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●書籍化&コミカライズ化決定【SSS級スキル配布神官の辺境セカンドライフ】~左遷先の村人たちに愛されながら最高の村をつくります!~  作者: 天池のぞむ
第4章 ラストアへの来訪者

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第53話 天才神官と予兆

第2部はじめました!

お楽しみいただけますと幸いです。


「獣人たちが暮らす里……ですか?」


 ある日の昼下がり。


 それはリドが午前分の畑仕事を終え、一息ついていた時のことだ。


 一緒に作業をしていたラストア村の住人たちと昼食をとっていたところ、一人の村人がリドに話を振ってきた。


「ああ。リドさんはまだこの村に来てから日が浅いから知らないのか。あの山の向こうにな、獣人族の暮らしている場所があるんだよ」


 リドに話しかけた村人が山の方を指差す。


 ――ルーブ山脈。


 リドたちが住まうヴァレンス王国と、隣国ブルメリアとの中間にそびえ立ち、国境的な役割を果たす山岳地帯だ。


 かつてラストア村に鉱害問題が発生した際、リドたちが調査に出かけた鉱山都市ドーウェルが存在する場所でもある。


 村人の話ではあの山の向こう――即ち隣国ブルメリアの末端に、獣人族たちの暮らす里があるのだという。


「獣人族かぁ。僕、見たことないんですよね」

「リドさんは王都で神官やってたんだもんな。獣人族はあまり公の場所に姿を見せる種族じゃないし、確かにそっちの方じゃ目にする機会はないか」

「そうですね。信仰の問題なのか、エルフ族の人なんかはよく教会に来られていましたけど……。獣人族は山奥に住んでいると聞いたことがありますが、ラストア村の先に住処があったんですね」


「まあ、リドさんもそのうち目にする機会があるかもな。国は分かれちゃいるが、獣人族の連中とは最近少しずつだけど交流するようになってきたし」

「へぇ、そうなんですね」


 リドは山の方から視線を戻しつつ、朝方ミリィが持たせてくれた弁当に手を付けていく。


 弁当箱の中身はミリィの気合いの結晶と表現しても良いだろう。

 色鮮やかな卵焼きや採れたての野菜を使用したサラダ、香ばしく焼かれたパンに猪肉の香草包み焼き、などなど。


 朝早くからシスターとしての礼拝や朝食の用意があるにも関わらず、ミリィはリドのためにとご馳走の数々を用意してくれたのだ。


 といってもそれは純粋な献身だけではなく、リドへのアピールという打算が多分に含まれていたのだが……。


(うん、今日のお弁当も美味しい! ほんとミリィにはいつも感謝だね)


 満足げな笑みを浮かべながら弁当の中身を口に運ぶリドを見て、村人たちは「いいなぁ。青春だなぁ」と頷いていた。


「あれ? でも、獣人族の人たちと交流があると仰っていましたが、この村に来たことなんてありましたっけ?」


 リドが卵焼きを口に運んだ後で、浮かんだ疑問を口にする。


 ラストア村にリドがやって来てからおよそ三ヶ月が経つが、その間リドは獣人族の姿を目にしたことがない。


 交流があるというならそれは妙だなとリドが小首を傾げていたところ、村人の一人から返事があった。


「確かにここ最近は獣人族の連中の姿を見ないんだよな。いつもならひと月に一度はこの村にやって来て物々交換なんかをしていくんだが」

「何かあったんでしょうか?」

「うーん。最後に来たのはリドさんがこの村を訪れるちょっと前だったかな。その時は別におかしなことはなかったように思うんだが」

「そうですか。少し気になりますね」


 リドは再び山の方へと視線を向け、目を細める。


(獣人族か。会ってみたいけどな……)


 そんなことを思い浮かべ、リドはまた午後の作業に取り掛かるべく弁当に敷き詰められたご馳走を口に運んでいった。


   ***


「あ、リドさん! おかえりなさい!」

「ただいま、ミリィ」


 夕暮れ時になって帰宅すると、リドは元気の良い声と弾けるような笑顔に出迎えられた。


 ミリィがエプロン姿で調理場に立っており、頭巾の端から艷やかな銀髪が覗いている。


 どうやらミリィは夕食の準備をしていたらしい。


 ぐつぐつと煮える鍋の音が心地よく響き、肉と野菜の風味を優しく溶かし込んだような匂いが漂っている。

 ひと仕事を終えたリドにとって、それはあまりに強烈な精神攻撃だった。


「どうでした? 今日の農作業は」

「うん、冬に向けた作業を色々とね。新しく収穫できた野菜なんかもお裾分けしてもらったから、ミリィに渡しておくよ」

「わぁ、大きいお芋がたくさんですね! これは料理も捗りそうです!」


 ミリィは野菜の入った麻袋を受け取ると、屈託ない笑みをリドに向ける。


「それとミリィ、お弁当ありがとうね。今日のもすっごく美味しかったよ」

「ふへへ……。ありがとうございます。リドさんにそう言ってもらえると頑張った甲斐があるってものですよ」


 ミリィはだらしなく頬を緩ませ、受け取った野菜を調理場の木箱に詰めていく。


 そしてリドから見えないよう密かに拳を握った。

 アピール大成功である。


「よう相棒。戻ってたのか」

「あ、シルキー」


 かけられた声にリドが反応すると、二階から黒猫がとてとてと降りてくる。

 シルキーはうーんと伸びをした後、まだ眠いのか大きな欠伸をしていた。


「ただいま。もしかしてまた一日中寝てたの?」

「うむ。今日はひなたぼっこ日和だったからな。見てみろこの毛並み。いつにも増してフサフサだろう?」


 そう言ってシルキーは尊大な態度で胸を張ってみせた。


 シルキーはいつにも増してと言っていたが、ここ最近はいつもこんな感じなのでリドとミリィにはあまり違いが分からない。


 この時間まで寝ていて、ミリィの作った料理の美味しそうな匂いがしたから降りてきたと、そんな具合だろう。


「ん?」


 ふと、シルキーが調理台の上に置かれた弁当箱とミリィとを交互に見やり、ニヤリと口の端を上げる。


 そしてぴょこんとミリィの頭の上に飛び乗り、リドには聞こえないよう耳打ちした。


(ふっふっふ。ミリィよ、お前今日もリドに愛妻弁当を作ったというわけか)

(あいさっ……! え、えと、そんなつもりじゃあ……)

(んー? じゃあ何のつもりだというのかなぁ? どうせ、リドの手袋を掴もうとしてるんだろう? このむっつりシスターめ)

(……シルちゃん、それを言うなら胃袋を掴む、ですからね。また言葉遣い間違ってますよ)


 いつもの如くからかってきつつも言い間違えていたシルキーにミリィは溜息をつく。


 一方でその様子を見ていたリドは「また二人とも楽しそうにやり取りしてるなぁ」と微笑を浮かべていた。


「そういえばミリィ。ラナさんとエレナは?」

「あ、はい。お姉ちゃんは夜の打ち合わせがあるからって村長さんとお話をしに出かけましたね。エレナさんはまだ――」

「ただいまですわ~!」


 噂をすれば、だ。

 陽気なお嬢様口調とともに家の扉が勢いよく開けられる。

 金の巻き毛を揺らし、家の中に入ってきたのはエレナだった。


「エレナ、お帰り……って、どうしたのそれ?」


 見ると、エレナは巨大な角を抱えていた。


 その角はエレナが両手で抱えるほどの大きさがあり、黒光りしている。


 確か村の近くに出没する、グレイトブルという暴れ牛の魔物がこんな感じの角だったなとリドは思い当たる。


「ふふん。鍛錬から帰る途中で襲われたものですから、ちょこっと返り討ちにしちゃいましたわ。加工すれば何かに使えそうですし、せっかくなので師匠とミリィさんにお土産をと。お家に飾っても良いかもしれませんわね」

「そ、そうなんだ。ありがとね」


 グレイトブルは熟練の冒険者でも手を焼く魔物のはずだが、エレナはこともなげに言い放つ。


 エレナは上機嫌で鼻歌を歌い、抱えた巨大な角をどこに飾ろうかと家の中を見回していた。


「やれやれ、エレナのお嬢さんよ。どうせ持ち帰るなら肉の方を持ち帰るとかだな」

「あ、シルキーさんには別でお土産がありますわよ。はい、池の近くで討伐したドラゴンフィッシュの切り身ですわ」

「うむ。くるしゅうない」

「もう、シルキーってば」


 変わり身の早い愛猫にリドは嘆息しつつも、穏やかな一日の終わりを感じていた。




 そうして各々がその日の用事を済ませ、食卓を囲む。


 ミリィの用意した料理の数々に皆で舌鼓を打ち、今日の出来事を話しながら会話に花を咲かせて――。


(昼間の話……。獣人族の人たちが姿を見せないってことだったけど、やっぱり気になるな。何か問題が起きていなきゃ良いんだけど……)


 談笑の中でリドは、村人たちから聞いた獣人族の話を思い返していた。


   ***


 一方その頃、隣国ブルメリアの某所にて――。


「お父様。それでは、行ってまいります」

「うむ……」


 暗がりに包まれた木造家屋の中、神妙な面持ちで言葉を交す二人がいた。


 父と呼ばれた男の方は厳格な声で答え、娘を送り出そうとしている。


「ナノハよ。すまぬが頼んだぞ」

「はい、お父様」


 家屋から出る前、ナノハと呼ばれた少女が振り返り、再び父と向かい合う。


 それは決意に満ちた表情だった。


「本来であれば、お前一人に無理をしてほしくないのだが……。しかし此度の件、この獣人の里の命運がかかっておる。もしもこのまま大地の加護が得られないとなれば、我らは……」

「分かっています。私を育ててくれたこの里が錆びていくのを、黙って見てはいられません。それに……」



 ナノハは胸の前で両手を握る。


 そして、凛とした声で告げた。


「それに、かの噂の神官様であれば、きっとこの里を救う手立てを授けてくださるはずですから――」




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