そんなに飛ぶなんて天才すぎる
突然のオレの頼みに「なんで俺が……」と嫌そうな顔をするアキに、
「何でも出来そうな早川先生ですもの。きっとスポーツもお得意ですよね?」
と圧をかけると、アキは自分の言った嫌味を振り返ったのか渋々と了承した。
そして、翌日の練習からオレの自主練習にアキが加わることになり、相手がいなくて悩んでいたオレも気分が上がった。
男相手なら、やっと思い切り蹴ることが出来る!もちろん、アキの下手くそなプレイも楽しみだが。
だがしかし、これは力の弱い女子とまともなサッカーをするための練習だ。
浮かれて力を入れまくっては本末転倒……真剣にやろう。
気合を入れ運動場へ行くと、スーツの上着を脱いだアキが気だるそうに立っていた。
サッカーボールを足で転がしながらオレを待つ姿に、オレは昔を思い出して懐かしい気分になった。
「先生、お待たせしました」と声を掛け近寄ると、アキは面倒くさそうな顔をしながら「早く始めよう」とボールをオレに向かって転がし急かした。
オレは、今から自分の無様な姿を晒すというのによくそんな態度が取れるな!と軽く頭の中でアキをバカにした。
そしてボールを蹴る体勢に入り、少し離れて立つアキを鋭く睨む。
見よ……オレの華麗なボール捌きを……!
と、アキを前にして昔の自分を思い出してしまったオレは、調子に乗って思い切りボールを蹴り上げた。
女子らしいサッカーを真剣にやろう、と意気込んで一分も経っていない。
結構な速度でアキの顔の横を通り過ぎて行ったボールは、一瞬で遠くまで飛んでいった。
「…………」
完全に自分が女であることを忘れていた。
やべ……と思いアキを見ると、アキは黙って自分の後ろに飛んでいってしまったボールを目で追い掛けている。
オレが何と言い訳をしようかと考えていると、
「西園寺……」
と漸くアキがオレを見て口を開いた。
一体何を言われるのかと身構えるが、ここで動揺しては逆に不自然に思われるかもしれない、と思い「勢い余ってしまいました、すみません」とアキの言葉を聞く前に微笑んでみた。
するとアキは大きなため息を吐き、
「……お前、ド下手くそだな」
と有り得ない物でも見たかのように顔を歪めて言った。
「なっ……!」
ハッキリと下手だと言われ、オレは青筋を立てた。
下手……だと……?
このオレが……?
ピキピキと青筋を増やしながらも、お嬢様である事を忘れないよう「嫌ですわ、先生ったら……少し加減を間違えただけですよ。サッカーは得意ですから」ともう一度微笑むと、アキは頭を掻き毟り「とんでもないド下手くそだ」と同じ事を二度言った。
さすがのオレも失礼な発言を二度もされたことで腹を立て、意義を申し立てようと口を開くと、
「けど……」
と前髪をクシャッと握り、表情を隠したアキが先に声を発した。
「力強いだけでテクニックのクソもないのに、自信と夢だけは一丁前な……アイツにそっくりな蹴り方だ……」
少し昔を思い出してしまった、と寂しそうに呟くアキの声を聞くと、さっきまであんなに腹を立てていたのに怒りはどこかへ行ってしまった。“アイツ”というのはきっとオレのことだろう。
……いや、待てよ。
ということは、蹴り方でオレだとバレるかもしれないのか……?
アキのあまりの目ざとさに途端に不安を感じ、
「やっぱり練習は結構です!先生もお忙しいでしょうし、こういう事は自分で解決しなければなりませんよね!迎えもそろそろ来ますし帰ります!」
とオレは早口で言うとすぐにその場から走り去った。
去り際、チラッと後ろを振り向いてみたら、遠くに転がるサッカーボールをただ静かに眺めているアキが見えた。
その姿に、オレは少しの罪悪感を感じた。
結局、ボールの蹴り方でアキに正体がバレてしまうかもしれない、と思ったオレは試合に勝つことやサッカーを楽しむことを諦め、普通の女子以上に弱々しくボールを蹴ることで無事に球技大会を乗り切り、そのせいかは分からないがオレのクラスは一回戦で敗退した。
サッカーを楽しむどころか、アキの無様な姿を見る事すら叶わず、オレは暫く後悔と悲しみで気分の沈んだ学園生活を送った。
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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