お前、幼馴染のアキですか?
アキとは、オレが小学二年生の頃に出会った。
「早川さんの家の秋斗くん、頭がいいんだって」
前世の母親が、ある日突然サッカースクールに入ったばかりのオレに向かって言い放った言葉。会ったことも聞いたこともないその名前に、誰だそいつ、と思っていると「小学校お受験するらしいわよ」と母親が続けた。
アンタも少しは見習ってくれたらいいのにね、と母親は何故か無邪気に虫を捕まえて遊んでいただけのオレに文句を言い出し、腹が立って「ソイツの家どこ!?」と聞くと、すぐに家の場所を吐き出した。
我が家の二軒隣だった。
そんなに頭がいいと言われているのなら一体どんな奴なのか見てやろう、そう思い虫取り網を持ったまま奴の家に向かった。
玄関のインターホンを押すと、どう見てもオレの母親より若くて美人の女の人が扉を開け、オレを出迎えた。
「あら、もしかして……児島健太郎くん?」
どうしてかその美人はオレのことを既に知っていたようで、一目見た瞬間オレだと気付いた。
多分、この頃からオレの類まれなるサッカーの才能が近所で噂になっていたんだろう。
オレが堂々と「そうだ」と返事をすれば、
「秋斗と友達になってくれるのね!嬉しいわ!」
と美人はすぐにオレをそのアキトの部屋まで案内した。
そんなつもりは無かったんだが、美人に言われると逆らえない。
のこのこと着いていき、二階にあるアキトの部屋まで辿り着くと「お菓子でも持ってくるわね!」と美人はスリッパを鳴らしながら走って下へ降りて行ってしまった。
大人もいなくなったことだし、と勢いよく扉を開け「たのもー!!」と声を上げると、中にいた子供が「うわぁ!?」と驚く声を上げ座っていた椅子から転げ落ちた。
「なっ、だ、だれ!?」とおどおどしながら問い掛けてくるその子供が“アキ”だった。
「オレは児島健太郎!!将来プロサッカー選手になる男だ!!」
「え……あ、はい……?」
突然のオレの自己紹介に、アキは明らかに戸惑った様子だった。
その初対面から、オレはアキによく構うようになった。まだガキンチョだったアキに外での遊び方やサッカーを教えたりしていると、最初は嫌がって部屋に篭もりがちだったアキも段々とオレに心を許すようになった。
アキは珍しいことに勉強が好きらしく、6歳になったばかりだったのに簡単な算数や国語を独学で学んでいた。
それがどうにも気に入らなくて、
「もっと子供らしい遊びをしろ!」
とオレが色んな所へ連れ回していると、アキは目指していた小学校の受験に落ちてしまった。
さすがのオレも責任を感じて、ショックで塞ぎ込んでしまったアキに誠心誠意謝ると、アキはすぐに許してくれた。
それからアキは何故か以前よりオレを慕うようになり、小学校も結局オレの通うところへ入学し、オレが何処にいても「ケンちゃんケンちゃん!」と着いてくるようになった。
そうして、アキが小学四年生、オレが中学一年生になるまでその関係は続いた。
アキとオレは、もう立派な幼馴染と化していた。
「ボク……ケンちゃんと同じ中学に行く!」
テストでは毎回満点で相変わらず頭のいいアキのことだから、てっきり中学も受験をするものだと思っていると、ある日突然アキがそう宣言した。
オレの通う学校は一般的な公立中学校で、偏差値もそんなに高くない。まだ小学四年生とはいえ、どう考えてもアキのレベルには合っていない。
勉強が好きなくせに普通の中学に通う意味が分からなくて「はぁ?なんで?」と返事をすると、アキは「ケンちゃんとずっと一緒がいいから!」と即答した。
変なやつ、と思いながらもオレは何だか悪い気がしなくて、お前が入学する頃にはオレは卒業してるぞ、とは言えなかった。
そのすぐ後、オレはアキの目の前で事故に遭って死んでしまった。
やけにオレに懐いていたアキのことだから、きっと大泣きしただろう。オレの死を直接見てしまって、心に大きな傷を負ったかもしれない。
と、昔から心の片隅で微かに心配していたアキが今、オレの目の前にいる。
「……何か意見でも?」
怪訝な顔をして教卓に立つ、オレの担任として。
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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