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第八話 「ホワイトな仕事内容」

 ガーニッシュ伯爵家の実家を出てから二週間。

 ようやくのことで、くだんのピートモス領へと辿り着いた。

 自然豊かなプラント大陸に属していることもあり、緑が多く空気が澄んでいる。

 そして話に聞いていた通り、すでに主要の町といくつかの村は完成されていた。

 町の名前はアース。私たちが住む屋敷もこの町に建てられている。


「もう人も結構住んでるんだね」


「まあほとんどが開拓を手伝ってくれる開拓兵だけどね。主に王国軍からついてきてくれた魔術師たちで、開拓援助や領地防衛を担ってくれているんだ」


 なるほど。

 ディルがいない間、誰が領地を守っていたのか気になっていたけど、すでに協力者がいたんだ。

 それがソイル王国の軍からついてきてくれた人たちなら、なおのこと納得である。

 魔術師の育成に精力的に取り組んでいるソイル王国は、高い軍事力を有している。

 その軍からやってきたのなら優秀な魔術師たちが揃っているに違いない。

 ただ、その魔術師たちがいても開拓が滞っているということは、各地で開拓をせき止めている魔物たちは相当厄介な連中ばかりということだ。


「彼らとはいずれ仕事で一緒になるから、顔合わせと挨拶はその時でいいだろう。荷物もあることだしさっそく屋敷へ行こうか」


「うん、わかった」


 そう言って私たちは、町の一角に立つ屋敷へと向かった。

 程なくしてそれらしい建物が見えてきて、私は思わず感嘆の声を漏らす。


「おぉ……!」


 まだ距離があるけど、ここからでもはっきり見えるほどに大きな屋敷だ。

 中心部である居館は白を基調としていて、屋根は爽やかな青で仕立てられている。

 敷地内には広い庭園と、話に聞いていた使用人さんたちの宿舎があり、町の中にもう一つ小さな町が出来ているようにも見えた。 

 ここがこれから私が暮らす屋敷かぁ。

 人知れず気分が高揚してしまう。


「屋敷内の案内は、後で使用人にでも頼むとして、まずは応接間へ行こうか」


「応接間?」


「そこで改めて、君がやるべき仕事内容や報酬の確認をしておこう。事前に紙面にまとめてあるから」


 というわけでまずは応接間なる場所へと案内された。

 そこで仕事内容や報酬内容について記された紙を渡される。

 いわばこれは取り引きの契約書だ。


「僕たちはあくまでも取り引きを交わした関係だ。だから一応、その内容を形として残すために契約書を用意した。目を通して問題がなければ署名をしてほしい」


「あっ、うん、わかった」


 確かに仕事と報酬については、まだ具体的な話をしていない。

 後々、言った言わなかったということがないように、ちゃんと形にしておいた方がいいよね。

 というわけで私は、渡された契約書に慎重に目を通した。

 しかし内容を見て、私は思わず顔をしかめてしまう。

 それを見たディルが、怪訝そうな表情で尋ねてきた。


「何か不満なところでもあったかな?」


「いや、そうじゃなくてさ、これ見る限りだとやっぱり、私って必要な時以外は特に何もしなくていいみたいだけど……」


 開拓における有事の際に、当主ディル・マリナードの指示に必ず従う。

 ということ以外、特筆して何か仕事があるわけではない。

 事前に聞いていた話の通りではあるんだけど……


「本当に私、屋敷にいるだけでいいの? それだけだとなんか罪悪感が……」


「基本的には屋敷に常駐してもらって、いつでも僕からの指示を受けられるようにしておいてほしい。それさえ守ってくれたら、屋敷内ではどう過ごそうが君の自由だよ」


 改めてディルに言葉にしてもらって、私の仕事内容は完全に決まってしまった。

 屋敷に常駐し、有事の際まで指示を待つだけ。

 そして待っている間は屋敷内で自由に過ごしていいという。

 何そのホワイトな仕事内容。


「仕事がなかったら、私はただ屋敷でぐーたらしてるだけのダメ人間になるんだけど。それで実家のことを助けてもらってもいいの?」


「それだけ開拓の手伝いが激務で危険を伴うものなんだよ。厄介な魔物を相手にしなきゃいけないし、魔術師として卓越した力も求められる。仕事内容と見返りは充分に釣り合っていると思うけどね」


 そうかなぁ……

 なんかディルに施しを受けているみたいで違和感がある。

 まあ、当人のディルがそう言うなら別に気にしなくていいか。


「それとも何かな。施されているような感じがして気に食わないから、もっと仕事を追加してくれって言っているのかな?」


「言ってない言ってない! やっぱりこの仕事内容でいいよ」


「なら、早く契約書に署名をしてもらっていいかな。まあもしかしたら君なら、開拓の手伝いなんて激務と感じることはなくて、ただのホワイトな職場としか思わないかもしれないけど」


「……あんまり変に買い被らないでよ」


 いくらディルより魔法学校の成績が上で、首席卒業したからって、領地開拓の手伝いをするのは初めてのことなんだから。

 ともあれ契約書への署名を終わらせて、改めて私たちは協力関係を結んだのだった。

 で、今日から私は、ディルと一緒に屋敷での共同生活を始めます。

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