女の体って不便
結局、アキに家まで送られ庭にある木を登ってこっそり部屋に戻り、その日は大人しく布団に入った。
帰り際、アキは思い出したように「そういえば、明日から休んでいた奴が登校するから。仲良くしてやれよ」と捨て台詞を吐いていった。
確か一番前の席がずっと空席だったな、と思い出す。オレの前の席だ。
入学式の日から病欠と言ってたような気がするが、どんな人だろうか。きっと儚い女子なんだろうな、仲良くなりたいな。
なんとなく期待値を上げて可愛い女子の姿を想像していると、すぐに睡魔に襲われ眠りについた。
翌日、登校し教室へ入ると、オレの前の席に人が座っているのに気付く。デカい男だ。
病欠で休んでた奴って男かよ……と寝る前から期待で膨らませた妄想が崩れ去っていくのを感じる。
耳に幾つかのピアスを付け、男にしては長い肩までの金髪をハーフアップにした、明らかにチャラそうな男。
昨日までアキに夢中だった女子達が何人かその男に群がっていて、オレの席も女子達に囲われている。
嫌味な奴だな、もう嫌いだ!
別に何もされていないのに、子供みたいに腹を立てながら自分の席の方へ向かうと、その男と目が合った。
しっかり顔を見てみるが、やはり顔も整っている。女子達が群がるのも納得だ。
前世のオレ程ではないがな。
「おはようございます。席に座ってもよろしいかしら?」
オレをじっと見つめる男に苛立ちを感じながらも、上品な口調でオレの席を囲う女子達に言えば、女子達は「西園寺さん!ごめんなさい、どうぞ!」と皆すぐに移動した。
席に着き、未だに視線を感じるのに違和感を感じて前を向くと、目の前に座る男は相変わらずオレを凝視している。
なんなんだよ……と苛立ちを募らせ「な、何でしょうか……?」と問い掛けると、男は静かに声を漏らした。
「やべぇ……めっちゃ好み……」
……は?
突然の好み発言にオレが目を丸くしていると、男は軽薄そうな口振りで自己紹介を始めた。
「俺、香坂怜。モデルやってるんだ」
君は?と続けられ、その雰囲気から全然病弱そうに見えないな、と思いながら答えないのもオレの品格を疑われるし……と仕方なしに返事をする。
「西園寺薫子といいます」
「あぁ、あの西園寺のご息女がいるって聞いた事がある。なるほどな、噂で聞いてた通り美人……てか、すげぇ好みだわ」
だからその好み発言は一体なんなんだ、と思いつつ「ふふ」なんて笑って受け流していると本鈴が鳴り、アキが教室に入って来て朝礼が始まった。
*
「薫子ちゃんさぁ、今度俺とデートしない?」
香坂との初対面から数日が経ち、何故だかよく分からないが香坂は学校へ来る度にオレを口説くようになった。
あの好み発言は本音だったのか、と思うと同時に、香坂の行動の速さに若干呆れる。
「ごめんなさい、習い事で忙しくて……」と最初は適当な嘘で回避しようとしたが、諦めの悪い香坂が何度断わってもデートに誘って来るから、最近は「行きませんわ」と端的に返すようになった。
もちろん、その時もお嬢様の笑顔は崩さない。
そんなオレに香坂は「俺に靡かない女がいるなんて……ますます燃える」と小さく呟いていて、一人で漫画みたいな台詞を吐くな!とオレは頭の中でツッコミを入れた。
香坂に群がっていた女子達も、オレが口説かれているのを見て「西園寺さんなら仕方ないわ……」「きっと誰だって好きになってしまうわよ」と遠目でコソコソ言うだけで全然助けてくれない。
寧ろ「大人気モデルの怜様にあんな風に言い寄られても靡かないだなんて、きっと西園寺さんは気高い方なのね」と、まるでオレを尊敬するような眼差しで眺めている。
そしてある日、こんな軽薄な男に上品に振る舞い続ける事に、自分がかなりのストレスを溜め込んでしまっていると気付いた。
本当なら「うるせぇ!どっか行け!!」と言いたいところを必死に我慢し続けているのが体にも良くないのか、最近なんだか頭痛が酷い。
あまりのストレスから幸司に相談しようかとも思ったが、過保護な幸司のことだから、香坂が消されてしまうかもしれないと思うと言えなかった。
そんな日々も暫く続くと、オレの頭痛はさらに酷くなっていった。
この日も頭痛を我慢しながら、校門前に止まる迎えの車に向かって校舎を出たところで「薫子ちゃん、今から帰り?」とまた香坂が声を掛けてきた。
校内が無駄に広いせいで迎えの車までまだ距離がある中で、一番面倒な奴に声を掛けられたことで疲れから息を吐く。
「なんか体調悪い?俺もよく体調崩すから気持ち分かるわ」
体支えようか、とオレの態度から体調の悪さを察した香坂は、気を使ったような口調で言うとオレの腰に手を回してきた。これは下心があるのかないのかどっちなんだ。
「大丈夫です。お気になさらないで」と全然大丈夫ではないが、香坂と早く離れたくて笑顔を作ると、香坂は「強がるなよ。辛いんだろ?」とイケメンぶって腰に回した手にさらに力を込めた。
きっと普通の女子なら落ちていただろう。“普通の女子“なら。
前世が男であるオレには、その手は通用しないぞ。
幸司が鞄に入れたままの鉄板が重いのもあって、体をふらつかせながら歩きとうとう倒れそうになると、
「西園寺!」
と近くでオレを呼ぶ声がした。
声の主を探し辺りを見渡すと、さっきオレが出たばかりの校舎からアキが走って来ていることに気付いた。
アキはオレに駆け寄ると「大丈夫か、具合でも悪いのか?」と心配そうな声で言い、オレの肩に手を置いて顔を見つめた。
なんで気付いたんだ?と思いながら「先生、平気です。車まであと少しですから……」と答えると、アキは大人の顔をしたまま「無理をするな」と言って、オレの腰に掛けられていた香坂の手を引き剥がしたかと思うとーー突然オレを抱き上げた。
「え……?」
これ……お姫様だっこじゃないですか?
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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