そんなことある?
アキにオレの正体を明かすことに決め、早々に伝えようと思ったがなかなかチャンスに恵まれず、とうとう高等部に上がって一週間が経とうとしていた。
何かいいタイミングがないものか、と伺いながらアキの近辺をうろうろとしてみるも……
「アイツ……全然隙がねぇ……」
アキの周りには常に女生徒がいて近寄れないし、昼休みは何故かいつも行方不明、放課後はホームルームが終わるとすぐに職員室に戻ってしまって声を掛けられない。
やはり、食堂にも職員室にもいない昼休みに何処で過ごしているのかを探り当てるべきか、と毎日探してみてはいるものの、何処を探しても見つけられないでいた。
裏庭、屋上、空き教室と思い当たる場所は全て探したのに。
一体どこにいるんだ……!!と頭の中で叫んでいると、
「姉さん、大丈夫?体調でも悪いの?」
と隣に座る幸司が心配そうにオレを見つめた。
幸司のいる登校中の車内で自分があからさまに頭を抱え考え込んでいたことに気付き、
「す、少し悩みがあるだけなの。気にしないで」
とすぐさま笑顔を作り返事をすると、幸司は焦ったように「悩み?何に悩んでるの?僕でよければ話を聞くよ!」とオレに向かって前のめりになった。
一人で考えていても分からないし人の意見も聞いてみるか、と思い「実は……」と切り出す。
「担任の先生に進路のことで少し相談があるのだけど、人気な先生だからあまり話し掛けられなくて……」
悩ましげに言ってみると、幸司は「あぁ、早川先生だね」と担任のことなんて話したこともないのに、当たり前のように名前を出した。
なんで知ってるんだ、と思っているのが顔に出ていたのか、
「姉さんのクラスのことはちゃんと調べてあるんだ」
と無邪気に微笑み教えてくれた。
なんで調べるのか理解は出来ないが、幸司のことだから、きっといつものようにオレを心配しただけだろう。
「早川先生はいつも忙しそうでお昼休みも何処にいるのか分からないから、相談するタイミングがなくて困ってるの……」
憂う表情を見せると、幸司は膝に置いているオレの手に優しく自分の手を重ね、
「大丈夫、僕がなんとかしてみせるよ」
とまるで聖母のように微笑んだ。
持つべきものは弟だ、と頼りになる幸司に心の中で感謝した。
そして次の日には、幸司は集めた情報をオレに話してくれた。
「お昼休みは体育館裏で、出勤前にコンビニで買ったクリームパンを食べているらしいよ」
いつどこで何を買ったのかも把握している情報に、まさか昨日一日誰かに尾行でもさせたのか?と疑いたくなったが、そんなことはまぁどうでもいい。
貴重な情報に感謝の言葉を告げると、幸司は姉の役に立てたことが嬉しいのか、頬を染めてにっこりと笑った。
しかし体育館裏か、確かにそこはノーマークだったな。
常に周りに女生徒が群がっていることにアキも嫌気が差し、人を遠ざけたいと思ったなら、確かに人気のない体育館裏は便利な場所かもしれない。
思い当たる場所は全部探したと思っていたが、オレもまだまだだな。
昼休みになり、早速幸司の情報を元に体育館裏に行ってみると、食事を終えたのか、一人静かに裏口の小さな階段に座り何かを眺めるアキがいた。
い、いたーーー!!
やっとの思いで見つけたアキに、オレは物陰に隠れながら心の中で歓喜の声を上げる。
お前、こんな所に一人でいたのかよ!!すげー探したぞ!!と若干苛立ちを含んだ声を心の中で発するも、当たり前だがアキには届かない。
オレは喜びも束の間、アキの手元にある物を見つけすぐに冷静に戻った。
オレの写真を、眺めている。
写真を眺めるその顔は髪の毛でよく見えないが、何処か寂しそうなのは確かだ。
まさか、今までここで何度もオレの写真を眺めて過ごしていたのか?
もう前世のオレが死んで何年も経っているのに。
こんな所でまで眺めてどれだけ悲しい思いをしたんだ、と同情の気持ちが湧き、そして決心をする。
……よし、正体を明かすぞ!!
拳を強く握り、いざ足を踏み出すと、
「ケンちゃん……」
とアキの小さく呟く声が聞こえた。
突然聞こえた弱々しい声に驚き物陰から出るのを躊躇すると、オレの存在に気付いていないアキは今度は苦しそうな声で続けた。
「……ケンちゃん……好きだ……」
「愛してる……」
ほぇ?
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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