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●書籍化&コミカライズ化決定【SSS級スキル配布神官の辺境セカンドライフ】~左遷先の村人たちに愛されながら最高の村をつくります!~  作者: 天池のぞむ
第3章 伝説の神官

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第45話 日課の続き


「あなたは……ユーリア秘書官」

「誰なんですの? 師匠」

「うん、ドライド枢機卿の秘書を務める女性でね。僕も任命式の時くらいにしか見かけたことはないんだけど……」


 リドはユーリアから目を離さず、エレナの問いに答える。

 一方のユーリアは、完全に虚をついたはずの攻撃が回避されたことでリドに対する警戒心を一層強めていた。


「しかしあの女、何で吾輩たちがいるって分かったんだ? アルスルの外套の効果は切れていなかっただろ?」

「ユーリア秘書官は僕たちが入った扉の方から現れた。たぶん、僕たちがこの地下神殿に入るところを見られていたんだと思う」

「しかし、ここに入る時には誰もいなかったぞ。吾輩の鼻に誓って本当だ」

「恐らく、あの人のスキルがアルスルの外套と似た効果を持っていたんだ。それでどこかに潜伏していたのかと。そうですよね? ユーリア秘書官」


 リドの問いかけに対しユーリアはほんの一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに元の険しい顔に戻る。


「ほう……。私のスキルについてはあの方以外知らないはずだがな。あの一瞬の攻防で察しが付いたか?」


 リドの推測は当たっていた。

 ユーリアが持つのは【気配隠匿】スキル。他者に対して自分の姿を隠すという特異な効果を持つスキルだ。


 本来であれば先程の攻撃も不可避の一撃となるはずだったが、移動する際に生じた石畳の僅かな振動を察知したリドが上を行っていた。


 そんなリドを脅威と感じたのか、ユーリアは距離を詰めず、壁際を背にして機を窺っている。


「リドさん、もう一度アルスルの外套を被るのはどうですか? そうすれば私たちの姿も見えなくなるんじゃ……」

「いや、駄目だミリィ。一度姿を知覚された相手に対してアルスルの外套は効果を発揮しない。それはユーリア秘書官も同じようだけど」

「なら、ここは純粋な決闘勝負になりそうですわね。あの紫髪の女性を捕まえて話を聞くのが一番手っ取り早そうですわ」


 傍から見ればこの状況は三対一だ。


 【気配隠匿】スキルも使用済みであり、初撃の絶好機を逃したユーリアにとって劣勢は必至。

 そう思われたが――。


「ユーリア秘書官、武器を収めてくれませんか。この状況で戦っても結果は明らかなはずです。僕たちはドライド枢機卿の企てを知りたいだけで――」

「フフフ。鼠どもが、戦う前から勝った気になるなよ。こちらにも切り札はあるのだ」


 ユーリアは笑みを浮かべており、それは虚勢などでは無いように見えた。

 そして背にした壁面に手を伸ばし、その一部を力強く押し込む。


「な、何です?」


 ミリィが声を上げたのは、辺りを震わせるような地鳴りが起こったからだ。

 もしやユーリアがこの地下神殿を崩壊させて自分もろともリドたちを生き埋めにする道を選んだのかと思えたが、そうではなかった。


 代わりにユーリアの横にある壁面が崩れ去り、耳をつんざくような咆哮と共に巨大な生物が現れる。


 ――ガァアアアアアアアア!!


 それは、他を圧倒する程の存在感を放つ銀翼の竜だった。


「あ、あれはカイザードラゴン……! なんでこんなモンスターがここにいるんですの!?」


 エレナが現れた巨大竜を見て、手にしていた剣をきつく握りしめる。


 モンスターの中でも最強種と言われるドラゴン種。

 その中でも一線を画す強さを持つと言われているのがこのカイザードラゴンだ。


 背に生えた銀翼が巻き起こす風圧だけで敵を這いつくばらせ、鋭い鉤爪と長い尾が繰り出す一撃はどちらもが即死級。

 目撃すれば最期の時を覚悟しろと言われ、運良く逃げ延びることができた者から伝わる話が伝承となる程のモンスターである。


「ハハハハッ! 貴様らが来た時に備えて保険を張っていた私の勝ちだ! さあ、カイザードラゴンよ、鼠どもを一匹残らず駆逐せよっ!」


 ユーリアは勝利を確信した様子だった。

 一方、カイザードラゴンはリドたちを倒すべき敵と認識したらしい。


 悠然と構えながらもリドたちを射抜くかのように冷たい瞳を向けていた。


「ドラゴン……」

「何してるんですのミリィさん! 早く逃げないと!」


 何かを思い出そうとするかのように呟いたミリィに対し、エレナは声を張り上げる。


 さすがにカイザードラゴンを前にしては逃げる一手しかない。

 ある話(・・・)を知らないエレナにとって、そう考えるのは自然なことだった。


 が――。


「なるほど。あれがあの女が妙に余裕ぶっていた理由だったか。なら、何の問題も無さそうだな、相棒」

「そうだね。何でユーリア秘書官があれを従えているのかは気になるところだけど、まずはあれを倒そうか」

「は……?」


 エレナが呆気に取られたのも無理はない。

 シルキーとリドは完全に落ち着き払った様子で会話をしていたからだ。


「フフ、観念したか? ならば仲良く死ぬがいい!」


 勝ち誇った声を上げてカイザードラゴンをけしかけてくるユーリア。


 ――しかし、ユーリアは知らなかった。


 最強種と言われるドラゴンを、運動不足にならないようにという意味の分からない理由で狩っていた化け物がいることを。


「神器、解放――」


 リドが手にしていた大錫杖――アロンの杖を振りかざして呟く。


 すると、リドの(めい)に応じるかのように無数の光弾が射出され、その全てがカイザードラゴンの背に着弾する。


 ――ガルゴァアアアアア!?


「え……?」


 声を漏らしたのはユーリアだった。


 直後、カイザードラゴンは抗うこともできず、地面に倒れ込む。

 その巨体は身じろぎ一つせずに、絶命していることが窺えた。


「は……。そ、そんな馬鹿な……」


 すぐには状況が飲み込めずに狼狽するユーリア。

 それとは対象的に、リドはかざしていた大錫杖をゆっくりと降ろす。


「な、何が起こったんですの? カイザードラゴンが、一撃で……」

「ああ。あのドラゴンは背中にある翼の生え際、そこが弱点なんだよね」

「師匠、何でそんなこと知って……」

「かつて王都にいた頃、ドラゴン狩りがリドの日課だったからな。あのカイザードラゴンにしても三回は倒したことがある。いや、四回だったか?」

「私もドラゴン狩りのことは聞いたことがあって。カイザードラゴンまで倒したことがあるなんて知りませんでしたけど」

「は、はは……」


 リドたちが平然と言葉を交わしているのを見て、エレナは渇いた笑いをこぼすしかなかった。



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