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●書籍化&コミカライズ化決定【SSS級スキル配布神官の辺境セカンドライフ】~左遷先の村人たちに愛されながら最高の村をつくります!~  作者: 天池のぞむ
第5章 獣人族の里

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第65話 二人の時間


「ナノハ、大丈夫? けっこう歩いたと思うけど」

「はい。まだまだ平気です」


《ユーリカの里》の奥地にある古代遺跡、その下層にて。


 戦闘の拍子に穴に落ちたリドとナノハは、ドライドがこの地に置いた黒水晶を回収すべく探索を続けていた。


「何だか同じような通路が続きますね。地下にいるからか、少し冷えた空気が満ちているようですし」

「そうだね。こんな時シルキーがいてくれたらいいんだけど。抱えていると温かいし」

「ふふ。それはぜひ今度私も試してみたいですね。文句を言われてしまいそうですが」

「まあでも、シルキーはなんだかんだ言って優しいから」


 リドたちはそんな会話をしながら歩いていく。


 実際にシルキーがいたら色々と指摘が入りそうなやり取りである。


「そういえばシルキー様は鼻も利くのでしたね。魔力の痕跡なども追跡できるのだとか」

「うん。たぶんシルキーなら黒水晶がある方向も判別できると思う。ミリィやエレナの場所も分かるだろうしね。もちろんある程度は近づかないと難しいだろうけど」

「シルキー様は不思議な猫様なのですね。私たち獣人族もそれなりに嗅覚が優れていますが、そこまでではなくて……。もう少しお役に立てていれば良かったんですが」

「ううん。僕もエレナほどじゃないけど、こういう場所を一人で歩くのはちょっと抵抗あるしね。ナノハがいてくれるだけですごく心強いよ」

「そ、それは何よりです。私もリド様がいてくれて心強い、です……」


 リドに真っ直ぐな笑顔を向けられてナノハは少ししどろもどろになる。


 と同時に先程リドに抱きかかえられた時のことを思い出し、慌てた素振りを見せた。


 ナノハはそれが邪なことだと思ったのか、ぶんぶんと首を振る。


 そうして二人で並んで進むこと少々。


 やや開けた場所に出たことで、リドたちは足を止める。


「魔物の気配も無いし、ここなら安全そうだね。ちょっと休憩しようか」

「私はまだ歩けますが?」

「ううん。スキルの効果があるとはいえ、ナノハは病み上がりの状態だからね。獣人族の人たちのために焦る気持ちはすごく分かるけど、僕としては女の子に無理はしてほしくないかな」

「は、はい……」


 リドはナノハに笑いかけ、それから火を熾こせないものかと辺りを見渡した。


 この広間はかつて獣人族が団欒していた場所なのだろう。


 幸いにも枯れ木や着火用の道具も見つけることができ、どうにか火は熾せそうだ。


 火を熾そうとしゃがみ込んだリドの背中を見ながら、ナノハは着ていた外套の端をきゅっと握った。


(またです……。何か、リド様と話をしているとどこか心が落ち着かないというか……)


 ナノハは自分でもよく分からない感情を抱きながら、リドの背中をぼうっと見つめる。


 色恋沙汰を大の好物とするシルキーがいたならナノハのその様子に歓喜していただろうが、生憎と言うべきか幸いと言うべきか、野次馬気質な黒猫は不在だった。


「ナノハ――」

「は、はいっ!」


 自分の世界に入っていたからだろう。


 近くまで来たリドに気づかず、からかけられた声に素っ頓狂な声で反応してしまうナノハ。


 そんな様子にリドは怪訝な顔を向けたが、すぐに落ち着いた調子でナノハに語りかける。


「ほら、火を熾したから少し休もう?」

「あ……。ありがとうございます」


 リドとナノハは並んで焚き火の傍に腰を下ろす。


 地下層の冷えた空気に晒されていたためか、火の熱が心地良かった。


「ナノハ、寒いのは平気?」

「はい。獣人族は比較的寒さに強い種族なので。逆に暑い季節は大変ですけど」

「はは。確かにシルキーも暑い時にはフサフサの毛が邪魔だ! って怒ってたな」

「あ、それ分かります。私も寝る時なんかは――」


 火を囲い談笑する二人。


 焚き火がパチパチと爆ぜる心地の良い音が響く中、リドたちは束の間の休息を味わう。


 まだ出会ってから間もない二人だったが、不思議と会話は弾んだ。


 リドが王都教会を左遷されてからのこと。ラストア村にやって来てからの大切な人々との出会い。グリアムと暮らしていた時のことなど。


 そういう一つ一つの話にナノハは関心を示し、リドもまた、ナノハが獣人族の里で生まれ育ってきた境遇に耳を傾けていた。


「ナノハってしっかりしてるよね。責任感が強いっていうか」

「そ、そうでしょうか」

「うん。僕とそう歳は変わらないのに偉いなって思うよ。さっきの《ユーリカの里》でも一人ひとりのことを気にかけている様子だったし」


 獣人族の姫としての立場もあるのだろうが、ナノハの献身性はリドから見ても尊敬に値するものだった。


 ナノハのそれは、いずれ一族の上に立つものとしてあるべき姿なのだろう。


「きっと、私がそのように見えるのはお父様のおかげでしょうね」

「ウツギさんの?」

「ええ。幼い頃から言われていました。広く視野を持ち、里のために、民のために動ける人になりなさいと」


 ナノハは自身の尻尾を抱えるようにして座り、そこに手を添えながら獣人族のことを語っていった。


「昔、獣人族は人との交流をあまり持たない種族でした。近隣の村々と交流するようになったのもお父様の代になってからだったみたいでして。そういう対外的な交流関係を築こうとしたのも、それまで閉鎖的だった獣人族の現状を変えたいと思ったからなのでしょうね」

「僕も王都にいた時は獣人族と会ったことなかったし、確かに獣人族と交流を持っている人たちって少なかったんだろうね」

「ええ。もっとも、まだまだ古い慣習は残っていますし、変えていかなくてはいけないことがたくさんあると思うのですが」


 ナノハは柔らかい笑みを浮かべていたが、どこか不安を抱えているような表情だった。


 確かにナノハの言う通りかもなとリドは思う。


 獣人族の中でもこれまでの閉鎖的な環境を変化させようと動いているのは確かなのだろう。


 それでも、未だ改善すべき事柄は多い。


 今回の件にしても、ナノハが決死の覚悟でラストアに来るまで獣人族は窮地に晒されていたわけだし、これも対外的な交流が希薄だったためとも言える。


 例えば今よりもしっかりとした交流関係を構築している状態だったならば、今回の件もより早期の発見に繋がっただろう。


 そういう状況を考えながら、リドはあることを決める。


(もちろん今回の一件を解決することが先決だけど、その後でも力になれることがあるなら協力したいな)


 シルキーが聞いたら「またお人好しの発揮だな」と突っ込まれそうな思考をまとめ、リドは手に息を吹きかけた。


 火を焚いているものの、さすがに太陽の光が届きにくい遺跡の地下層だ。


 寒さに身を震わせていたリドだったが、そこへナノハからの意外な申し出があった。


「あの、私の尻尾、触ります?」

「え……?」


 ナノハは自身の尻尾をリドの方へと近づける。


 フワフワの毛並みがゆらゆらと揺れていて、実に温かそうである。


「あ、っと変な意味はなくて、その、獣人族の尻尾って、毛がモコモコしているので、触ったら少しは温かいかなと」

「えっと……」

「さあどうぞ、遠慮なさらず」


 ずいっと差し出された尻尾とナノハの得意気な顔がリドの目に映った


「じ、じゃあ……」


 ナノハの勢いに押されるようにして、リドは了承する。


 そんなに前のめりで言われると少し気恥ずかしいなと、リドは少し緊張しながらもナノハの尻尾に手を埋めた。


「あ、ほんとだ。あったかい」

「ふふ、良かったです」

「うん、なんだか触り心地も癖になるというか」

「モフモフって感じです?」

「ああ、そうかも」

「ふふ。私にいつも付いてくれているムギという幼い侍女がいるんですが、その子にもこの尻尾は好評でして」

「へぇ」


 そういえば《ユーリカの里》で見舞っていた際に幼い少女と話していたなと、リドは思い当たる。


「ムギったら昼寝が好きでして、晴れた日には私の尻尾にくるまったまま寝ちゃうんですよ。リド様も今度試してみますか?」

「い、いや、それはさすがに……」


 ナノハの尻尾にくるまって昼寝をする自分を想像してみたが、仮にも一族の姫にそういうことをしてもらうのは恐れ多い気がして、リドは小さく首を振った。


 そうしてまたしばらく談笑していると、火の爆ぜる音が聞こえる。


「あ……。火が小さくなってきましたね」

「みたいだね。暖もとれたし、そろそろ探索を再開しようか。ミリィやエレナとも合流しないと」

「そう、ですね……」


 リドと二人の時間が終わってしまうのが少し惜しい。もう少し長く燃えてくれても良かったのにと。


 そんな感慨を抱いたのか、ナノハの頭から生えた獣耳は少し垂れていた。


   ***


 スンスン、と――。


 ミリィやエレナと一緒にいたシルキーがわざとらしく鼻を鳴らし呟く。


「うん、匂いがするな」

「何の匂いです、シルちゃん?」

「リドとナノハのお姫さんがイチャイチャしている匂いだ」


 シルキーがニヤリと笑って言い放ち、ミリィとエレナは驚いたような表情を見せる。


「そ、そんなこと分かりますの?」

「冗談だ」

「冗談ですか……」


 またいつもの如くからかってきたのだと知り、二人はシルキーにジトッとした目を向ける。


 そんな視線を気にする素振りもなく、シルキーはてしてしと後ろ足で首を掻きながら言葉を発した。


「まあでも、二人きりで薄暗い遺跡の中を探索してるんだ。親密になっていてもおかしくないぞ?」

「そういうものでしょうか?」

「そういうもんなんだよ、むっつりシスター。ほら、よく『釣り針効果』って言うだろ?」

「シルちゃん。それ、吊り橋効果ですからね。吊り橋を一緒に渡るように危険な体験をした男女は親密になりやすいっていう」

「ああ、そんな話だったかもしれん」

「まったくもう」


 ミリィの頬が膨れたのを満足気に見ながら、シルキーはまた鼻をひくひくと動かす。

「お、でも今度はほんとに匂いがするな。たぶんこの下あたりにリドとナノハのお姫さんがいるぞ」

「あら、それでは合流できそうですわね」

「あそこに下りの階段がありますよ。あれで下に降りてみましょう」


 ミリィとエレナ、シルキーは見つけた階段を下る。


 下の階層に降りたことで冷えた空気に包まれ、少し先へと進み――。


「あ、お二人がいましたよ。リドさーん! ナノハさーん!」


 そうして進んだ先で二人を見つけ、一行は無事合流することができたのだった。



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