初のイベントはオレの大好きな……!
「せっ、先生……違うんです、これは……」とオレが背筋を凍らせ、ブルブルと震えながら弁明の言葉を出そうとするが、アキは至って冷静に「何が違うのか分からないな」と言う。
アキの目は、明らかに冷えきっている。
まさか、アキにオレの素を見られたのか?
もし健太郎だと気付かれていたら……!と一瞬不安になったが、アキのこの吹雪のような態度からして気付いてはいなさそうだ。
香坂は香坂で「あのー、襲ってたんじゃなくて……えーっと、合意……?」なんて思い切り嘘を吐くから「香坂さん?何を言っているんですか?」とオレが目を吊り上げて言うと「ははっ」と笑って目を逸らした。
この男、あとで覚えてろよ……
苛立ちで香坂を睨んでいると、それを見ていたアキが大きくため息を吐き、
「……この間はいらない心配をしたみたいだな」
と呟いた。
「交際するのは構わないが、学校で変なことはするなよ」と呆れたような声で言い残し、食事のためにここに来たはずのアキはさっさとその場を去っていった。
ちっ……ちっがぁぁぁぁぁう!!
アキが変な勘違いをしていることに、オレは頭の中で否定の声を上げた。
そして、当たり前だがその声は誰にも届かなかった。
*
「なぁ〜、悪かったって。もう怒るなよ〜」
教室に戻るため廊下を歩いていると、オレの後を着いてきている香坂がずっと何か言っている。
香坂は何も反応を返さないオレの隣にひょいっと並び「もう変なこと言わねーからさぁ」とオレの顔を覗こうとしてくる。
ふんっと顔を背け、
「変なことしか言ってないですよ、貴方は」
とお嬢様の態度でオレが返すと、香坂はヘラヘラと笑って「ひで〜」と思ってもなさそうな声で零していた。
教室に戻り席に着くと、目の前の席に座った香坂がオレに顔を向け、小声で「そういえばさ」と口を開く。
またくだらないことを言われるのかと少し身構えたが、何も企んでなさそうな普通の顔で手招きをされ渋々と耳を近付けると
「さっきの話からして、早川先生ってお前のことが好きってことだよな?」
と香坂が耳打ちした。
香坂にはさっき、オレの前世やアキとの関係の説明、そして拗れてしまったアキが健太郎に対してとんでもなく大きな恋心を抱いていると説明してある。
そのせいで正体を明かすことは出来ないとも。
香坂の今更な質問に「多分そう」と同じく小声で返せば「それってさ……」と香坂が続ける。
「前世の、男の姿のお前が好きだっただけじゃねーの?女のお前には興味ない説ない?」
香坂の何気ない一言に「……確かに!!」と叫びたくなったが、いや待て、とオレは以前のアキの言葉を思い出す。
『もし、健太郎が生まれ変わって俺の目の前に現れたら……今度こそ、死んでも逃がさない』
思い出すと相変わらず背中がゾッとするが、アキのこの言葉はただの“同性愛者“として片付けてもいい言葉なのか……?
男のオレだから好きになった、というにはアキのあの声には想いが込められすぎていた気がする。
問い掛けに答えず少し考えていると、
「まぁ、根拠はねーけどな」
と香坂は前を向き、本令が鳴り授業が始まった。
その日から、素で接することができる香坂とはよくつるむようになった。
昼休みは勿論、全ての休憩時間も二人で行動し、教室を移動する授業でも常に隣にいることから、クラスメイト達はオレ達が付き合っていると誤解していた。
不快なので、そんな声が聞こえたら否定の声を上げるようにしている。
ちなみに、香坂はオレの知らないところで「姉さんに変なちょっかいを掛けたら〇す」とわざわざ家まで来た幸司に脅されたと言っていた。
姉思いのいい子だ。
香坂やアキによって心を脅かされることが落ち着き四月も終盤に差し掛かった頃、この日の最後の授業で、
「今日は、五月にある球技大会の出場種目を決める」
とアキが発言した。
そのままアキに呼ばれた学級委員が教卓に立つと、対象種目が次々と黒板に書かれていく。
そしてそこに女子サッカーという文字が並んだ時、オレは一気に自分の中の熱が沸騰するのを感じた。
サ……サッカーが、できる……!!
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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