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●書籍化&コミカライズ化決定【SSS級スキル配布神官の辺境セカンドライフ】~左遷先の村人たちに愛されながら最高の村をつくります!~  作者: 天池のぞむ
第5章 獣人族の里

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第66話 魔力共有と大妖花の召喚


「シルキー、どう?」

「うむ。近づいている気がするな。黒水晶のものか分からんが、この先から匂いがする」


 仲間たちと合流してから程なくして。


 リドはまもなく遺跡の最奥部に辿り着こうとしていた。


 シルキーの案内によればこの先に探していた黒水晶がある可能性が高いという。


「やれやれ。ドライドの野郎、結局一番奥の区画に設置してやがったか。おかげで時間がかかったぞ」

「これで首尾よく回収できそうだね。ただ……」


 リドが言いかけた言葉の続きは皆が想像できていた。


「師匠の気にしていることは分かりますわ。黒水晶がこの奥に設置されているとして、何故《ユーリカの里》の大地が汚染されることに繋がっているのか、ということですわよね」

「うん。《サリアナ大瀑布》で遭遇したギガントードの時みたいに魔物の変異種がいる可能性もある。気をつけて進もう」


 リドの言葉に皆が頷き、先へと進む。

 すると、行く手に巨大な扉が現れた。


「遺跡の最奥には女神様の像が祀られていると聞いたことがあります。おそらく、この場所がそうなのでしょう」

「そういえばさっきそんなこと言ってたな。土地の豊穣を司る女神だとか何とか」


 扉をしげしげと観察しながらシルキーが呟く。


「しかし何とも思わせぶりな扉だな。王都教会の地下にあった場所と似てる気がするぞ」

「私もシルちゃんと同意見です。あそこもこんな感じでしたよね。……あれ? ということは王都教会の地下にあったのも何かを祀る場所だったんでしょうか?」

「気にはなるがな。まあとにかく、今はここを開けようぜ」


 王都教会の地下との共通点は気になったものの、まずは黒水晶の回収を優先しようと一行は扉を開け中へと足を踏み入れる。


 そこにあったのは半ば予想された光景だった。


 等間隔に並ぶ高い石柱。

 そして奥に控えている首無しの女神像と。


 王都教会の地下にあった神殿と酷似している造りだと皆が感じていた。


「首のない女神像ねぇ。ナノハのお姫さんよ。獣人族のご先祖さんはああいうのを祀る趣味があったのか?」

「い、いえ、そんなはずは……」


 シルキーの問いにナノハが首を振る。


「だよなぁ。ってことはドライドの野郎が破壊したってことか?」


 仮にシルキーの言う通りだとしても、何故ドライドがそんなことをするのか、リドたちは理解ができなかった。


「くぅ……。どう考えても悪趣味ですわ。というかおっかないですわ……」

「え、エレナさんしっかり」


 異質な光景に恐怖感を抱いたエレナがよろめき、ミリィが慌てて支える。

 ただでさえエレナにとっては苦手な空間だっただけに抵抗感が大きいようだ。


「この場所が何なのか気になるけど、今は黒水晶を回収しないとだね。エレナには悪いけど、あの女神像の辺りも調べてみよう」


 リドが言って、皆で首なしの女神像に近づく。

 その時だった。


「な、何でしょうか。地面が揺れているような……」


 ナノハが声を上げ、リドたちも同じ振動を感じ取る。


「おいおい。またあの地下神殿の時みたいに崩れるんじゃないだろうな」


 シルキーが恐ろしいことを言ったが、そうではなかった。


 その振動を引き起こした主が石畳の地面を破壊し、目の前に姿を現したからだ。


「こ、これって……」


 そこにいたのは、魔物だった。


 更には、リドたちが遥か頭上を見上げなければいけないほどの大きさだった。

 もっと言えば、それは巨大すぎる「蛇」だった。


「な、な、なんですのあの化け物は!?」

「ラストアの近くにも蛇の魔物はいますけど、あれはちょっと……いえ、かなり大きいですね」

「あれはもしかして、『土喰(つちば)み』かもしれません」


 エレナとミリィが驚愕の表情を浮かべる一方で、ナノハが背負った薙刀を構えながら皆に忠告する。


「ナノハ、土喰みって?」

「獣人族の古い伝承の中に登場する大蛇で、土中の魔力を喰らい生息したとされています。ただ、あそこまで巨大ではないはずなのですが……」


 ナノハの解説を聞き、リドたちの頭には《サリアナ大瀑布》で戦った蛙型の魔物、ギガントードのことがよぎる。


 あのギガントードも黒水晶による影響を受けて巨大化していたのではなかったか、と。


 そして、戦闘の後には黒水晶を吐き出し、小さくなっていたと。


「ということは、あのウネウネ野郎の体内にお目当てのブツがあるってことだろうな。前に戦ったデカい蛙みたいに」

「たぶんシルキーの言う通りだろうね。なら、やることは一つか」


 リドの言葉で全員が戦闘態勢を取る。

 対して土喰みは高い位置からリドたちを見下ろし、その長い体躯をくねらせていた。


「けっこう見た目が気持ち悪くて苦手ですが――」


 まずはエレナが剣を構え、地面を蹴る。


 さすがリドから授かり磨いてきた【レベルアッパー】のスキル効果だ。


 エレナは目にも留まらぬ速さで土喰みの至近距離まで接近する。


「お覚悟ですわっ!」


 エレナが繰り出した連続攻撃は十分な威力だった。


 無数の剣撃が突き刺さり、土喰みは激しくのたうち回る。


 ――シャアアアアアア!


 土喰みが長い尾をエレナに向けて払う。


 それは苦し紛れのように見えて素早い反撃だった。

 が、エレナとて単身で突っ込んだわけではない。


「ナノハさん!」

「やぁあああっ!」


 後を追っていたナノハが薙刀を払い、エレナに迫っていた尾に鋭い一撃を喰らわせる。


「よっしゃ! この分ならあの二人だけで倒せるんじゃねえか? たまには相棒も楽できそうだな」


 シルキーの言葉通り、前衛を務めた二人の動きは素晴らしいものだった。


 土喰みの攻撃をことごとく躱し、確実にその体にダメージを与えていく。


 しかし――。


「おかしいです……。エレナさんとナノハさんが間違いなく斬りつけているはずなのに、まったく倒れる様子がないなんて」


 ミリィの言う通りだった。


 前衛の二人が波状攻撃を仕掛けているにもかかわらず、土喰みの動きに衰えが見られないのだ。


 一方でエレナとナノハの動きには次第に疲れが見え始めていた。


「くっ……。しぶといですわね」

「ええ。この魔物、どこか様子が変です」

「エレナ、ナノハ、一旦下がって! 僕が攻撃してみる!」

「はいっ!」

「任せましたわ、師匠!」


 リドの言葉で前に出ていた二人が後退する。


 二人が土喰みから離れたのを確認し、リドは対象を視界に収めた。


 直後、リドの構えていた大錫杖――《アロンの杖》から光弾が射出される。


「捉えたっ!」


 それは凄まじい物量を伴う飽和攻撃だった。


 これまで多くの魔物を屠ってきたのと同じく、リドが放った複数の光弾が土喰みの頭部を貫く――かに思えた。


「なっ……」


 しかし、予想外の光景がリドたちの前に広がる。


 土喰みは大きく口を開けたかと思うと、向かってくる全ての光弾を飲み込んだのだ。


「ええっ!? あれ、リドさんの撃った光の弾を食べちゃったんですか!?」

「そうか……。さっきナノハが言っていたように、土喰みは魔力を喰らい生きてきた魔物。きっと、《アロンの杖》による光弾も吸収してしまうんだ」

「それじゃあ、エレナさんやナノハさんがやっていたみたいに物理的な攻撃で攻めれば――」

「いや」


 土喰みの動きを注視しながらリドが小さく首を振る。


「見て、ミリィ。あれだけ二人が斬ったのに、土喰みの体には傷が残っていない」

「ほ、本当ですね……。どうしてなんでしょうか?」

「きっと、傷が再生されているんだ。そういうことができる魔物を見たことがある」

「な、なるほど。でも、どうすれば……」

「……」


 土喰みはリドの攻撃を飲み込んだ後、ジリジリと距離を詰めてくる。


 激しく交戦したにもかかわらず外傷はなく、リドの推察通り修復されてしまっているらしい。


 土喰みの赤い瞳が高い位置から見下ろしており、それはこれから襲う獲物を品定めしているかのようだった。


「師匠、どうしますか?」


 リドたちの所まで戻っていたエレナとナノハが警戒したまま問いかけてくる。


 ふと、ミリィが何かを思い出して声を上げた。


「あっ! リドさん、槍はどうです? ドライド枢機卿の時に召喚したあの凄い槍ならバッサリいけるんじゃないでしょうか?」

「槍っていうのは《聖槍・ロンギヌス》のこと?」

「それですそれです」


 ミリィの提案はもっとものようだったが、リドは静かに首を振る。


「いや、あれも《アロンの杖》の光弾と原理自体は似ているからね。高い威力を発揮するのは確かだけどら魔力そのものを喰らう土喰み相手には相性が悪いと思う」

「しかし相棒よ。それならどうする? このままアイツの餌になるのは御免だぞ」

「そうだね……」


 リドは石柱を崩しながら接近していくる土喰みを観察し、打開策を探ろうとする。


(魔力を喰らう魔物。それを源とする魔物か。そういえば……)


 リドは逡巡の後、何かを思いついたようにミリィの方を向いた。


「え、えっと。リドさん、どうしました?」


 突然リドに見つめられたミリィが困惑して尋ねる。

 対してリドは思いついた戦略を確かめるように頷いた。


 この状況を打破する方法。


 それはミリィが持つスキルにあった。


「よし。みんな、聞いてほしい」


 リドは思いついた作戦を簡潔に伝えていく。


「そ、そんなことが……。いえ、でもリドさんですからね。やってみましょう」


 これまでのリドを知る者たちだ。その言葉にも作戦にも、信頼を向けるまでに時間はかからなかった。


「分かりました師匠。ミリィさんとシルキーさんもお気をつけて」

「土喰みの引き付け役、お任せください。しっかり時間を稼いでみせますから」


 エレナとナノハが各々の武器を手に土喰みへと駆けていく。


 それを見送り、土喰みから離れた位置でリド、ミリィ、シルキーは頷き合う。


「さてと。しっかりやるんだぞ、むっつりシスターよ」

「もう、シルちゃんってば。真面目な時くらいからかわないでください」


 ミリィに軽口を叩いた後で、シルキーがリドとミリィ、二人分の防御結界を張る。


 かつて王都の地下神殿でドライドと戦った時と似た態勢だ。


 この布陣を取ったのは、リドの作戦を実行するのに時間がかかるためである。


「それじゃあミリィ。手を」

「は、はい」


 リドは片方の手で《アロンの杖》を持ち、もう片方の手をミリィに向けて差し出す。


 そして、シルキーの張った結界の中でリドとミリィは手を握り合った。


 握った手からリドの体温が伝わってきて、ミリィは少しだけ強く握り返す。


「あ……」


 ミリィが声を上げたのはリドから温かい何かが流れ込んでくるのを感じたからだった。


 握った手の平から伝わり、腕へ、そして体中へと。


 そうして巡る何かが溢れ出て、手を握り合った二人の周囲には揺らめく湯気のようなものが満ちていく。


「す、凄いですリドさん。こんなにたくさん……」


 以前、ミリィはリドの持つ力の本質についてシルキーから聞いたことがあった。


 曰く、リドの力の真髄は「魔力量」にあるのだと。


 ミリィからすれば何故リドがあんなに多くの神器を扱えているのか不思議だったのだが、それも全て、保有する魔力量が膨大であるが故になせる業らしい。


 それがもしかすると規格外の天授の儀を行える要因なのか、何故そんなに膨大な魔力を持っているのか、といったことについてはその時教えてくれなかったのだが……。


 とにかく、リドは常人とは桁違いの魔力を持っているということだ。


「くっくっく。どうだミリィよ。リドの魔力はすげーだろ」


 防御結界を張っていたシルキーが得意気な声を漏らす。


 これはリドが師であるグリアムから教わったことだが、魔力は扱うスキルにも影響を与えるのだという。


 例えば、ミリィの持つ【植物王の加護】というスキルは植物を操作・使役するものだが、対象はその場所に存在する植物に限られる。


 しかし、魔力量によってはその制限を超えてスキルを行使することが可能となる。


 即ち、植物の操作・使役に加え、「召喚」をすることができるのだ。


 今のミリィが持つ魔力量ではできないことだが、リドが協力するなら話は別である。


 先程からリドがミリィと手を繋ぐことで行っているのが、「魔力共有」という手法だった。


「ハッ!」

「やあっ!」


 前線ではその時間を稼ぐため、エレナとナノハが武器を振るっている。


 対する土喰みは長い尾を振り回して対抗しており、破壊された石柱やら石畳やらの瓦礫がリドたちの方へと向かってきたが、シルキーの張っている防御結界のおかげで対処できていた。


「相棒、まだもうちょい時間かかりそうか?」

「うん、もう少し。シルキーの方は大丈夫?」

「吾輩は余裕しゃくしゃくだ。あのドライドの野郎の攻撃に比べればな。それよりもそこのむっつりシスターの方が気になるぞ」

「え? 私ですか?」


 話を振られるのを予想していなくて、ミリィが思わず声を上げる。


「ああ。お前がリドの手を繋げたからって変なこと考えてるんじゃないかってな」

「か、考えてませんってば!」

「神に誓ってか?」

「…………」


 沈黙。


 それに加えてミリィは目を逸らす。

 もはや答えているようなものだ。


「お前もうシスター引退しちまえよ。たぶん向いてねえぞ」

「そんな!? 酷いですよぅ!」

「シルキー、お願いだから防御結界を切らさないでね……」


 激しい戦闘の最中にあって、シルキーとミリィはいつも通りだった。


 緊張感が無いと言えばそれまでだが、どうやらそれくらいの調子がちょうど良かったらしい。


 ミリィはぶんぶんと頭を振って雑念を飛ばすと、これから使用するスキルに対して意識を集中させる。


 リドから共有される魔力の奔流は一段と激しくなり、辺りの瓦礫を揺らすほどに大きくなっていって――。


 そして、時は満ちた。


「ミリィ!」

「はい、いけます!」


 リドと繋いでいない方の手を前方に突き出し、ミリィは唱える。


「《大妖花・アスフォデルス》召喚――!」


 土喰みが現れた時よりも更に大きな地鳴り。


 そんな音と共に石畳を割って、何かが這い出てきた。


「す、すごい……」


 そこに姿を現したのは巨大な花を背負った竜のような生物だった。


 その体はところどころが花弁や葉に覆われており、まさに異形と言えよう。


 召喚者であるミリィが思わず声を漏らしてしまうほどであり、近くにいたエレナやナノハもその存在感に息を呑んでいた。


 ――フシュルッ!


 捕捉した獲物に噛みつくかの如く。


 喚び出されたアスフォデルスは土喰みの首元に牙を突き立てた。


 ――シャアアアアアアアアア!


 土喰みは激しくのたうち回るが、アスフォデルスは離そうとしない。


 それどころか、植物が蔦を絡ませるように土喰みの体にしがみつき、その体内から何かを吸い取っていった。


「あの蛇野郎は魔力を喰って糧とする魔物。つまり魔力が活動の源だ。それならその魔力を吸い取る植物を喚び出してやればいいってわけだな」

「そうだね。思った通り、土喰みには相性抜群の植物だったみたいだ」

「は、はは……。あれって植物というより別の生き物に見えるんですが……」


 シルキーとリドの言葉に召喚した当のミリィが困惑した様子で声を漏らす。


 その視線の先では、枯れたように体をしぼませた土喰みが動きを停止させていた。



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