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記録17:血みどろの空の旅をお楽しみ下さい

今回、飛行機内で金属を用いた戦闘を行いますが、全員保安検査をちゃんと突破しています。

警備ザルですね。

皆さんは間違っても飛行機の中に武器を持ち込まないようにしましょう。

銃弾の行き先はアレックスの鋼鉄の腕だった。

アレックスの隣の人間が彼に向かって拳銃を撃ち始めたのだ。

耳をつんざくような悲鳴の中で、僕はすぐさまポケットに忍ばせていた小型ナイフで前の席にいる拳銃を持った男の首元を掻き切り、拳銃を確保した。

そこからすぐに数人に襲いかかられたが、アレックスが応戦し、拳だけで敵を殺してしまった。


「大丈夫か!?アレックス!」


僕がそう聞くと、彼は大丈夫だとだけ答えてシートベルトを外した。

すぐに他のところからも銃声が鳴り響き、僕達は一旦地面に伏せた。椅子の下に置いてあったカバンから手鏡と閃光手榴弾を取り出し、アレックスと白髪の女性に言った。


「目、閉じといてね!焼き切れるかもだから!」


二人共目を閉じて耳をふさいだ。


手鏡をぬるっと椅子の隙間から出して周囲の確認をした。

敵は十人以上だ。恐らく中国の部隊で間違いないだろうが、その他にも欧米人の顔も見える。一体どれだけの組織が僕達を狙っているのかと思ったが、彼らの言葉の中に、聞いたことのない言葉があった。


「アナスタシアを殺せ!」


アナスタシアなんて、わたしたちのメンバーには居ないのだ。アレックスでも、山雁でもない。アナスタシアだ。不審に思って、とりあえずいい感じの所に閃光手榴弾を投擲し、爆発させた。

一般の利用客も巻き添えを食らっているが、仕方ないだろう。


僕達は敵が怯んでいる隙に、目に付いたやつを掃討しながら飛行機の後方端っこまで移動した。何故か白髪の彼女もついてきており、とりあえず危ないから隠れていろとだけ言っておいた。

僕達が銃弾の雨を座席で躱しながら次の作戦を練っていると、白髪の女性が言った。


「私の荷物を取ってきてはくれませんか?」


サングラス越しなので、表情はよく分からなかったが、心做しか少し笑っている気がした。

僕は彼女にはそれ相応の何かがあると確信したと同時に、彼女がアナスタシアであると直感的に感じた。僕はアレックスに囮を頼んで、シートの合間を縫って敵の落とした拳銃を何丁も拾いながらコソコソと移動した。


道中、何度か見つかりそうになったが、犠牲になった観光客の下敷きになってじっとしていれば、特に気にもとめられなかった。


そうして、すぐそこに彼女の荷物があるというのに、どうしても邪魔な一に敵が陣取っているせいで動けない。

アレックスが囮になって銃弾を受けることのできる時間も限られているだろう。


僕は腹を決めて銃弾を敵の頭に叩き込んだ。

一斉に敵の注意が僕に向くとほぼ同時に、アレックスがいつのまにか敵の持っていた手榴弾を奪っており、それを使って、飛行機の壁に手榴弾を投擲した。

爆発する寸前に僕は彼女の大きな鞄を持ち上げると、ジャラリという金属音がした。


脳を揺らすような轟音と共に、視界が揺らいだ。後ろを見ると、人の上半身より少し小さいくらいの穴が空いている。よろよろと転げそうになった僕の脇を、駆けつけたアレックスが支え、女性は荷物を取ってその場で開けた。


中には大量のスペツナズナイフが入っていて、彼女はそのうちの何本かを取り出して、自分の服に刺して敵の前に躍り出て、すぐにナイフを抜いて刃部を発射した。

彼らが銃口を向けた時には、自分の眉間にはナイフが刺さっており、引き金を引く間もなく彼らは膝から崩れ落ちた。

彼らは、飛行機の穴に向かって吸い込まれて行った。


僕達がそれを急いで止めて、一つの死体をその穴に上手にはめて、これ以上の機体内の気圧の低下を防いだ。ざわめく乗客たちを黙らせていると、彼女は何かに気づいて言った。


「方角が違いますね」

「はい?今、なんと?」

「方角が違うのです。モスクワに向かっていません。多分、中国の奥地に...少し行ってきます」


彼女はナイフを持ったままコックピットに向かい、扉を開けようとしたが、どうやら中から鍵をかけられているようでびくともしなかった。すると、彼女は扉に手をかざした。

ガチャリという音とともに扉のロックが解除され、彼女は何の迷いもなくコックピットの中に入っていった。

そしてほとんど叫び声が消えること無く、機長と副機長を殺したのか、彼女は返り血まみれで口角を上げてウキウキで出てきた。


僕達の畏怖の視線を物ともせず、彼女は僕達に言った。


「お二人は、航空機の操縦はできますでしょうか?」


まずスイッチの入れ方も知らない僕は首を振ったが、アレックスは俺ならできると言って立ち上がった。心配なので、僕も同席させてもらうことにして、三人でコックピットに入った。

大量の機械の上に、大量の血液が飛散していた。わざとこれだけ出血させたのだろう。まったく容赦がないというものだ。

それから、アレックスが機長を務めることになり、彼は自分の腕に一本のケーブルを装着し、それを飛行機と接続した。


「何してるの?」


僕が聞くと、アレックスはニヤッと笑って言った。


「航空機と管制の連絡を切って、俺からの指示しか通らないようにした」


彼の言葉に、彼女はムッとした顔でナイフを彼に突きつけた。僕は慌てて彼女のナイフを下に下げて彼は信用できる人だと言って宥めた。暫く彼女の中で葛藤もあったようだが、最終的に彼女はナイフを下ろすことを選んだ。


そして、アレックスが行き先を設定して、暫くはこのままだと言うので、僕達は乗客と機体の大穴の様子を見ることにした。大穴は依然として人間で塞がれていて、その周辺には誰も立ち寄っていない。

生き残った乗客は後ろの方に固まっており、ひどく怯えた様子で僕達を見ていた。


よく見てみると、ほとんどがロシア人で、僕が最初に思ってたよりも随分と数が多い。彼らの一人ひとりの顔をじっくりと観察していると、彼女が急になにか重要なことを思い出したようで呟いた。


「ああ、忘れていました。私のスーツケースの中に、良い物が入っているんでした。えっと...名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


そう言えばまだ名乗っていなかったと思い、僕は名乗り、彼女にも名前を聞いた。彼女は、もうお気づきでしょうがと言って続けた。


「私が、アナスタシアです。ロシア暗殺代理委員会の委員長です。まあ、個人事業なので、委員会と言っても一人だけなのですが、以後、お見知りおきを」


とんでも無い委員会の名前が出てきた所で、アナスタシアは僕を置いて、スーツケースなどの大型荷物のある場所の上に向かい、ナイフで床を切り裂いて下にあった一つのケースを取り出した。


そのケースは真っ黒で、銀色の留め具が角にそれぞれ一つずつと、持ち手にも銀色のカバーが装着されていた。

彼女はスーツケースの中身を誰にも見せないように開けて、中から大きめの鉄板とネジとドライバーを取り出してきた。


「なんで持ってるの?」

「よくこういう事件には遭遇するんです。だから、いつもこういうのは持ち歩いてるんですよ」


僕の問いに、彼女は平然と答えた。そして、手慣れた手つきで鉄板で飛行機の穴を修復し、気圧の変化を止めた。

勿論飛行機内でテロを起こした人物は、全員その穴からスカイダイビングをさせて証拠を隠滅した。

流石に民間人の遺体の処理は、私が制止したので行われなかったが、端っこの方にゴミのように積まれていた。

彼女の倫理観にいささか疑問を抱いたが、これ以上無駄な詮索をするべきではないと判断し、とりあえず着陸の瞬間まで待機することにした。



コックピットにいるアレックスが、シェレメーチエヴォ国際空港の管制塔と無線を繋いだ。


「緊急着陸だ。滑走路を開けろ。登録番号はXAN1010」

『―――こちら管制!速やかに第三滑走路に着陸せよ!すぐに救護車両を手配する』

「予定時間には数分遅れてしまったが、対応感謝する。これより着陸態勢に入る」


ケーブルで繋がれたアレックスがロシア語で管制と連絡を取り、そのまま着陸した。窓の外はもう明け方の空模様で、遠くの方では雪が積もっていた。

救護車両に続々と乗客たちが乗り込み、その中にアナスタシアも混じっていた。救急車も大量に到着する中、僕とアレックスは全く別の車両に載せられ、空港内に輸送された。



僕達を輸送した車の運転手は、どうやらアレックスの知り合いらしく、彼らは空港に到着するなり言葉を掛け合った。


「久しぶりだな。アレックス、元気だったか?」

「久しぶりですね。大佐。そちらこそ、お変わり無いようで」


空港内で固い握手を交わす二人を前に、僕は全く興味がないので、日本語で中峰と電話していた。電話越しの彼女の声はどこか曇っていて、不安そうに聞こえた。恐らく飛行機内の騒動の件を知らされたのだろう。僕は適当に彼女の不安をほどいてから、任務詳細を聞いた。


すると、彼女は近衛隊内部メールで作戦詳細の書かれたファイルを転送してきた。

僕はそれを見て息を呑んだ。

お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!


次回『米国陸軍大将討伐作戦』

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