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第二十一話 「祝賀会」

 初めての開拓作戦の手伝いから、およそ二ヶ月が経過した。

 あれから私は多くの開拓作戦の手伝いを頼まれた。

 森の開拓を進めるために、戦いで荒れてしまった場所を魔法で綺麗に均したり。

 ピートモス領の北部に位置する鉱山で、開拓を妨げている岩の形の魔物を倒したり。

 坑道の整備のために魔法で鉱山を掃除したり、安全に鉱山を掘り進めたり。


 それらの作戦はすべて成功している。

 目に見えて領地の開拓も進んでいて、我ながら十分な活躍ができていると思う。

 この調子で活躍を続けていって、ディルに見限られないようにしないとね。

 下手をして婚約解消をされてしまったら、実家への援助をしてもらえなくなってしまうから。

 ちなみに開拓兵の人たちとも少しずつ仲が良くなっている。

 度々称賛の声をくれるし、屋敷内で会ったら挨拶もしてくれるようになったし、最近では魔法の指南を頼んでくる人もいる。

 人に教えられる自信がないから断っているけど、少しずつみんなに力を認めてもらえているみたいでよかった。


 そして今日も今日とて、書斎でのんびりと魔導書を読んでいると……


「ローズマリー、少しいいかな?」


「んっ? どうしたのディル?」


 お昼下がりの頃に、不意にディルが訪ねてきた。

 彼がここにやってくる理由は、いつも決まっている。


「もしかして次の作戦が決まったの?」


「それも近いうちに決まる予定だけど、今回はまた別の話だ」


 てっきり次の作戦が決まって、それを伝えにきたのかと思ったけど、どうやら違うらしい。

 別の話ってなんだろうと思っていると、ディルは思いがけないことを言ってきた。


「僕と一緒に少しだけ王都に戻ってくれないかな?」


「王都に? どうして?」


「父様が……クローブ国王が領地開拓の前進を祝して、祝賀会を開いてくれるそうなんだ。そこに開拓の先導者として僕が呼ばれていてね」


 へぇ、祝賀会かぁ。

 よく王都の王立劇場とか王宮で、王様主催の祝賀会が催されているのを見たことがある。

 王国軍が何か大きな戦果をあげた時とか、王族関連の大事な記念日とか。

 どうやらその祝賀会を、このピートモス領の開拓が進んだことを記念して開いてくれるらしい。


「ディルが本格的に領地を任されてから、まだそんなに経ってないのに、もう祝賀会とか開いてくれるんだ。優しい国王様だね」


「あの人が祝い事とか祭り事が好きなだけだよ。まああとは単純に、ピートモス領の開拓の前進がかなりの大仕事だからっていう理由もあるけど」


「大仕事?」


 思わず眉を寄せて怪訝な顔をすると、ディルは呆れたように肩をすくめた。


「自覚はないかもしれないけど、森の開拓を妨げていたあの二匹の大蛇は、随分前からソイル王国を悩ませていた災厄なんだよ。それを無事に討伐できて、国の災厄を一つ取り払ったとなれば、充分に大仕事をしたと言えるだろう」


「そ、そんなに厄介な魔物たちだったんだ……」


 学生時代は王都にあった寄宿舎で過ごしていたけど、大蛇の噂は聞いたことがなかったな。

 私が魔法にしか目が向いていなかったせいかもしれないけど。

 でもディルがそう言うのだから間違いないはず。

 災厄とも認められていた大蛇の魔物を倒して、領地開拓を進めたとなれば確かに大業だ。


「それに直近の開拓作戦もすべて成功しているし、有益な領地を順調に切り拓いて、王国の発展に大いに貢献している。その先導者が自分の息子である第二王子となれば、存在を示す機会として活用しない手はないだろう」


「はぁ、なるほどね」


 王族として、威厳を示す絶好の機会ということか。

 大業を果たした王子を大々的に祝すことで、ディルの存在と実力、そして王族の矜持を今一度世間に示すことができる。

 ということはわかったんだけど……


「それで、なんで私まで誘ってくれたの? ディルの存在を示す祝賀会なら、別に私までついて行く必要はないと思うんだけど」


「ちょうどいい機会だからさ、ローズマリーのこともみんなに紹介したいと思ってね。僕の婚約者として」


「あっ……」


 言われて思い出す。

 そういえばまだ、正式にディルの婚約者になったことを公表していないんだった。

 すでに知っている人も何人かいるだろうけど、ほとんどの人たちが私たちの婚約を知らないはず。

 確かにタイミング的には、祝賀会で公表するのがベストかもしれない。

 ただ……


「うーん……」


「何か気にかかることでもあるのかな?」


「いやぁ、いざ第二王子の婚約者として紹介されるってなると、色々と不安がね。周りから心ない言葉とかもらったらどうしようって」


 私は貧乏伯爵家の娘。

 格式的には第二王子の婚約者なんて釣り合っていないのだ。

 下級貴族の娘が王族の血を汚すなんて、とか周りから言われたらどうしよう。

 そんな懸念にかられて背筋を凍えさせていると、不意にディルが微笑をたたえた。


「そこは大丈夫じゃないかな」


「えっ、どうして?」


「開拓作戦の報告では、いつも最大の功労者として『ローズマリー』の名前を挙げているからね。格式的に釣り合っていないとしても、もう充分王国の発展に貢献したし、王子の婚約者として認めてくれるはずだよ」


「最大の、功労者……?」


 自ずと冷や汗が流れてくる。

 そんな報告をしていたなんてまったく聞いていない。

 ふと押し寄せてきた多大なプレッシャーに顔を強張らせていると、その様子を見たディルが面白がるように言った。


「なぜそんなに固い顔になっているんだい? 何か問題でも?」


「最大の功労者になった覚えなんてないんだけど……。どうしてわざわざそんな大袈裟に……」


「別に嘘は吐いていないよ。開拓を先導する僕をはじめ、作戦に参加した兵士たちも口を揃えて証言してくれているんだ。作戦成功に最も貢献したのはローズマリー・ガーニッシュだってね」


「開拓兵のみんなが……」


 まさか彼らも口添えしてくれているとは思わなかった。

 私の魔法はちゃんと、みんなの役に立てている。

 まだ確かな自信を持つことは難しいけど、改めてそれを聞かされて少しだけ前向きになることができた。


「だから胸を張って祝賀会に参加するといい。それにもし、卒業パーティーの時と同じように君を侮辱する者が現れたら、また僕が反論をするから心配することはないよ」


「……あの時のディルは、なんて言うか迫力がすごかったからね」


 なんとも頼もしい限りである。

 というわけで私たちは、祝賀会に参加するために、一度王都に戻ることになった。

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