」

「覚えてるでしょうね。なにせ、彼女を鍛えたのは私達二人なんだもの」


ミハイルとウラジミールは少し笑って研究所に正面から正当な手続きをして入っていった。


彼らとアナスタシアが出会い、そしてアナスタシアとアレクサンダーが一緒にいるところを目撃されて大きすぎる誤解が生まれるまで、そう時間はかからなかった。

国民身分証

名前:久保田 耳利ミミトシ

身長・体重:164・60

経歴:東京大学文学部卒業後、近衛隊一般採用試験を経て諜報部に入部。本人は拒絶したものの、拒否権はなかった。

職業:近衛隊諜報部 ヨーロッパ諜報部員

年齢:30


お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『喧嘩で芽生える感情もある』

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