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第二十三話 「いざ会場へ」

 祝賀会までの一ヶ月間は、ディルの生家である王宮で過ごさせてもらうことになった。

 一応すでに身内には私との婚約を話しているらしく、王宮で過ごすことを許してもらっているらしい。

 実際に王宮を訪れると、快く中に入れてもらえて、ピートモス領の屋敷の自室以上に広々とした部屋も貸してもらえた。

 さらには豪華な食事まで用意してもらえて、それだけでも王都にやってきた甲斐があったと言える。

 それとディルのお父様であるクローブ国王にも、改めてご挨拶させていただく機会をもらえた。


「お初にお目に掛かります、クローブ国王様。ローズマリー・ガーニッシュと申します」


「あぁ、初めまして」


 クローブ国王は柔和な表情が特徴の、四十前後に見える優しげなおじさまだった。

 髪と目の色はディルと同じく銀髪赤目で、長身かつ筋肉質な体格をしており、熟練の騎士のような風貌だ。

 かつては王国軍を率いていて、戦時には自ら先陣を切り、戦場を駆け回っていた猛将だと聞く。

 魔法の腕もマリナード一族ながら卓越していて、ディルやそのお兄さんのセージ様が成人するまでは現代最強の魔術師としても噂されていた。

 遠目でしかお姿を拝見したことがなかったため、間近でお目に掛かれて感激していると、クローブ様は意外な言葉をかけてくる。


「君のことは話に聞いている。魔法学校ではディルと同年代で、一度も首席の座を譲らなかったそうだな」


「も、申し訳ございません」


「いや、責めているわけではない。むしろ感謝している」


「感謝?」


「魔法の才覚に溺れ、横暴な振る舞いをしていた息子が、いつの間にか人並みの落ち着きを持つようになっていた。それは君が、魔法学校で幾度となくディルを負かしてくれたおかげだと思っている」


 思いがけないことを言われて、私は目を丸くする。

 反射的にディルを一瞥すると、彼は居心地が悪そうな顔で頭を掻いていた。

 ディルは我儘王子という異名が付くくらい、幼い頃は横暴の限りを尽くしていた。

 エルブ魔法学校に入学してからもその態度は目立っていて、しかし気が付けば大人らしい落ち着きを持つようになっていた。

 てっきり年を重ねて自惚れていたことを反省したのかと思っていたけど、実はそうじゃなかったのかな……?

 その真意を問いただすより先に、クローブ様が言った。


「これからも息子が面倒をかけることがあるかもしれないが、何卒よろしく頼む」


「は、はい!」


 むしろ助けてもらってばかりなので、私の方が面倒をかけているかもしれないけど。

 続いて王妃のマツリカ様にも挨拶をさせていただいて、お二人とも想像以上に親しみやすい方で深く安堵した。




 それから早くも一ヶ月。

 祝賀会の当日が訪れて、仕立て屋に頼んでおいたドレスも無事に出来上がった。

 プリンセスラインのアクアブルーのドレス。

 ネックラインは大胆に四角くカットされていて、タックを寄せたスカートはふんわりとボリュームが出ている。

 爽やかさと派手さを程よい塩梅でまとめたドレスだ。

 相当急いでこしらえてもらったのにもかかわらず、細部まで丁寧に仕事がしてある。

 まあ、それを着るのがちんちくりんの私なのが、すごく申し訳ないのだけど。

 ともあれ当日の朝、それに袖を通して準備を整えると、ディルが貸し部屋まで訪ねてきた。


「ローズマリー、準備はできたかい?」


「うん、ばっちりだよ」


 そう答えながら部屋を出ると、そこにはいつものコートではなく黒の燕尾服に身を包んだディルが待っていた。

 髪も綺麗にセットされていて、普段と雰囲気がガラリと変わっていることから、思わず私は彼を見つめながら放心してしまう。

 随分と様になっていて、正直かっこいいと思って見惚れてしまった。

 思えばこの人は、容姿端麗の王子としても知られていて、想いを寄せる令嬢は多くいると聞く。

 そんなディルが気合を入れてめかし込めば、見惚れるほどにかっこよくなって当然ではあるか。

 なんか改めて、この人の婚約者として紹介されるのがプレッシャーになってきたなぁ。


 見惚れてしまったことに悔しさを覚えながら我に返ると、ディルの様子が少しおかしいことに遅れて気が付く。

 何やら彼も、固まって立ち尽くしているように見えた。

 なんでディルまで固まってるの?

 これはひょっとしてあれかな、ドレスまで新調したのに、私の見た目がちんちくりんから変わってなくて呆れてしまっているのかな?

 真意はわからなかったけど、ディルは我に返った後、遅れて感想を送ってきた。


「……似合っているよ、そのドレス。とても大人っぽく見える」


「無理してお世辞言わなくていいよ。自分の見た目が子供っぽいのは自覚してるから」


 まさかディルに気を遣われることになるなんて。

 せめてあと少し身長があれば……。もしくは胸だけでも大きく成長していれば……。

 と、今さら嘆いたところで現実は変わらないので、諦めて祝賀会の会場に向かおうとすると……


「……お世辞じゃないんだけどな」


「んっ?」


 ディルが何かを呟いた気がした。

 しかし彼は何事もなかったように廊下を歩き始めたので、私は言及せずに彼の後に続いたのだった。

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