お姫様になっちゃった
「大人しくしてろ」と言いながら、アキはオレを横抱きしたまま車の方へ歩いて行く。
何が起こったのか分からないまま呆然としていると「……俺が言ったからだろ、悪かった」と何故かアキは小さな声で謝罪を口にした。
「な、何のことですか?」
混乱した頭で、アキの謝罪の意味もすぐには理解が出来ず問い掛けると、アキは小さく息を吐いて口を開いた。
「俺が『仲良くしてやれ』なんて言ったから、香坂と合わないのに気を使って話してやってたんだろ。見てれば分かる」
何だか責任を感じているような声で吐くアキは、恐らく香坂がオレに絡んでいる理由を知らないんだろう。
そんなアキに、え?全然違いますけど?とは言えず、都合も良いからとオレは「はい……」とアキの謝罪をすぐに受け入れた。
「……深い意味があって言ったわけじゃない。ただ席が前後だから、と思って何も考えずに言ったんだが、負担を感じさせてしまったな。まさかここまでストレスを抱え込ませてしまうとは、思わなかった」
本当に悪かった、と申し訳なさそうなアキを見ると、やっぱりコイツは教師が向いているなと思った。
再会してたった数週間で、オレは教師として立派に生徒と向き合おうとするアキを知った。
夜の遅い時間に生徒がコンビニにいたら家にまで送り届けたり、体調の悪い生徒を心配して駆け付けたり、素晴らしい教師じゃないか。
昔のアキは健太郎にしか懐いていなかったのに、と何だか寂しいような嬉しいような複雑な気持ちになる。
「オ……私、先生のこと誤解してました。私のことを変な子だと思って、敬遠しているんじゃないかって」
オレも素直に感謝くらい告げようか、と口を開くと「いや、まぁそれはそうなんだが」とアキが突然いつもの口調に戻って言った。
何だよ、その急な裏切りは!!
思いやりのないアキの言葉に対する怒りで体調が悪かったことも忘れ、ふと思い出した香坂を探し見回すと、未だにオレがアキに抱き上げられた場所に立っていた。
香坂はオレの視線に気付き、目が合うと笑って手を振り去っていった。
確かに、しつこく絡んでくる香坂にストレスを感じて体調を崩しはしたが、悪い奴だと思っている訳じゃない。
オレも前世では好みの女の子にしつこく言い寄ったりしたしな。
気持ちは分かる。だけどオレのことは諦めてくれ。男の頃の記憶が鮮明すぎて、スカートで過ごすこと自体未だに慣れないんだ。
大人しくアキに抱き上げられたまま、去っていく香坂を眺めていると「……お前、体格に似合わず重くないか?」とアキが失礼なことを口にした。
つい怒りの声を上げそうになるが、よく考えたら重いのは当たり前だ。
「鞄の中に鉄板が入っていますから」
「……は?」
多分1kgくらい、と言って驚いたアキが立ち止まったところで、
「姉さん!!」
と幸司の声がした。
アキと共に声の方を向くと、中等部校舎の方から幸司がすごい勢いで走って来ている。
幸司はオレ達の前まで来ると、早口で「姉さんどうしたの!?綺麗な姉さんに嫉妬した誰かに何かされたの!?それとも、綺麗な姉さんに欲情した男に襲われた!?ちゃんと鞄で抵抗したよね!?」と矢継ぎ早に質問を投げ掛けた。
「あぁ!!もっと重い鉄板を入れておけばよかった!!これからは姉さん専属の護衛も雇わないとかな……でもその護衛が姉さんを襲ったら……!?」と幸司が一人で騒いでいるのを見て、アキは納得したようなため息を吐いた。
「こ、幸司!違うの!少し頭が痛くてーー」
「体調が悪いの!?」
誤解を解こうとしたが、興奮した今の幸司には何を言ってもダメらしい。
大袈裟に捉えた幸司は「先生、早く姉さんを車に乗せて下さい!このまま病院へ行きます!」とアキにあられもない形相で告げたかと思うと、すぐに運転手へ指示を出しに行った。
嵐のような幸司に、既に疲れ気味のアキは
「……お前は……そこまで変じゃないかもしれないな……」
とさっき言ったばかりの発言を取り消した。
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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