なんでいるんだよ!
あの衝撃から15年、オレは立派なレディに成長していた。
長く艶やかな黒髪、パッチリ二重の大きな目、スタイル抜群なスラッとボディ……完璧な美しさを兼ね備えたお嬢様、それが今のオレ“西園寺薫子”だ。
残念な点をしいて挙げるなら、牛乳が苦手なせいで胸が成長しなかったことだろうか。牛乳は前世から苦手なので仕方ない。胸ごときでオレの価値は決まらないからな。全然気にしてない!
それはともかく、現在の西暦からして、どうやらオレは亡くなってからすぐに薫子に転生したらしいと気付いた。
住んでいる場所も、前世で住んでいた場所からは少し遠いが、健太郎の記憶を引き継いでしまっているから、昔の知り合いに会いに行くということも多分できてしまう。
女に生まれ変わってしまったから、恥ずかしくて行けないけどな。
自分が女だと知ってからは大変だった。オレの前世は自分で言うのもなんだけど、普通のヤンチャ坊主だったと思う。並外れたサッカーセンスはあったがそれ以外では一般的な中学生男子で、幼い頃はボールを蹴って人んちの窓を割ったり、テレビゲームの対戦で負けたら暴れたり、好き嫌いも結構あったりと本当にごく普通だった。
そんなオレが、いきなり上流階級家庭のお嬢様になったんだ。
適応できるわけがない!!!
プロサッカー選手になる予定だったから勉強はからっきしだし、お嬢様言葉だって使い方が変だと指摘される!座り方だって男の頃のクセが出るし、常に意識してないとつい「オレ」って言いそうになる!
それでもオレは耐えて、耐えて、耐え続け……
なんとかオレなりのお嬢様を演じている。
だけどこんなに必死でも、どうしてもボロは出る。今まで何度も家族にオレの本性がバレそうになったが、その度に無理やり回避してきた。
正直、オレはこの生活にかなりのストレスが溜まっていた。なんとかこのストレスを解消したい!あわよくば、オレのこの本性を受け入れてくれる人と仲良くなりたい!
だけどオレはお嬢様、そんな出会いは難しい。今まで出会った男はみんな坊っちゃんで、元庶民のオレとは価値観が合わなかったし、みんなオレをお嬢さんや女性として扱う。オレの前世は男、友達ならともかくそう簡単に男を恋愛対象に見ることは出来ない。どうせなら可愛い女の子と出会いたい。
「姉さん、何してるの?」
鏡を見ながらあれこれと考えていると突然後ろから声がして、振り向くと弟の幸司が立っていた。
「どわぁっ!!!?」
驚いて声を上げる。何せここはオレの部屋だ。
「ご、ごめん姉さん!驚かせるつもりはなかったんだ!ノックしたんだけど返事がなくて……」
幸司が心底申し訳なさそうな顔をして謝るから、お淑やかな見た目のオレは何も言えなくなってしまう。
幸司は今年中学二年生に上がったばかりなのに前世のオレより背が高く、遺伝なのかオレと同じ綺麗な黒髪に大きな目をしている。母親似で可愛い感じだ。
「い、いいのよ幸司。それより何か用カシラ?」
まずい、幸司が突然現れた衝撃で最後の方カタコトになった。
「うん。一緒に登校しようと思って呼びに来たんだ」
いつものようにあどけなくオレに笑い掛ける幸司は、まるで“純粋”を絵に描いたような少年だ。
よし、気付いてなさそうだな。
「姉さん、今日高等部の入学式でしょ?早く出ないと遅刻しちゃうよ」
ーーそう、オレは今日高校生になる。まぁ中等部から高等部に上がるだけだが。
オレの通う学校は小中高一貫の金持ち学校、鳩羽学園。オレみたいな大企業の社長の子供や、医者の子供、売れっ子芸能人の子供など、とにかく金がある家に生まれた者が通う学校だ!
昔のオレのような庶民はいない。
だからこそ息が詰まるんだよなぁ。坊っちゃんとお嬢様ばっかりで友達を作る気にもならん。ずっと「ですわ」「おほほ」なんて言ってられるか!
頭の中で文句を言っていると、幸司がオレの荷物をせっせと準備しているのが見えた。幸司は世話好きなんだかなんなのか、昔からやけにオレの世話を焼いてくる。オレの方が兄……いや、姉なのに。
「姉さん、荷物準備しておいたよ!初日は授業もないからこれで大丈夫。あとは………これかな」
そう言って幸司が徐に出してきたのは、どデカい鉄板だった。
「!?」
「姉さん綺麗だから、襲われたらすぐに反撃出来るように持っとかないと」
「そ、そんなのいらない!!」
「姉さんは自分の美しさに気づいてないから……」と無理やり鞄に詰め込もうとする幸司。オレの美しさはオレが一番知ってる!けどいらないだろ!
「そんなに重いの持てないわ!」
と必死に止めるも「姉さんが持つ必要ないよ。その為に使用人がいるんだから」と、幸司はオレの鞄を近くにいた執事に渡す。
前世では一人っ子だったから分からないが、世の中の弟っていうのはみんなこんなに過保護なんだろうか。
なんだかんだと送迎用のリムジンで登校し車を降り、幸司は広い校内南側の中等部校舎、オレは西側の高等部校舎へ向かう。さっき執事から受け取った鞄が妙に重いと思ったら、そういえば鉄板が入っていたかと思い出した。
重い鞄を持ちやっとの事で入学式の会場に辿り着き自分の席に座ると、さらりと入学式が始まった。校長の長い話を聞きながら何度か意識を手放したからか、いつの間にか校長の話は終わっていた。
入学式を終えたと同時にクラス発表が始まる。会場内でクラスごとに生徒の名前が呼ばれ、呼ばれた生徒は担任の教師の方へ並んでいき全員呼ばれると教室へ移動するというものだ。
オレはB組で呼ばれ、担任は若い男だった。前世のオレほどではないけど、それなりに綺麗な顔をしている。切れ長の目はクールな印象を抱かせ、既に何人かの女子達がうっとりしているのが見えた。
教室に案内され席に着くと、担任が自身の名前を黒板に書き挨拶をする。
「今日から一年間一年B組の担任を務める、早川秋斗だ。中等部から高等部に上がった者が多いと思うが、お前達にはより責任をもった行動をーー」
教師ってみんな同じこと言うなぁ、と考えながら黒板に書かれた見覚えのある名前に目がいく。
“早川秋斗”
そういや、前世でよく構ってやってた三つ下のアイツもそんな感じの名前だったか?
オレは“アキ”と呼んでたが、周りは“アキト”と呼んでた気が………あ、そうだ!
“ハヤカワさんちのアキトくんは頭がいいんだって”って前世の母親が言ってたんだ!
それでどのくらい頭がいいのか気になって、家が近かったからって知り合いでもねーのに突然家に押しかけたのが出会いだったな!
あはは懐かしい!
……って、お前じゃねぇかぁ!!
と、気付けばオレは席から立ち上がっていた。
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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