第77話 天候を操る方法
収穫祭まであと二日。
リドたちの願いとは裏腹に、雨は強くなっていた。
「風も出てきたね……」
「こりゃいよいよ嵐かもなぁ」
リドとシルキーは揃って窓の外を眺めながら呟く。
午前中に稲の様子を見に行ったところ、幸いにもまだ実が落ちるような状況ではなかったが、気になるのは風の方だ。
ナノハの話によれば強風で稲が倒れてしまうなんてこともあるらしく、そうなれば収穫に支障をきたしてしまう可能性もあるだろう。
気分が沈まないよう皆が明るく振る舞っていたが、現実問題としてこの雨で収穫祭がどうなってしまうのかという不安は募るようになっていた。
「はぁ……。この雨をどうにかできる方法でもあれば良いのですけれどね」
「あ、そういえばリドさん。スキルでどうにかしたりできないんでしょうか? こう、天候を操作するスキルとか」
「うん。一応、局所的に天候を操作するスキルなんかもあるにはあるけど一時的なものだしね。それに、ここまで大規模な悪天候となると……」
「スキルによる解決は難しい、ですかね……」
昨日よりも更に雨は激しくなっており、状態は嵐と言っても差し支えないだろう。
風の音が轟々と響き渡り、リドたちが今いる家も揺れている。
収穫祭のことだけでなく、《ユーリカの里》全体としても気にかかる状態だ。
「……」
何かできることはないかと、リドは思考する。
古い教会の聖典なんかでは「天候を操り人々の暮らしを救った神が現れた」なんていう逸話が登場したりするが、あくまでお伽噺の世界である。
現実にそこまで天候を操作し得る人間などいない。
そう、思われた――。
(嵐を収める方法……)
しかしリドは、そんな状況に抗おうとする。
強くなる一方の雨。そして吹き荒れる風。
そんな状況を覆す策は何か無いかと。
(そういえば、昔グリアムさんから話を聞いたことがあったっけ。この世界には天候を司る大精霊がいるとか……。そして、その大精霊を喚び出す方法なんかも存在すると……)
大精霊――。
リドがここ《ユーリカの里》に来る前、村の子供たちに行った青空教室でも話していたことだ。
様々な影響を与える精霊の中でも上位の存在。
その中に、天候を司る大精霊がいると。
かつてのグリアムとの話を手がかりに、リドは記憶を掘り下げていく。
グリアムからの話はいつも冗談めかした調子で語られることが多かった。
そしてそれは天候の大精霊に話が及んだ時も同じ。
強い雨の続く日があり、その時にグリアムはリドに向けて言ったのだ。
――この世界には覆せないものなんて無いさと。
――リドが良い子にしていれば明日にはきっと晴れていると。
そう言ってグリアムが出かけた次の日、不思議とそれまで降り続いていた雨が止み、晴れ間が広がっていて。
それがグリアムの仕業であることが、リドには何となく分かった。
そして、リドは何故そんなことができるのかとグリアムに尋ねたのだ。
返ってきた言葉は「大精霊にお願いしたのさ」という、いつもの調子で冗談めいた言い方だったが、リドにはそれが冗談であるようには思えなかった。
「……」
思考を巡らせ、幼い頃のグリアムとの会話を思い起こし、そしてリドはその方法に辿り着く。
(そうだ。確かグリアムさんはあの時……)
リドは立てかけてあった《アロンの杖》を手に取り、そして雨除けの外套を纏った。
突然の行動に驚いた面々がリドに声をかける。
「リド様? どこかに行かれるのですか?」
「うん。この嵐を止める方法を思い出したんだ」
「え……?」
その言葉に皆が驚くのは当然だった。
外で降り続いている雨は普通の強さではない。
風も吹き荒れており、外に出ることすら危ぶまれるという状態になってきている。
しかしリドは皆にニッコリと笑いかけ、そして告げた。
「収穫祭、成功させなきゃだしね――」






