天才的発想なオレ
失念していた!!今まで常に意識していて間違えたことなんてなかったのに!!
無意識な行動に自分を責めていると、扉を隔てたすぐそこにいる男性教員達の会話が嫌でも耳に入ってくる。
「早川先生も今年赴任したばかりだそうですね」
「あぁ、そうなんですよ。綺麗な顔をしているから、女子生徒達が浮き足立って仕方ない……」
「ハハッ!そう言われると、何処の学校の生徒も大して変わりませんね!」
アキの話をする教員達の会話に聞き耳を立て、どうやらアキは今年からこの学校に赴任してきたらしいと知った。
なるほど、前世のオレやアキが住んでいた田舎地域からは離れた大都会なのに、何でいるのかと思ったら、そういうことか。
まぁ、そこまで距離がある訳ではないし、オレの頭がもう少し良ければ想像も出来たことなんだろう。
音を立てないよう静かに耳を澄ませていると、次第に教師達の声が遠くなっていく。
そっと扉を開け辺りを見回すが、人はいなさそうだ。
今だ!!と急いで出口の方まで走り、あと一歩で廊下へ戻れる、というところででかい何かと衝突した。
勢いよく顔をぶつけて「ぶっ!!」と声を出すと、オレの顔にぶつかった何かが「あ、すみません」と謝罪した。
何だ人か……人!?
まずい!!と顔を上げると、
「……西園寺、こんな所で何してるんだ」
再び怪訝な顔をしたアキが、目の前に立っていた。
よりによってなんでコイツなんだ!!
「あっ、いえっ、そのっ」
慌てて何か言い訳をしようと口を動かしてみるが、何も出てこない。
そんなオレを不審そうに見つめるアキに気付き、とにかく急いで誤魔化さなければ、と思い「ま、間違えました!」と言ってみる。
「……間違えた?生徒の使うトイレの方が、格段に綺麗なのにか?」
疑う目つきでオレを睨むこの男は、やっぱりどう考えてもオレの知ってるアキじゃない。なんか鋭いとこ目付けてくるし!
「ほ、本当に間違えたんです。よく見ずに入ってしまって、お恥ずかしい限りです……」
手で口を隠しながら恥ずかしそうに頬を染める演技をすると、アキは納得のいかなそうな声で「……早く出なさい。こんな所にいつまでもいたら誤解される」と言い、オレの前から体を避けた。
なんとかなったー!!と頭の中で喜びながら「では……」と横切ろうとすると、アキの足下に何かが落ちていることに気付いた。
何か薄い紙……写真か?
足下へ屈み拾い上げてみると、それはーーオレとアキが、肩を組んでピースサインをしている写真だった。恐らく、二人ともまだ小学生だった頃の。
「これ……」
オレだ……と言いそうになったところで勢いよく写真を取り上げられ、
「……拾ってくれてありがとう」
とアキは思ってもいなさそうな顔で礼を言い、男子便所の中へ消えていった。
「やっぱりアイツ……アキだったのか……」
去っていったアキの背中を思い出しながら、オレは静かに確信した。
廊下を歩きながらさっきの出来事を思い返すと、一つの結論に辿り着く。
もしかしてアイツ……オレが死んだことが、相当トラウマになっちゃってんじゃないか!?
子供の頃仲良かっただけの奴が映る写真を後生大事に取っておいてるなんて、どう考えてもそうとしか思えない!
きっと、目の前でオレが死んでしまったことで自分を責めたりしちゃってるんじゃないか!?
そう考えると、今のアイツがあんなにひねくれ者っぽくなってるのも納得がいく!
オレのせいかもしれない、と思うと本当にそんな気がしてきて、どうにかアキの罪悪感やトラウマを拭ってはやれないだろうかと考える。
「……オレが正体を明かせば、アキも少しは吹っ切れるんじゃないか?」
ふと思いついたことを口にしてみると、我ながらいい案のように思える。
オレの死は、正直自業自得だ。
チビのアキにサッカーを教えていて、同級生でやる時のノリで勢いよくボールを蹴ってアキの頭の上を通り過ぎ、信号のない車道に出てしまったボールを何も考えずに取りに行って轢かれてしまった。
アキが自責の念を感じる必要なんてどこにもないことだが、目の前で人が死ぬところを見たアキの心情は計り知れない。
オレの知らない間にたくさん苦しんだことだろう。
だからこそ、死んでしまったオレが、転生して今はこんなに立派に成長してるぞと教えてやれば、きっと心から喜んで辛い気持ちから解放されるに違いない!
お嬢様に生まれ変わったってのはちょっと言い辛いが。
そして、オレの正体を明かすことによってアキの前ではお嬢様を演じる必要がなくなり、今のこのストレスから少しは解放されるんじゃないだろうか。
きっとアキなら、こんなオレでも受け入れてまた幼馴染になってくれるはずだ。
なんていい案なんだ!!
珍しく働いている脳みそを褒め称え、オレは一筋の希望を見出した。
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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