第73話 リドの提案
「そういえばナノハ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
それはある日の昼食時のことだ。
リドが尋ねると、ナノハは獣耳をぴくりと動かして反応した。
「はい、何でしょうか?」
「この里って外と連絡を取る方法とかあるの?」
「外との連絡、ですか」
「うん。ラクシャーナ王に黒水晶を無事回収できたことを伝えておいた方が良いかなと。一応ラストアを出る時に状況は手紙で知らせたんだけど、《ユーリカの里》に来てからのことはまだ報告できていないしね」
「ああ、なるほど」
リドの言葉を聞いたナノハは納得したように頷く。
そして昼食を食べ終わり蝶を追いかけていたムギに声をかけた。
「ムギ、ちょっと来てくれますか」
「はい姫さま、なんでしょか!」
呼ばれたムギはパタパタと駆けてきて、座っていたナノハの膝上にちょこんと乗っかる。
可愛らしいその仕草に、特にミリィとエレナが笑顔になった。
「ええと、ムギと何か関係が?」
「はい。ムギはこう見えて動物と意思疎通を図れるスキルを持っていまして。ムギに頼めば里の外にも連絡が取れると思いますよ」
「むっふっふー。そういうことですね姫さま。きっと今なら●傍点●おはなしできると思うです」
ムギは得意気な笑みを浮かべた後、鮮やかな指笛を鳴らした。
その音は甲高く響き渡り、ムギはきょろきょろと辺りを見渡す。
すると、羽を広げながら飛んでくる鳥がいた。
「お、来た来たです」
ムギは自信満々に片腕を横に上げる。
そして飛来した鳥がその腕に着地……するかと思われたが、直前で羽ばたくとムギの頭の上に乗っかった。
「ち、ちょっとシラユキ! そっちじゃないですよ! せっかく腕を出したんだからそっちに乗っかってほしいです!」
「ピュイ?」
「まったく。カッコよく決めようと思いましたですのに」
「ピィ!」
ムギがシラユキと呼んだその鳥は、小首を傾げながら可愛らしく鳴いていた。
見るに、白い鷹のようだ。
雪のように白い体毛が美しく、今は凛々しい顔をリドたちに向けている。
「えっと……。ムギ、その鳥は?」
「はい、ムギの友達でシラユキと言いますです。さっきみたいに呼べばたいていはすぐ来てくれるです! ほらシラユキ、ご挨拶するですよ」
ムギの言葉を受けて、シラユキが大きく羽を広げる。
そのままパタパタと羽を揺らすと、またムギの頭の上に鎮座した。
「あはは。今のが挨拶かな。はじめまして、シラユキ」
シラユキを頭に乗せたまま、腕組みしながら得意気になるムギ。
一方でシラユキはまた高い声で鳴いており、何とも可愛らしい構図にミリィやエレナは目を輝かせていた。
「なるほどな。このシラユキに頼めば里の外にも手紙を出したりできるってわけだ」
「そーゆーことです猫ちゃん。しかもちょーはえー『とっきゅーびん』です。ムギととってもなかよしな鳥さんなんです」
「しかしよ、それなら何でこの前の時シラユキに頼まなかったんだ? シラユキに飛んでもらって、ラストアとかに手紙を届けりゃ良かったんじゃねえか?」
「うぅ……。それはぁ……」
ムギがもじもじとしながら俯いてしまったので、ナノハが代わりに後を引き継ぐ。
「土喰みの影響があった時はムギも倒れていまして。スキルがうまく発動できない状態だったんです。シラユキとは普通の状態でも仲が良いのですが、具体的な意思の疎通まで図るとなるとスキルの力が必要でして」
「ああ、だからさっきムギは、今なら話せるって言ってたんだ」
「そーゆーことです。ムギがもっとお役に立てていれば、姫さまにも無茶をさせずにすみましたのに、めんぼくねーです」
「お、落ち込むことないですよ、ムギちゃん」
「そ、そうですわ。ムギさんが気にすることじゃないですわ」
しゅんとした姿に庇護欲を唆られたのか、ミリィとエレナが慌ててムギを慰めていた。
「でも、今ならちゃんと意思疎通ができるはずですから。ラクシャーナ王にお手紙を出すこともできるはずですよ」
ナノハが言って、ムギの頭に乗ったままのシラユキがまた「ピュイ」と可愛らしい声で鳴いていた。
それからリドは王都にいるであろうラクシャーナとバルガス宛てに、そしてラストアにいるラナ宛てに手紙をしたため、ムギに渡した。
「それじゃシラユキ。さっき伝えた場所におねがいするですよ」
「ピュイピュイ!」
ムギが足に手紙を巻きつけると、シラユキは大空へと羽ばたいていった。
「よし、これでお手紙が届くはずですです!」
「おお、速いね。もうあんなところまで」
「リドさんの《ソロモンの絨毯》と良い勝負かもしれませんね」
「むふー。シラユキはちょーぜつはえーですからね。ムギもあんな風にお空を飛んでみてーですが、さすがにムギが乗っかったらシラユキがつぶれちゃうんでできねーです」
シラユキを見送りながらパタパタと尻尾を振るムギ。
その姿を見ながらリドとミリィはこっそり耳打ちする。
(今度ムギちゃんをソロモンの絨毯に乗せてあげたら喜ぶかもしれませんね)
(だね。機会を見て乗せてあげようか」
空飛ぶ絨毯の上で楽しげに叫ぶムギの姿を想像して、二人は自然と笑顔になっていた。
既に見えなくなったシラユキの飛んでいった方角を見やり、リドはウツギに話しかける。
「それにしても、ムギとシラユキがいるなら、なおさら外の人との交流も捗りそうですね」
「うむ。リド殿が前に提案してくれた行商の件についても、これなら問題なく進められることだろう」
「となると、そろそろ里の外のことに着手した方が良いかもしれませんね」
リドの言葉にウツギが頷く。
先日からの成果もあり、《ユーリカの里》の設備はかなり充実してきたと言っていいだろう。
もっとも、ここまでの短期間で整備が進んだのはリドの知見や仲間たちの持つスキルに起因するのだが。
「でも、里の外とのことに着手すると言っても、具体的にどのようなことから進めるべきなのでしょうか? 近隣の村々と行商などを始めるにせよ、どんな風に進めていけば良いのか……」
「ふっふっふ。ナノハのお姫さんよ。まずは今知っている場所から攻め入ればいいさ」
「え?」
「いやシルキー、別に攻めるわけじゃないから」
また独特な言い回しで困惑させたシルキーを肩に乗せ、リドは嗜めるように撫でる。
困惑した様子のナノハに、ウツギが代わって説明をすることになった。
「リド殿と昨日浴場で話をしてな。まずは今交流のある村との関係を活かすべきだろうという話になったのだ」
「なるほど。ということはお父様、ラストアとの?」
「うむ。これまでラストアとは簡単な物々交換を行うに留まっていたが、本格的な行商を行うのも良いだろうとな」
「僕たちも《ユーリカの里》の良さは色々と知れたからね。コメの料理や温泉とか、この里にしか無いものもあるし、そういうものを名産品にするのも良いと思うんだ」
「ラストアでもワイバーンの兜焼きなんかが名産品になったしなぁ。あれでコメを食ったらさぞかし旨そうだぞ」
「もう。シルキーってば食べ物のことばっかり」
「腹が減っては戦ができぬというしな」
「だから戦うわけじゃないんだけど……」
やれやれとリドは溜息をつく。
何にせよ、ラストアとの関わりをきっかけに、対外的な交流の事例を学習するというのは合理的な判断だろう。
「あ、もしかしてリド様が先程ラストアにもお手紙を出されていたのは……」
「うん。ミリィのお姉さん宛てにね。ラストアの人たちも事情を察してくれるだろうし、きっと協力してくれると思うよ」
「あ、ありがとうございます、リド様」
「我ら獣人たちからしてみれば願ってもない話。ぜひ力をお借りしたい」
「ええ、もちろんです」
そうしてリドたちは頷き合い、《ユーリカの里》の改革計画を次の段階へと進めることにした。






