記録18:米国陸軍大将討伐作戦
情勢解説 日本の仮想敵国(①が最も脅威であるとする)
①アメリカ合衆国
依然として世界最大規模の諜報組織であるCIAを活用し、世界中の大国の脅威となっている。軍事産業も世界を大幅にリードするため、戦術上での勝利を収めることすら難しくなっている。
近衛隊にも百人を超えるスパイが紛れ込んでいると予想されるので、重要資料を高官同士の手渡しに頼らざるを得ないようにした諸悪の根源。
②中華人民共和国
先の大戦の敵国であったが、内製の不安定化により、改革派と民主派、保守派と革命派で実質的に分裂しているため、外交面では蓋をしている大国である。しかし、未だ健在する人民解放軍が脅威であり、内戦状態になればクーデターが起き、周辺国に核爆弾を飛ばしかねない国である。
③ロシア第二帝国
強力な帝国主義政策を推し進め、中東諸国を丸々植民地にした。イスラエル付近まで国境を伸ばしているのでアメリカとは世界一熱い冷戦を繰り広げている。
日本とは統治体制がにていることから少し仲が良いが、先の大戦では敵国であったために、まだ油断のできない状況が続いている。
④アル・ハラータ
何を考えているかは分からないが、資源を高く買っていれば特に何もしてこないアフリカを支配するイスラム組織。しかし、戦闘員の規模は世界最大を誇り、武器の製造も開始しているので、戦わないことに越したことはない。
近年、組織の長が直々に後継者を指名し、最高議会で全会一致を果たしたため、世界で一番安定している。
今回の任務内容は、近衛隊を内部から破壊しようと企む米国陸軍大将を拉致し、向こうの持っている情報を入手することだ。近衛隊内部のスパイたちをあぶり出すには、一番の最適解らしい。
任務達成までのタイムリミットは近衛隊がしびれを切らして一斉捜査を開始するまでだ。一斉捜査が始まれば、確実にその波に乗って数人の近衛隊高官が暗殺されるだろう。
それは誰も望んでいない。だから、その前に仮想敵国であるアメリカから情報を盗み、スパイを抹殺するのだ。
任務詳細は、次のとおりである。
まず陸軍大将に接近して、彼がロシア第二帝国にやって来た目的を探り、できるだけ目立つ形で警護をすること。ある程度信頼を得ることができたら本格的に動き出し、寝込みを襲って拉致監禁した後、情報を吐かせて処刑する。
簡単に言えばこんなものだ。
全く、探偵にさせる仕事じゃあない。
僕は任務内容の手紙を見ながらため息をついた。
「おう、嬢ちゃん。どうした?そんなに浮かれない顔して」
アレックスと先ほど握手を交わしていた男が僕に話しかけてきた。僕は紙を自分のポケットに押し込んで言った。
「大丈夫ですよ。それで、はじめましてですよね...?」
「まあまあ、そんなに緊張しなさんな。せっかくの美形が台無しだぜ。俺はドエムス・シコルスキー、ロシア第二帝国軍大佐だ。EVの特殊部隊の訓練を一時担当していてな。アレックスとはその時に面識があったんだ」
「そうなんですね。私は山雁明日香、日本の探偵です」
私の自己紹介を終えると、アレックスが大きなあくびをした。そういえば、僕とアナスタシアは少しだけ仮眠を取っていたりもしたが、アレックスだけは一切眠らずに飛行機を操縦していたのだ。そりゃ疲れる。
僕は彼に事情を説明して近くのホテルに泊めてもらうことにした。
彼とはホテル前で別れて、また翌日の朝に迎えに来てくれるという。
僕達は彼の車でモスクワのホテル前まで送ってもらい、空港で予約できた一部屋を借りた。
「じゃあな、お二人さん。それと、アレックス!一部屋しか借りなかったけど変な気を起こすんじゃねえぞ!」
「大丈夫ですよ。アレックスはそんなやつじゃないと思いますから。それに、彼が日本に居たときも私と同棲してましたし、襲われたことはないから大丈夫ですよ」
僕が適当にそう言うと、ドエムスは鼻で笑って車で走り去っていった。
アレックスが僕の方を叩いてホテル内に入るように言い、僕達は言語もわからない国で宿泊するために、ホテルのフロントに行った。
翻訳イヤホンを装着したフロントのお姉さんは、ニッコリと笑って、英語で語りかけてきた。
「ご予約のハインリッヒさんとヤマカリさんですね?代金はもうお支払いになられているようなので、こちら、部屋の鍵になります」
どうやらここまで話は通っているようだ。
「ありがとう」
僕は彼女鍵をもらって部屋番号を確認した。『436』だった。
アレックスといっしょにエレベーターに乗り込んで、四階のボタンを押した。エレベーターが閉まる寸前、エレベーターに向かってくる人影が見えたので、一旦エレベーターの扉を開けた。
黒いサングラスを掛け、軽く会釈をして入ってきたのは、飛行機内で結構な騒動を鎮圧したアナスタシアだった。さっきぶりの邂逅に二人共驚いたが、エレベーターの中なので静かにしていた。
エレベーターが四階に到着して、僕達がエレベーターから降りると、アナスタシアも一緒に降りてきた。
顔を見合わせて、二人で少し笑った。
「まさか、一緒の階に止まるんですね。私の部屋は『435』ですが...あなたは、どうやら隣のようですね」
「そう、ですね」
そこからは会話も生まれること無く、僕達はそれぞれの部屋に入っていった。
部屋の中は豪華絢爛な置物や絨毯、ベッド(一つ)、テーブルなどのインテリアが並べられていて、明らかに高い一室であることが見て取れた。
こんなのなら、もっと安いホテルでも良かったんじゃないか?
僕がそう思っていると、アレックスはベッドに入ってすぐに眠ろうとした。
僕は意識を飛ばそうとするアレックスをシャワーに突っ込んで、その間に部屋の探索をした。
盗聴器やカメラを探したが、怪しいものはなく、一応持ってきた爆発物探査機を部屋中のインテリアに使ってみたが、こちらも何の反応もなかった。
結句安全なホテルなんだなと思っていると、インターホンが鳴った。どうやらアナスタシアが来たようで、僕が扉を開けると、彼女は何故か血まみれで扉の前に立っていた。
「どうしたの!?」
「仕事の一環です。気にしないで下さい」
「いや、気にするよ。何の仕事してるの?」
彼女は僕に話すかどうかを迷っていたが、僕に話しても特に問題ないと考えたのか、すんなりと話してくれた。
「私は、ロシア暗殺代理委員会にやって来た依頼を達成しているだけです。今は、CIAと通じ合っている米国陸軍大将を襲撃してきました」
僕は、その言葉に驚きを隠せなかった。
僕の顔に、彼女は何かを察知したようで、彼が必要でしたかと言って微笑んだ。
黒いサングラス越しにでも分かる美形と、白髪の美麗さに、僕は同仕様もなくため息をついた。
「まあ、とにかく入って。話は後でね」
そうして彼女を部屋に招き入れると、彼女は大きめのトランクケースを抱えて入ってきた。中に何が入っているのかを聞いた所、教えてはもらえなかったが、確実に重機が入っていることだけは分かった。
形状と重さが、銃のそれだったからだ。
「私達を狙いに来たの?」
僕が聞くと、彼女はそんな訳ありませんよと言ってソファに腰掛けた。なら、何のために来たのかと聞くと、僕達が特殊部隊の構成員だから、一般人の所に逃げ込むよりも安心できると言ったのだ。
そんなことに私達を巻き込むなと言う前に、アレックスが風呂から上がってきた、上裸で。
しっかりと筋の入った腹筋に、大きく膨らんだ胸筋、たくましい両腕から滴る水と、全身に埋め込まれた機械と回路の筋に、僕とアナスタシアは見入ってしまった。
彼はそんな僕達の視線を感じるなり、思い切ってポージングをして笑って見せて、そのまま何も言わずにベッドに横になってすぐに眠りについてしまった。どうやら相当疲れていたようだ。
ベッドの上でいびきも書かずに死んだように眠るアレックスの上に布団をかけ、僕はシャワーを浴びた。
しかし、まだアナスタシアへの警戒は続けているので、僕は浴室に杖を持ち込んだままだった。
分解して清掃したいところだが、今日はもう遅い。また明日に清掃をしようかと思っていると、急に浴室のカーテンが開かれた。
杖を向けると、そこにはタオル一枚姿のアナスタシアが居た。
サングラスは外していて、きれいな青い虹彩が僕を覗いていた。体型も引き締まっていて、無駄な肉は(胸以外)一切ない。何とは言わないが見た所、相当大きく、僕の握りこぶしよりも格段に大きかった。
一緒にバスタブに入ろうとする彼女を何とか寸前の所で止めて、僕は言った。
「なんで入ってきたの?」
「私のこと、まだ警戒していますよね?その杖、いえ、その突きつけられた銃が証拠ですよ」
杖が銃ということはとっくにバレていたようだ。
僕は仕方なく彼女にバスタブに一緒に浸かることを許可した。
彼女がバスタブに浸かると、水位が一気に上昇し、少しだけお湯が溢れた。
排水口に流れていくお湯を見ていると、彼女は僕に言った。
「ムニカル・アスカの体はどうですか?」
その言葉に、僕は保っていた杖を彼女の眉間に突きつけ、引き金に指をかけて聞いた。
「なんでそのことを知ってる?」
僕の脅しにも一切同様せず、僕に彼女は取引を持ちかけてきた。
「私が話す代わりに、貴方も話して下さい。彼女のことについて」
僕は、もうどうしようもなく彼女に杖を突きつけたままため息をついてもう一度バスタブに崩れ落ちた。
狭いバスタブ内に、二人分の体を押し込み、僕は話し出した。
帝国国民身分証
名前:アナスタシア(本名)
身長・体重:170・60
職業:ロシア暗殺代理委員会
経歴:不明(シベリア出身)
年齢:21
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『ダンスパーティ with IzhMash Sayga12 isp095』




