第81話 それでもきっと
「――ナノハよ。ラストアに行ってみる気はないか?」
ウツギがそんな提案を告げたのは、賑やかな収穫祭が終わった翌日のことだった。
慌ただしかった稲穂の収穫が終わり、訪れた面々に新米が振る舞われ、夜は食事と酒で大盛り上がりとなり、新たに増設された温泉施設も賑わい、そして夜が明けて――。
各地から訪れていた人々が自分たちの村に帰還するのを見送った、その後でのことだ。
ウツギはナノハに話があると言って自室に呼び寄せていた。
その場にはリドたちもいて、ナノハはそれでおおよその事情を察しつつもウツギに尋ねる。
「私が、ラストア村に……?」
「うむ。此度の一連の件、里の窮地を乗り越えここまでの発展を遂げることができたのは、言わずもがなリド殿たちのおかげだ。そして、リド殿たちからはまだまだ学ぶべきことがあると考えている」
「……」
「しかし、無論リド殿たちはラストア村に帰る身。ずっとこの里で教えを請うわけにもいかぬ」
「……ええ、そうですね」
「そこで、《ユーリカの里》から人を向かわせるのはどうかと考えたのだ。ラストアとは今後の行商などでも特に関わることになるしな。ラストアの方々と直接関わることで学ぶ機会は当然増えるだろうし、我ら獣人族としても有益なこととなろう」
隣で聞いていたリドが「もちろん、ラストアにとっても良いことだしね」と付け加え、ナノハに目を向ける。
「なるほど。そこで私がラストアに向かってみてはどうかというお話に?」
「そうだ。無論、お前が望むならだが」
「……」
「昨日、リド殿たちやラストア村の方々とも話してな。皆はナノハさえ良ければと言ってくれた。今すぐにとは言わん。考えてみてほしいということだ」
ウツギは言いつつも、ナノハに笑いかける。
答えを聞くまでもないかもしれないがと、言わんばかりに。
「今この場でお答えしますよ、お父様――」
ナノハはウツギに、そしてリドたちに笑みを返して告げる。
その答えは、決まりきっていた。
***
「それではみんな、行ってきますね」
翌朝――。
リドたちと共にラストアへ発とうとするナノハを見送ろうと、大勢の獣人たちが広場に集まっていた。
「うぅ……。姫さま、お元気でですぅ……」
「ムギったら、大げさですよ。こことラストアではそう距離も離れていませんし、シラユキに頼んで手紙でやり取りすることもできるんですから」
「そーは言っても、寂しいもんは寂しいです」
ムギはナノハに撫でられながら、くしゃりと顔を歪める。
確かにムギを抱いて眠れなくなるのはちょっと寂しいかもしれないなと、ナノハは苦笑した。
「ムギもこんど、ラストアに顔出すです」
「そうですね。楽しみにしていますよ、ムギ」
そうして、ナノハにぎゅっと抱きついていたムギは名残惜しそうに離れる。
「お父様、行ってまいります」
「うむ。ナノハのことだから心配はいらぬと思うが、無茶はせぬようにな」
言いつつもウツギはどこかそわそわした様子だった。
一族の長とはいえ人の親。
そこまで遠くはないとはいえ、やはり一人娘が離れるのは不安なようだ。
「ふふ、大丈夫ですよお父様。リド様たちもおりますし、里の方にもたまには戻ってきますから」
「……そうだな」
出発するナノハと言葉を交わした後で、ウツギはリドたちに体を向ける。
「リド殿。それにミリィ殿、エレナ殿、シルキー殿――。本当に、貴殿らには言い表せぬほど世話になった。ぜひ今後も良くしてほしい」
「こちらこそありがとうございました。また僕たちも《ユーリカの里》にお邪魔させていただきたいと思っています」
「ああ。もちろんその時は里を上げて歓迎させていただこう」
互いに手を差し出し、リドとウツギは固い握手を交わす。
「それから、ナノハのこと、ぜひよろしく頼む」
「はい、もちろん」
「ふっふっふ。そこは安心してくれて大丈夫だぜ、獣人のおっちゃん。吾輩たちがちゃんと面倒見るからよ」
シルキーが尊大な態度でリドに続いたが、エレナとミリィは乾いた笑いを浮かべる。
「はぁ……。どちらかといえばナノハさんに面倒を見られるシルキーさん、という絵の方が目に浮かびますわ」
「そうですね。ナノハさんの方がどう考えてもしっかり者ですし。シルちゃんがご迷惑をおかけしないようにしないと」
「……お前らが吾輩のことをどう思っているかよーく分かった。吾輩の怒りは有頂天に達したぞ」
「有頂天ならむしろ楽しそうじゃないですか……」
「うるさい。ラストアに戻ったら覚悟しとけよ?」
シルキーはぶすっとした感じで言ったが、フサフサの尻尾を振りながら言っても凄みはなかった。
それからリドたちは獣人たちと別れの挨拶を交わす。
抱えるのが大変なほどのお土産も受け取り、獣人たちの歓声を受けながらリドたちは何度も振り返った。
「リドさーん! 他のみんなも! 本当にありがとうな!」
「また里にも顔を出しておくれ! いつでも大歓迎だからね!」
「みんな元気でねー! また一緒に遊ぼー!」
「姫さまー! お気をつけて!」
そんな声で見送られながら、リドたちはラストアへの道を歩く。
思えば《ユーリカの里》では色々とあったものだなと、リドは自然と温かい気持ちに包まれた。
決して色褪せることのない、豊穣の大地と共に生きる種族たちとの思い出をもらったことに感謝しつつ、リドは前を向く。
これから寒い冬が来る。
ラストアでは雪も降るらしく、帰ったらまた冬支度に追われる日々になるだろう。
(それでも……)
リドは賑やかに会話しながら歩く仲間たちを見ながら、笑みを浮かべる。
それでも、みんなと一緒ならそれは楽しいものになるだろうなと、期待を胸に抱きながら――。
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