罠ってくらい会うんですが?
目の前に立つ長身黒髪で私服姿の男、アキは不思議そうな顔をして「お前、こんな所とは無縁そうなのに……」と呟いた。
オレの普段の生活からしたら確かに無縁だろうが、一瞬でも庶民の生活に戻りたかったんだよ!悪いか!
頭の中で叫びながら、『一難去ってまた一難』ということわざが頭に浮かび苛立ちを募らせる。
一難が訪れるには早すぎるだろ、と。
そんなことより、何でアキがオレの家のすぐ近くのコンビニにいるんだ。コンビニといったら、普通は自分の家の近くにある所へ行くものだ。
それを踏まえて考えると、このコンビニがアキの家から一番近いコンビニ、ということになる。
……おい待て。さすがにそんなことはないよな?
うん。ないない。だってそんなの言ってなかったし。
自分の思考から導き出された答えを自分で否定していると、アキは何も言わないオレを不審に思ったのか「おい」と再び声を掛けてくる。
アキの声に「あっ、はい!」と漸く返事をすると、アキはため息を吐きながら質問を投げ掛けてきた。
「答えたくないなら何故こんな所にいるのかは別に聞かないが、オレは教師としてお前に言わなきゃならないことがある」
理由は聞かないでくれるのか、と内心ホッとするのも束の間、目の前に立つ顔のいい男は途端に鋭い目付きで「さっさと帰れ」と口にした。
「今何時だと思ってるんだ」
そう真面目な顔をして叱るように言うアキは、幼馴染というよりただの大人だった。
アキの教師として最もな言葉に「……ごめんなさい」と素直に謝ると、さすがのアキも叱る気力を失ったようで「送って行くから、少し待ってろ」と近くにあった買い物カゴを手に取った。
アキに送ってもらうなんて違う意味で危険じゃないか、と慌てて「ひ、一人で帰れます!」と背中を向けたアキに言うが「危ないから駄目だ」と一蹴され、オレは渋々アキの買い物を眺めることにした。
「……先生、この辺に住んでいらっしゃるんですか?」
絶望すると分かっていて聞く気もなかった質問を、他人の買い物を眺めるつまらなさからとうとう口に出してみると、アキは「あぁ、言ってなかったか?」とあっさりと肯定した。
さっきあんなに頭の中で否定した自分がバカみたいだ。
「……何を買いに来たんですか?」
「晩飯」
暇でしてしまったオレの何気ない質問に「コンビニで夕食を買う男なんて惨めだろ?」とアキは鼻で笑いながら毒を吐いた。
その自分で自分を卑下するような声に苛立ちを覚え、
「惨めだなんて思いませんよ。一人暮らしの男性はコンビニが恋人、とテレビで見ましたから」
と返すと、アキは「……変な番組だな」と少し笑ったように見えた。
もちろんそんな番組はない。めちゃくちゃ嘘。
あまり弾まない会話をしながら買い物を見ていると、さっきからアキが永遠とカゴに入れ続けている物が気になった。
「……冷凍チャーハンに保存用カップチャーハン、コンビニオリジナルのチャーハンまで……チャーハンお好きなんですか……?」
ありったけのチャーハンを詰め込み溢れ返りそうなカゴを見て問い掛けると、アキは「……別にいいだろ」とオレから目を逸らした。
そういえば、オレが中学に入学してすぐ、小学校からオレがいなくなって寂しがっていたアキにチャーハンを作ってやったことがあったな。
オレの家で親がいない隙に台所に入り、家庭科の授業で習ったばかりのチャーハンを披露してやると、アキはそれはそれは嬉しそうに頬張っていた。
何故だか決して美味いとは言わなかったが、きっと食うのに必死で言葉なんか出なかったんだろう。
その後、台所を荒らしたことが母親にバレて大目玉を食らったのもいい思い出だ。
こんなにチャーハンの商品ばかり買うってことは、元々大好物だったんだな。
一人で勝手に納得し、同時にアキの健康が少し心配になった。
大量のチャーハンをレジに持って行き会計を済ますと、漸くアキは「待たせたな」とオレを家まで送るためコンビニを出て歩き始めた。
歩きながらまた夕方のような気まずい沈黙が流れ、オレは息が詰まりそうになり「あ、あの」と声を出した。
オレの声に反応し、少し前を歩くアキが顔を僅かにこちらへ向ける。
「……心配するので、家族には言わないでください」
お願いします、とオレが本心からの言葉を口にすると、アキは少し黙ってからまた前を向き、
「……言わないよ」
と返事をした。
その声は、何だか優しい声のように感じた。
こんにちは、鈴木です。
転生したら女だったんだが!?〜前世の幼馴染に言い寄られて困ってます〜 をお読み頂きありがとうございます。
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