第十六話 「初仕事です」
サイプレスさんとの模擬戦が終わり、無事に開拓作戦への参加を認めてもらえた。
一時はどうなることかと思ったけど、なんとか仲間として受け入れてもらえてよかった。
それから屋敷の大広間に戻り、開拓作戦の会議を再開することになった。
「それじゃあ、今回の作戦内容について説明させてもらう」
開拓作戦を指揮するディルが、改めてみんなの前に立ち、今回の作戦の概要を伝えてくれた。
「前々から話している通り、ここより南東に位置する森林地帯を切り拓こうと考えている。優れた土壌であることから、一部を農園、一部を畜産として利用し、領内の食料生産量の急増を目標としている」
私が住んでいる屋敷がある、ここアースの町は、ピートモス領の西部に位置している。
そのため領地の開拓は、東側に広がるように行われていて、森林地帯もここから東の方に見える。
遠目に見た限りだと、確かにまだ開拓が進んでいない場所のようだったので、これから農園や畜産として利用するつもりのようだ。
「しかし森林地帯にはある魔物が住み着いていて、その魔物の駆除をしなければ開拓が行えない」
ある魔物?
どうやら他の開拓兵たちはそれについて知っているようで、ディルは訝しい顔をしていた私に向けて説明をしてくれた。
「大きな蛇の見た目をしている魔物だよ。下手に刺激しなければ森林地帯から出てくることは滅多にないけど、時折人里にやってきて農作物を食い荒らしたり、家畜を攫ったり、人に危害を加えることもある。危険性が高い魔物だ」
確かにそんな危険な魔物がいるなら、開拓事業は進められない。
その魔物の討伐が目標になるってことか。
ただ、ここで私は一つの疑問を抱いた。
「じゃあ、どうして今まで討伐してなかったの?」
「しなかったんじゃなくて、できなかったんだ。単純に戦力不足の関係でね」
「えっ? ディルがいても?」
「……その問いかけに頷きを返すのはすごく癪だけど、まあその通りだよ」
あのディルがいても、戦力不足で倒せない魔物がいるなんて。
しかし話はそう単純なものではないらしく、討伐が難航している明確な理由があった。
「その魔物は強固な魔装を持っていて、並の魔法では傷一つ付けられない。そして特に厄介なのは、その問題の魔物が二体いることなんだ」
「二体?」
「赤い鱗を持つ大蛇の魔物と、青い鱗を持つ大蛇の魔物。それぞれ『赤蛇』と『青蛇』と僕たちは呼んでいる」
ディルはうんざりするような仕草を交えて、さらに続けた。
「その二体は常に行動を共にしていて、倒す場合は確実に二体を同時に相手にすることになる。一体だけでも厄介なのに、二体は上手く連携をとってお互いを助け合うんだ」
「それは確かに面倒だね……」
協力し合う魔物なんてすごく珍しい。
ディルほどの実力者がいて、今まで討伐できていなかったのも納得できてしまう。
その時、サイプレスさんがディルをフォローするように言葉を紡いだ。
「ディル様でしたら、一対一の状況を作ればその魔物も必ず討伐できます。しかし別の一体が邪魔をするため、その状況も作れずにいるのです」
悔しそうに歯を食いしばる。
おそらく開拓兵の人たちだけでは、もう一体の魔物を押さえつけておくことができなかったのだろう。
その悔しさがサイプレスさんの表情から感じ取れて、他の兵士たちも申し訳なさそうに俯いていた。
「そこで君の出番だよ、ローズマリー」
「えっ?」
「君にはもう片方の大蛇の相手をしてもらう。僕と君が中心になって、それぞれ大蛇の魔物を倒すんだ」
私とディルが一体ずつ……
改めて作戦内容を聞かされて、少し驚いて固まっていると、ディルはとても簡潔にまとめてくれた。
「何も難しいことはないさ。これも魔法学校でやっていた勝負と変わらない。どちらが先に大蛇の魔物を倒せるか、競走ってことだよローズマリー」
「こ、この状況でも勝負するつもりなんだ……」
でも、確かにその方がわかりやすい。
二体の大蛇に連携をされると厄介だから、そいつらを分断するようにそれぞれ相手をする。
見方を変えれば、どちらが先に大蛇を倒せるかの競争だ。
それが私の、ディルの婚約者としての初めての仕事となったのだった。