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●書籍化&コミカライズ化決定【SSS級スキル配布神官の辺境セカンドライフ】~左遷先の村人たちに愛されながら最高の村をつくります!~  作者: 天池のぞむ
第5章 獣人族の里

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第67話 豊穣の大地とそこに住まう者たち


「あった! ありましたよリドさん!」


 土喰みを撃破した後でのこと。


 結局ギガントードの時と同様、黒水晶は土喰みが飲み込んでおり、その口から吐き出されているのをミリィが発見することとなった。


「やっぱり、この黒水晶には魔力が含まれているのかな。強い魔力を求めて土喰みが飲み込んだと、そういうことか」

「そうですわね。むしろ、ドライド枢機卿が食べさせたのかもしれませんわ」

「まあどっちでもいいだろ。こうして無事手に入れられたわけだしな」


 黒水晶の回収を済ませることができたリドたちは一息をつく。


 不確かなことは色々とあったが、今は目的を達成したことの安堵感の方が大きかった。


 シルキーが「ま、終わり良ければ大体良しってやつだな」などといつもの調子で言い間違えるものだから、皆は吹き出しつつ笑い合う。


「皆さん、ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいか……」


 ようやく一件の落着を見たことで、ナノハはリドたちに感謝しきりだ。


 そして一行は《ユーリカの里》に戻ろうと、遺跡の出口の方に向けて歩き出した。


 その道中――。


「そういえばよ、結局この土地が汚染されていた原因ってあの土喰みが原因だったのか?」


 シルキーが気になっていたことをナノハに問いかける。


「ええ、そうだと思います。土喰みは地面の中にある魔力を喰らうことで活動する魔物。それがあそこまで巨大化していたために、影響も大きかったのかと」

「つまりは土地の魔力が吸い取られたせいで荒れた感じになっていたわけだ。じゃあ、元凶をぶっ倒したわけだし、土地も元通りになるんじゃねえか?」

「そうですね。これで今まで通りの、豊穣の大地が返ってくるかと思います」

「ふんふん。まあ、時間はかかるかもしれんがな」

「いえ……。それが、先程ミリィ様があのアスフォデルスという植物を通して土に魔力を還したおかげでしょうか。私も体に力がみなぎるのを感じるのです。既に効果は表れているんじゃないかと」

「ほう?」


 そんな会話を交わしていたところ、ちょうど遺跡の出口に到着する。


 そこには、ナノハの言葉通りの景色が広がっていた。


「これは凄いね……」


 思わずリドが声を漏らす。


 初めて訪れた時には枯れ果てていた《ユーリカの里》の大地。


 それが今では青々とした自然を取り戻していた。


 乾いた土は潤いを得て、所々に生えた野草や色とりどりの花がそよ風に揺れている。


 緑に萌える木々もまた、その風景に彩りを添えていた。


 枯れていた《ユーリカの里》が元の姿を取り戻したのだ。


「本当に、皆さんのおかげですね」


 ナノハが涙を拭いながら微笑む。


 その言葉と豊穣の景色が何よりの報酬だと感じながら、リドたちは事の解決を喜び合っていた。


   ***


「リド殿、ミリィ殿、エレナ殿、そしてシルキー殿。改めて、感謝の意を伝えたい。貴殿らは獣人族の大恩人だ」


 獣人たちが住まう《ユーリカの里》に戻ってすぐ。


 リドたちが古代遺跡での出来事を報告したところ、族長のウツギからそのような言葉を頂戴することになった。


「皆さん。私からも改めてお礼を言わせてください。おかげで皆が救われました。本当にありがとうございました」

「ふふん。だから言っただろ? 吾輩たちに任せてくれればちょちょいのちょいだってな。あ、お礼は干し魚とかでいいぞ」


 シルキーの尊大な態度は相変わらずで、ナノハとウツギに謙遜した返事をするリドもまた相変わらずだった。


 土喰みを倒し、大地から吸い取られていた魔力を返還した影響なのだろう。

《ユーリカの里》は緑の大地を取り戻し、臥せっていた獣人たちも活気を取り戻していた。


 かつてドライドが設置していた黒水晶についても回収に成功し、無事今回の件は解決したと見ていいだろう。


「でも、本当にみんなが元気になって何よりだったよね。ナノハがラストアに危機を報せに来てくれたおかげだと思うよ」

「あの時は驚いちゃいましたよね。ナノハさん、突然倒れちゃうんですから」

「無茶をされるなと思っていましたが、それも仲間の皆さんのためですものね。とてもご立派でしたわ」


 リドたちの言葉を受けてナノハが恥ずかしそうにはにかむ。


 今回の一件はナノハがラストアを訪れ、救助を求めたことが始まりだった。


 自身の危険を顧みず、仲間のために起こした勇敢な行動。


 それが結局は獣人族を救うことに繋がり、枯れていた大地も本来の姿を取り戻した。


 但し、獣人族として浮き彫りになった問題もいくつかある。


 一族の長であるウツギの中でもその懸念点は以前から抱えており、リドもそれは何となく感じていることだった。


「リド殿。色々と話したいことはあるが、まずは改めて貴殿らを歓迎させてもらいたい。他の獣人たちも礼を伝えたいだろうし、今日はこの里でゆるりと過ごされてほしいのだが」

「あ、ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて」

「ここ数日は山を越え魔物と戦っての連続でしたからね」

「そうですわねぇ。さすがにちょっとクタクタですわ」

「吾輩はそろそろまともなメシが食いたいぞ。あと、酒も呑みたい」


 ウツギの提案に他の面々も乗っかり、ほっとするように肩を落としていた。


「うむ。里の皆も元気を取り戻したことだし。ささやかながら歓迎の宴も開かせてもらえればと思う。ナノハも、リド殿たちとはまだ話をし足りないようだしな」

「ふふ、そうですね。まだまだ色んなことをお話させていただければと思います」

「それからリド殿――」

「はい、何でしょうか?」


 ウツギが咳払いを挟み、言葉を続けようとする。


 それが少し改まった態度だったため、リドは姿勢を正して耳を傾けた。


「夜になったら少し相談したいことがあるのだが、よいだろうか?」

「え、ええ。僕でお力になれることでしたら何なりと」

「重ねて恩に着る。まあ、夜まではまだ時間もある。それまではナノハの案内でこの里を見て回られるのが良いだろう」

「分かりました」


 相談が何に関することなのか気になったリドだったが、夜になれば分かることかと考え、その場はウツギに問うことはしなかった。


 また夜に改めてと、ウツギの言葉でその場は一旦締められることとなる。


 そうしてリドたちが族長の部屋を出ると、大勢の獣人たちが押しかけてきた。


「あんたたちが里を救ってくれたんだってな!」

「ナノハ姫様を助けてくれてありがとうございました!」

「貴方たちは里の恩人よ!」

「おにーちゃんおねーちゃん、あと猫ちゃんも! おかげで体がすっごく楽になったよ!」


 たくさんの称賛と礼賛を浴びせられ、あっという間に取り囲まれるリドたち。


 一斉に声をかけられたものだから面食らってしまったが、皆が元気を取り戻したようで良かったと、そんなことを感じさせられる光景だった。


「ひめさまー!」


 と、人混みを縫って幼い少女が駆けてくる。


 少女は勢いそのままにナノハ腰辺りへと抱きつき、頭をぐりぐりと押し付けた。


「姫さま、おつかれさまでした! ひめさまが無事戻ってきてくれて、ムギはすっげーほっとしてるです!」

「ち、ちょっとムギ。みんなの前でくっつかれると恥ずかしいですよ」

「おっと、これはしつれーしましたです」


 ナノハが優しく促すとムギと呼ばれた少女が大人しく離れ、その代わりに満面の笑みを浮かべる。


 元気いっぱいで、なかなか独特な言葉遣いをする少女だ。


(あの子、ナノハが出発前に話していた子だな。そういえばいつも付いてくれている幼い侍女がいるって言ってたっけ)


 遺跡の地下で話していたことを思い出し、リドはムギのことを眺める。


 小柄な体躯で天真爛漫といった感じの子だった。


 他の獣人たちと同じように生えている獣耳と尻尾が嬉しそうに動いており、ナノハに頭を撫でられている様は何とも微笑ましい光景である。


「ムギ。私のことを心配してくれていたのは嬉しいですが、皆さんにまず感謝を申し上げないといけませんよ?」


 ナノハの言葉で、ムギの頭がぐりんとリドたちの方を向く。

 かと思うと、今度はリドの方に突撃してきた。


「うわっ」

「神官のおにーさん、それにおねーさんたち、ありがとうごぜーます! ムギは大大大感謝でごぜーます!」

「はは、どういたしまして」


 ムギは全力の体当たりと感謝の言葉をぶつけ、リドたちに花の咲くような笑顔を向ける。


 その可愛らしい純真さに撃ち抜かれたのか、エレナとミリィが揃って破顔した。


「何ですのこの子!? すっごく可愛いですわ~!」

「天使です! 天使がいますっ!」


 頭を撫でながら二人はメロメロの様子だ。


 ムギは「やー」と声を上げながらも嬉しそうである。


 そんな二人を見ながら、リドの肩に乗っていたシルキーが溜息を漏らす。


「やれやれ。愛嬌という点では吾輩も負けていないのにな。……む?」


 ふと何かの感触があり、シルキーが声を上げる。


 見ると、ムギがシルキーの尻尾を鷲掴みにしていた。


「猫ちゃんも、ありがとーです!」

「や、ヤメロー! 尻尾を掴むな! 振り回すなぁああああ!」


 シルキーが絶叫し、ナノハが慌てて止めに入る。


 そうして、リドたちは活気を取り戻した獣人たちと賑やかな初対面を交わすのだった。



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