第十四話 「首席の実力」
先に動いたのはサイプレスだった。
(性質は雷。形状は槍。【審判者の雷槍】)
彼が構えた右手に黄金色の魔法陣が展開される。
そこから槍の形をした雷が射出され、高速でローズマリーの元まで迫っていった。
魔素を雷に変質させて、槍の形状と化して高速射出する三階位魔法――【審判者の雷槍】。
その雷撃は高度な魔装を持つ魔物も容易く貫き、人の身であれば余波を受けただけで焼け焦げる。
一流魔術師の魔装であれば肉体を守ることはできるだろうが、その一撃だけで魔素の大損失は免れない。
だが……
(んっ?)
ローズマリーはその場から動くことなく、正面から雷の槍を食らった。
その衝撃によって土埃が舞い、見守っている開拓兵たちの元まで風が吹く。
ローズマリーがあまりにも無防備に魔法を受けたため、周囲は騒然としていた。
(なぜ避けなかったのだ? 別の魔法で相殺するという手もあっただろう。まさか避けられなかったのか?)
実力不足を疑っていたとはいえ、よもやそこまで軟弱だとは思っていなかった。
しかしこれで実力が足りていないことが証明できた。
ディル王子に勝ったことも何かの間違いであったと示すことができて、サイプレスの中にあった英雄像はしかと守られたのだ。
……と、思っていたサイプレスの目に、信じられない光景が映し出される。
「はっ?」
土埃が晴れたそこには、変わらずローズマリーが佇んでいた。
魔装によって肉体に傷がないのは当然ながら、その魔装すらもまったく損耗していない。
その光景に、サイプレスだけでなく開拓兵たちも驚愕していた。
(……何かタネがあるのか)
でなければ三階位の魔法をまともに受けて、魔装がほぼ無傷でいられるはずがない。
それを炙り出すためにも、サイプレスは攻撃を続けることに決めた。
(性質は風。形状は刃。【研ぎ澄まされた風刃】)
雷の槍に続いて、今度は風の刃。
右手に展開された緑の魔法陣から鋭利な突風が吹き荒れる。
その着弾を見届けるより先に、サイプレスは続け様に攻撃を仕掛けた。
(性質は氷。形状は礫。【凍てつく礫】)
洗練された魔法技術により、瞬く間に緑から青の魔法陣に切り替わる。
そこから冷気を帯びた氷の礫がいくつも放たれ、風の刃に後続してローズマリーを襲った。
触れた瞬間に鋭利な風が身を引き裂き、氷の礫が接触部を凍結させる。
先ほどのタネを見破るための魔法ではあるが、この二撃だけでも充分な決定力があった。
だが……
(また……!)
ローズマリーは避けようとせず、魔法をそのままその身に受けた。
今度は直撃した様子が明らかに目に映る。
しかしやはり彼女の魔装は、サイプレスの三階位魔法でまったく削れることがなかった。
(なぜ魔装がほとんど削れないのだ! 奴はいったい何をしている……!)
魔装が削れたそばから即時修復して、削れていないように見せているだけならまだわかる。
しかしそんな気配すらまるでなく、そもそも魔装が削れた感触がほとんどないのだ。
ただ立っているだけで魔法を防がれ続けて、サイプレスは怒りを募らせる。
「【審判者の雷槍】!」
その憤りに任せて、三階位魔法を連発していく。
これは何かの間違いだと証明するかのように。
しかしローズマリーの魔装は削り切れない。
やがてサイプレスの手から魔法陣が消え、顔に疲れの色を残すのみとなった。
「くっ、魔素が……!」
三階位魔法の連発による魔素の枯渇。
本来であれば模擬戦では、相手の魔装を削って修復させて、魔素を消費させていくのが流れとなっている。
しかしローズマリーは、魔法を一度として使わずに、相手に魔法を連発させるだけでサイプレスを無力化してしまった。
それを見た審判の開拓兵が、戸惑いながらも判定を下す。
「サ、サイプレス・ファーミングの魔素の枯渇により、勝者はローズマリー・ガーニッシュとする」
そこに歓声などはなく、周囲は驚きのあまり固まっていた。
ただ一人、彼女の実力を知っているディルを除いて。