記録37:カチコミ申す
組織解説
Freyr Technologies社・Baldur Arms社
両方ともバグの研究施設と技術協定を結んでおり、ある程度のわがままなら聞いてくれる企業。ヨーロッパの武器産業の新顔で、オーダーメイドをしてもらいやすいという特色がある。両者ともにスウェーデンに本社を置いている。過去の武器から新しい武器を派生させるのが好きな企業なので、骨董品のようなものばかり作っているため、欧州全体からの評価はイマイチだが、一部のファンからは熱烈な支持を得ている。
「アナスタシア君、アレックス君。君たちの新しい武器のお披露目だ」
人一倍目を輝かせている四十路のバグに、俺とアナスタシアは苦笑いを浮かべつつも、どんな新しい武器がもらえるのかと若干楽しみにしていた。
博士が手元のパネルを操作して目の前の鉄扉を開けた。
ガスが吹き出すような音の後に扉がゆっくりと開き、数多の武器が俺とアナスタシアの前に現れた。
博士はロボットアームのついた台車を使って二つの武器を俺の前に出してきた。
メインとサブ武器だ。
一つは、汎用機関銃のラインメタルMG3のような見た目だった。コピー品というわけではなく、ピカティニーレールは付いていて、弾丸が少し大きい気がする、ざっと9mmといったところだ。
もう一つの武器は少し代わった形の、少し長いナイフで刃の先端に引っかかりそうな反しがついていた。
「まずはその武器の解説だが、アタシの口から言うのは面倒だから、この書類でも呼んでおくことだ」
博士は俺の前に銃とナイフの名前の書かれた紙を出してくれた。
その詳細は、以下の通りだ。
❖Freyr MG51❖
Freyr Technologies社開発の完全オーダーメイド汎用機関銃。モチーフはラインメタルMG3である。
重量17.2kgと少々重めになっているが、そこは使用者のフィジカルでカバーできる。内部機構が簡素な割にそれを守るための機構がしっかりしており、バレルの交換は、レバーひとつで簡単に操作できる。
また、銃身長は600mmで、使用弾丸は .354口径の専用弾を使用する。つまり9mm弾を使う。
9mm弾と言っても拳銃弾の形状ではなく、AP弾と呼ばれる徹甲弾になっている。これは対サイボーグ用、特にCode:Clawsの装甲を抜くために設計された特殊弾薬で、弾芯にはステンレスが使用されている。
ベルト給弾式を採用し、最大で200発入るボックスマガジンを銃本体に取り付けることができる。
全長が1320mmとなっており、発射速度は1000発/分である。反動を抑えるためにストック部分には油圧ピストンと強力なバネを使用している。
作動方式はローラーロック式を採用し、銃口初速は900m/sを超える。
❖夜の長いナイフ❖
ソードブレイカーを参考に製造した。タングステン主軸に炭素と反応させることで高い硬度を実現し、持ち手部分には高分子炭素繊維を使用し、全体的に強靭なナイフに仕上げている。
全部で三本の製造に成功したため、多少の乱暴な扱いは可能である。
「アレクサンダーさん。どんな武器だったんですか?」
「話してもいいが、書類交換したほうが良いだろ?ほら、お前のも見せてくれ」
「はいはい」
アナスタシアはすんなりと書類の交換に応じてくれた、一緒に戦うのだから、お互いの武器の性能くらい知っておかなければならないのだ。
アナスタシアから受け取った書類を見て、俺は驚いた。
「お前、それがメイン武器なのか?」
「ええ、もちろん。こっちが本業ですから」
「...通用するのかぁ?これ...」
「このまえ通用したから大丈夫ですよ」
アナスタシアの武器の詳細をまとめたのが、以下の通りだ。
❖Baldur Sayga12❖
Sayga12と殆ど同じであるが、専用弾を使用するため、中身が少々異なっているが細かすぎるので省略。
使用弾薬には発光物質と発煙物質が含まれており、弾薬形状はトゲトゲして隙間に入り込みやすい形になっている。
❖爆裂ナイフ❖
至ってシンプルな形状の戦闘ナイフだが、強い刺突を感知すると、柄の中の刃部に仕込まれたそこそこの量の炸薬が破裂し、刃部が相手に刺さる。百本程度製造したので好きに使えるだろう。
炸薬付替刃も準備してある。
「ウ~ン。アナスタシア、お前の武器、なんか雑じゃね?」
「それは私も思いました。博士...って、もう居ないですね。どうしましょうか」
「まあ、俺がお前も守れば良いだけだろ?」
「え?」
「ん?どうした。なにか不服か?」
アナスタシアは、慌てた様子で俺に背を向けて言った。
「あなたの手を、煩わせるまでもないです。私の身は私で守りますから。むしろ、貴方を私が守らなければならないかもしれませんよ?」
「ハハッ。そりゃ良い冗談だ。守ってくれよ?アナ」
適当につけた略称で彼女を呼んで俺は銃を専用の鞄にしまって、背負った。そのまま俺は研究所の前まで、とある人を迎えに行った。
◆
「お、迎えに来てくれたのか。ありがとな。アレックスの兄ちゃん。じゃ、自己紹介だな。俺は水原鉄平、日本の警察だ。山雁明日香の誘拐事件として派遣されている」
「俺はハインリッヒ・アレクサンダー。サイボーグだ。よろしく」
タバコの匂いを引っ提げながら、ヤニの付いた歯を見せる水原鉄平を前に、俺は彼とは初対面にも関わらずイヤな顔をしてしまった。いや、してしまったと言うより、してやったかもしれないな...本当に臭い。タバコの匂いは苦手なんだ。
「おや、アレクサンダーさん。ここに居たんですね?」
後ろからアナスタシアがやってきた。急いで彼女に近づかないように言った。不思議そうな顔をする彼女は、何の躊躇いもなく水原に近づいた。
俺は知っているのだ。アナスタシアはタバコの匂いに弱い。しかも、鼻が人一倍いいので、こんな激臭を嗅いだらどうなるかなんて...!
「全く、どうしてそんなことを急に―――」
彼女は一瞬で意識を失って地面に倒れ込みそうになった。危うくキャッチできたが、悪夢を見ているような引きつった顔になっている。
俺は水原の方を向いて言った。
「すまないが、先に博士の所に行っててくれ。俺はアナを部屋まで運ぶから...こいつ、ちょっと貧血気味でな。悪い」
「そうか、気をつけろよ?」
「あ、ああ...そう言っておく」
お前が気をつけろと言いたかったが、俺はアナを横抱き、所謂お姫様抱っこで彼女の寝室まで運んだ。
誰も居ない廊下だから、羞恥心は比較的少なくて済む。俺はふとアナスタシアの顔に目を落とした。
ねてりゃきれいな顔をしているのは確かだ。明日香も一度言っていた。『アナスタシアは美人だ』と。しかし、俺と彼女の関係から考えれば、険悪にはならざるを得ないのだ。いくら顔が良くても、許せはしない。
彼女の寝室の扉を開けて、中に入った。まだアナスタシアは眠っている。
彼女の性格から考えて、きちんと整理された部屋かと思っていたが、そこら中にものが散らばっていて、足の踏み場がないような部屋だった。
ベッドを見つけて彼女をそこに運んでいる途中、アナスタシアが目を開けた。
「何、してるんですか?」
慌てて彼女を持つ腕に力が入った。呼吸が荒くなってもう一歩を踏み出した時、落ちてあった服に足が引っかかって、そのまま、なんとか彼女をベッドの上に着地させることは出来た。
しかし、俺も一緒に、だ。まずい。完全に押し倒した姿勢だ。アナスタシアは俺の顔をじっと見ている。俺は慌ててベッドから立ち上がって言い訳を開始したが、彼女はため息をついて言った。
「大丈夫です。貴方がそんな人だとは思ってませんよ。あの匂いにやられた私を運んでくれたのでしょう?ありがとうございます」
素直に感謝の意を示してくれた彼女にホッとして、俺は部屋を後にしようとした。
しかし、アナスタシアの右腕は俺をがっしりと掴んだ。
「助けてもらったのはいですが、勝手に私の部屋に入っておいて無罪放免は腹の虫が収まりません。アレクサンダーさん。貴方の部屋も見せて下さい」
「う...ま、まあ、良いか...ちょっとだけだぞ?」
「分かっています。どれだけ汚れていても薄い本を隠していようとも、私はなんとも言いませんから」
そして、彼女を俺の部屋の前まで誘導すると、彼女は躊躇なく俺の寝室の扉を開けた。
彼女は暫く固まった後、肩をわなわなと震わせて言った。
「何で綺麗なんですか!?」
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『MR.KUBOTA』




