記録107α:大雪山要塞
大雪山要塞。
それは第三次世界大戦勃発後、来るロシアによる北海道侵略に備えて、日本軍と国家近衛隊の隠密行動によって作成された山岳要塞である。
山の斜面を掘削して完成した縦に長いトンネルと、その前に広がる滑走路はいつでも(豪雪の場合を除く)戦闘機を離発着することのできる空軍基地となっており、山岳のあちこちにはレールガンが何基も配備されている。
山岳踏破用のオートバイ部隊や機動戦闘車部隊、ドローン部隊からサイバー攻撃部隊まで、数々の精鋭部隊の人員がここに割かれている。
中でも、大雪山要塞を守るためだけに編成された冬季山岳猟兵部隊は大雪山と園周辺の地形を自分の足で歩き回っているので、その地理は完璧となっている。
ほぼ全員が狙撃兵の資格を持っていて、まだ対人の実戦経験こそ無いもののそれなりに腕は経つらしい。
そして、この基地には最後に大きな秘密が存在している。
それは、電力供給の問題だ。どのようにして山岳部に何基ものレールガンを設置できているのか、施設中の電気を賄えているのか。
一応、山の至る所には太陽光パネルが存在しているが、これだけでは電力不足になるのは自明である。
これは、近衛隊の立案で、どこかから連れてきた従順な人間を使って青函トンネルに僅かな穴を開き、そこに本土からのケーブルを通してそのまま大雪山要塞の地下まで持ってきたのだ。
この工事はわずか半年程度で終了し、どれほどの人員を使ったのかと近衛隊の誰を問い詰めてもわからない、自分の管轄ではないから知らないというのだ。
実際、境時風翔もこの件に関しては調べ上げているようだが、全くと行っていいほど情報が出てこないようで、唯一掴めたのは天菊が何かしら関わっているということだけのようだ。
「それで、米露軍はどこから来そうなんだい?」
風翔がワイの背中越しに聞いてきた。
作戦会議室の大きなテーブルの上に広げられた地図と、特性の駒の数々は、おそらくこの場ではワイと風翔程度しか完全に理解できないようなものになっているだろう。
「せやな...北側の...いや、東側からの線が高いな、主部隊は。たぶん西側からも来るやろうけど、そこはドローン部隊とか、後方支援部隊専用の基地になるか、それとも、大雪山中腹のちょっと低い土地に作られてる空軍基地を攻めに来るか...」
「わかった。他の者はなにか意見あるかい?」
風翔の問いかけに、特に誰も何も言わず、首を縦に振った。
攻められたことのない要塞なので、現地士官も守り方も分かっていないのだろう。
「そういえば、将官はここには来ていないんだね」
「せやな。将官はこんな辺境の防衛にあたるより、本土のインフラ整備からその他の島嶼防衛までせなあかんし、そもそも、ワイ以上に作戦を練れる将官なんて、それこそ天菊か...山原さん以外におらんで」
「山原さんって...あの伝説級の諜報員と呼ばれた人かな?」
「せや。ま、もう引退したから知ったこっちゃないけど、ちょっとは心細いな」
「あのタフな君が...全く、ご執心だね」
「だまっとけ一般将校」
ニヤニヤとしている風翔を押しのけ、ワイは再度作戦を練った。きっと、敵の主力は東方から攻めてくるだろう。だとすれば、現在交戦中の札幌で更に攻勢が強くなって...北部から敵が裏を取りに札幌に回ってくる。ソコをつけるような航空機はないし...なら、レールガンか。
電力は東北の人間にちょっと我慢してもらうとして、飛翔体を初め、各種武装と修理用の部品と素材の補給路が寸断されるのはまずいな。
「よし、決めた」
「おっ。決まったかな?」
「決まった。この作戦で行く。今からそれぞれの人間に自分の持ち場だけを伝える。決して外部に漏らしたあかんで」
「了解。それで、僕はどこを守るんだい?」
風翔がすこしウキウキで聞いてきた。
彼にはすまないが、とワイは心のなかで謝罪した後、口を開いた。
「風翔は待機!」
「何!?」
◆ベルリン
「アレクサンダーさん。戻りました...ってすごい死体の数ですね。全部一人で?」
「いや、あいつと一緒に」
私の目線の先にはボロボロになりながらも未だ息をしている水原の姿があった。
アレクサンダーは拳銃を私に渡して、言った。
「俺には出来なかった。すまない」
「ええ、構いませんよ。これだけ一緒に戦えば、引き金なんて引けないでしょうし」
私は快諾して銀色のM1911を受け取り、弾丸が入っているのを確認して、ゆっくりと水原に近づいていった。彼は私が近づいているのに気がつくと少しだけ鼻で笑って話し始めた。
「ハインリッヒの兄ちゃん。すげえ強かったよ。サイボーグを次々なぎ倒して、退却した背中にも容赦なく弾丸を浴びせるんだからよ。なぁ天菊...お前の見たかった世界はここか?」
「......いえ、違いますよ。ですが、いずれあなたには分かることです。まだこれは予行練習とでも思っていただけたら」
「はっ、冗談をよく言う。その拳銃で俺を殺すんだろ?なら、さ。最後に一本だけ良いか?」
最後に一本、なら、問題ないか。
「良いですよ」
「じゃ、吸わせ―――」
バァンッ!
ベルリンの街を、銃声が駆け抜け、一発の弾丸は水原の眉間を貫通した。
「さ、帰りましょうか。アレクサンダーさん」
「...ああ、帰ろう」
「そんなに暗い顔をしないで下さい。あなたは正しい道を進んでいるのですから」
私たちは帰りの潜水艦を要請して、ベルリンから足早に去った。
お読み頂きありがとう御座いました。次回もこうご期待!
次回『突撃、突撃、突撃...』




