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●書籍化&コミカライズ化決定【SSS級スキル配布神官の辺境セカンドライフ】~左遷先の村人たちに愛されながら最高の村をつくります!~  作者: 天池のぞむ
第4章 ラストアへの来訪者

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第58話 獣人の眠り姫


「すまんなリド少年。こんな状態で王都に戻るのは気が引けるが……」

「いえ、仕方ないですよ。ラクシャーナ王やバルガス公爵は他の黒水晶回収の指揮も執らなければいけないお立場ですし」


「エレナちゃんよ、大変だろうが頼んだぜ。何かあったら手紙で報せてくれ。力になれることがあったら何でも協力するからよ」

「はい。お父様も忙しいでしょうけれど、ひとまず彼女のことは私たちにお任せくださいですわ」


 夕暮れ時、ラストア村の中央広場にて。


 馬車に乗り込むラクシャーナやバルガスらをリドとエレナが見送るところだった。


 突然訪問した獣人族の少女が倒れるという出来事に遭遇し、一時は騒然となったラストア村。


 ミリィのスキルで召喚した上級薬草を少女に飲ませたところ呼吸は落ち着いたが、意識を取り戻すには至らなかった。


 今は少女をミリィたちの家で保護し、ベッドの上で寝かせている状況である。


 リドたちは手紙で状況報告をすることを決め、ラクシャーナとバルガスは王都へと帰還することになった。


「それじゃエレナ、戻ろうか」

「はいですわ、師匠。あの女の子のことが気になりますしね」


 リドとエレナはラクシャーナらを見送った後、家に向けて歩き出す。


「それにしてもあの子、一体何があったのでしょうか? 外傷などはないようでしたから魔物に襲われたとかではないのでしょうが」

「そうだね……。ミリィの薬草でも目を覚まさないし、不可解な点が多いよね」

「目を覚ましたら色々と聞いてみたいですけれど、今は待つしかないですわね」


 リドとエレナは獣人族の少女の身を案じながら家へと辿り着く。


 そしてそのまま、少女を寝かせている二階の部屋に向かった。


「あ、リドさん、エレナさん、おかえりなさい」


 部屋の中にはミリィがいて、少女の額に乗せた濡れタオルを取り替えているところだった。


「ただいまですわ、ミリィさん」

「看病お疲れ様、ミリィ。その子の容態はどう?」

「はい。薬草を含ませてから良くはなっていると思うんですが、まだ目を覚まさなくて……」

「そっか……」


 ミリィが体を拭いたようで顔などは小綺麗になっているものの、まだ意識は戻らないらしい。


 少女の年の頃は十代後半といったところだろうか。外見はミリィほど小柄ではなく、どちらかというとエレナに近い。


 薄茶色の髪と頭部から伸びている同色の獣耳が印象的で、眠っている状態でも淡麗な顔つきであることが分かる。


 まるで童話に出てくる美しい眠り姫のようだなと、リドだけではなくその場にいた誰もが感じていた。


「でも、とりあえず落ち着いたようで良かったね。あとは意識が戻ればいいんだけど」

「私の薬草でも回復が遅いのは気になりますね……。鉱害病に倒れていた村の人たちにも効いた薬草なのに」

「師匠。もしかして、黒水晶が何か影響しているんでしょうか? 確か、元々毒を放つ鉱石だと聞いたことがありますが」

「うーん。前にドーウェルで黒水晶の毒に侵された鉱夫たちにミリィの薬草を飲ませたことがあるんだけど、その時はすぐに効いたんだよね。それに、ドライド枢機卿が設置した黒水晶の影響を受けているなら、既に採掘時の毒は洗浄されているはずだし」

「それもそうですわね。うーん、分からないことだらけですわ」


 エレナの言葉に頷きつつ、リドはベッドの上に臥せっている少女を見下ろした。


「それに、この子が倒れる時に言っていたことが気になるよね。里のみんなを救ってほしいと言っていたけど」

「もしかして、獣人族の人たちみんながこういう状態になっている可能性も?」

「うん。その可能性はあると思う。でも、獣人たちが住む里の場所が分からないんじゃ向かうこともできないし……」


 リドの言葉にミリィとエレナが悲痛な表情を浮かべる。


 目の前で問題が起きているのにただ待つしかできない。そういう焦りを抱えていたリドたちに背後から声がかかる。


「ま、そう思い詰めてもしょうがないんじゃないか?」


 リドたちが後ろを振り返るとシルキーがいた。


 シルキーはトコトコ歩いてきたかと思うとリドの肩へと飛び乗り、いつもの位置に収まった。


「シルキー。どこかへ行ってたの?」

「吾輩の鼻でその娘さんの痕跡を追えないか調べてたんだがな、残念ながらラストア村の外までは追跡できなかった」


 どうやらシルキーはシルキーで頑張っていたらしい。


 リドに頭を撫でられながら、シルキーは満足げに鼻を鳴らした。


「何にせよ、この娘さんは落ち着いてきたんだ。他の獣人族の件も焦って事が好転するわけでもなし、今は娘さんが目を覚ますのを待とうぜ。『果報は寝て待て』ってやつさ」

「「「……」」」

「む、何だお前ら。そんな意外そうな目を向けて」

「いや、シルキーがこういう時に言い間違えないなんて珍しいなと」

「なんだかシルちゃんらしくないですよね」

「雪でも降らないと良いのですけれど」

「よし。とりあえずお前らが我輩を馬鹿にしているのは伝わってきたぞコンチクショウ」


 シルキーは尻尾をぴんと立てて悪態をついたが、逆に可愛らしい感じがしてリドたちは吹き出してしまった。


「でも、シルキーさんの言う通りですわね。こういう時は悩みすぎてもしょうがないですわ」

「そうですね。この子が起きた時に美味しい料理を食べてもらうために準備しておかないと」

「ふふ。シルキー、ありがとね」

「何を感謝されているのかイマイチ分からんが、お前らが辛気臭い顔をしても始まらんからな。さて、『腹が減っては道草が出来ぬ』とも言うし、そろそろメシでも食おうぜ」

「「「……」」」


 シルキーの言った言葉にリドたちは顔を見合わせる。

 やっぱりシルキーだなと思いつつ、三人は笑い合うのだった。


   ***


 翌日――。


 皆で昼食をとり終え、食卓に残っていたリドが本を広げていた。


 赤い装丁がなされたその本はいつも読んでいるものとは趣向が違う本のようで、同じく食器の片付けで残っていたミリィが声をかける。


「リドさん、何を読まれているんです?」

「ああ、カナン村長から借りてきたんだけどね。獣人族のことが書かれている本らしいんだ」

「獣人族のことが?」

「うん。さすがに獣人族の住む里の位置までは載っていなかったけど、色んなことが書いてあって勉強になったよ」

「へぇ。どんなことが書かれていたんです?」

「それはね――」


 答えようとしたリドが本から顔を上げ、椅子から転げ落ちそうになる。


 本を覗き込んでいたことで、ミリィの顔が思ったよりも近くにあったのだ。


 ミリィはどうやら朝風呂に入ったらしく、石鹸の匂いがふわりと漂う。


 いつぞやの脱衣所でミリィと鉢合わせてしまった事故といってもそれはシルキーのせいなのだがを思い出してしまい、リドは酷く赤面した。


「リドさん?」

「あ、ごめん。何でもないよ」


 ミリィが上目遣いに見てきて余計に慌てるリドだったが、咳払いをしてどうにか平常心を保とうとする。


 いつもとは二人の反応が逆転しており、この場にシルキーがいたなら極上の餌になっていただろうが、生憎今はエレナと共に食糧調達へと出かけていた。


「えっと、何が書いてあったかだったよね」

「はい。私にもぜひぜひ教えてください」


 屈託ない笑みで教えを請うミリィに、リドは深呼吸を一つ挟んでから説明することにした。


「この本には獣人族と他種族との違いや特徴なんかが記されていたんだけど、特に目を引いたのは信仰だったかな」

「ほうほう」

「獣人族はどうやら住む土地の地脈と密接な関わりを持つらしくてね。獣人族が高い身体能力を持っているのも地脈の影響を受けているんだとか」

「地脈、ですか……?」

「うん。その土地に流れる不思議な力を指す言葉だね。やや漠然とした表現だけど、この本では『大地の加護』って書いてあった」


「つまり、獣人族の人たちは大地の加護のおかげで高い身体能力を持っているってことなんでしょうか?」

「そういう解釈で問題ないと思う。その力はスキルとはまた別物とのことだけど、だからこそ獣人族の間には、大地に対する感謝を重んじた信仰が根付いているらしい」

「ああ、確かに獣人族の方たちがこの村に来ていた時は『大地の恵みに感謝を』って皆さんよく言っていましたね」


 ミリィは合点がいったように頷き、リドがそれに対して説明を続ける。


「そして、このことからあの女の子が倒れた原因が見えてくるかもしれない」

「あの女の子が倒れた原因? あ、もしかして……」

「そう。獣人族が大地の加護を受けて活動している種族ならば、その土地に何かしらの異変が生じているんじゃないかなって」

「な、なるほど。そうなると、《カナデラ大森林》のどこかに置かれた黒水晶が悪さをしているのかもしれませんね」

「僕もそう思う。だとしたら、やっぱり早めに黒水晶を回収する必要がありそうだ」

「そういう、ことになりますね……」


 生じている問題に対する仮説と解決策を挙げ、リドは本を閉じた。


 リドもこのラストアで活動するようになってから特に実感したことだが、そこに住む者にとって土というのはとても重要な意味を持っている。


 仮に土壌が汚染されれば農作物にも被害を及ぼすし、そこに根ざす植物の生態系が狂えばそれは他の生物にも影響するだろう。


 要するに、土とそこに住む生物とは切っても切り離せない関係なのだ。


 大地から加護を受けている獣人族にからすれば、その重みは更に大きいだろう。


「大地と共に生きる種族、か……」


 リドがその本の表紙に書かれた文字をなぞりながら読み上げる。


 眠っていた獣人族の少女が目を覚ましたのは、それから三日後のことだった――。



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