第38話 立ち向かう仲間
夜――。
ラストア村の外れに仮設の野営地が作られ、その場所でリドたちは先程ゴルベールから入手した情報の精査を行っていた。
設置された卓を取り囲むようにしてラクシャーナ、リド、ミリィ、エレナ、バルガスと並び、王の横に控えるようにして従者のガウス、そしてシルキーはリドの膝上といういつもの位置に鎮座している。
「さて、リド少年のおかげでゴルベールから色々と聞き出せたわけだが……」
「けどよ王様。結局あのクソ司教は黒水晶の用途について知らないようだったぜ。ドライド枢機卿の奴が王都にいるってのは分かったが、これじゃ前と変わらないんじゃねえのか?」
「ああ。しかし、分かったこともあるぞ」
「と言うと?」
シルキーの言葉に頷き、ラクシャーナはガウスにヴァレンス王国全土の地図を用意させた。
卓上にその地図が広げられると、皆が覗き込むようにして身を乗り出す。
「さっき、リド君が神器を使って尋問した時にゴルベールが言っていただろう。ドライド枢機卿の遠征の目的は知らないが、どこを巡っていたかは把握しているとな」
「ええ、確かに。でもラクシャーナ王、それが何か?」
リドの言葉を受けてラクシャーナが地図上に印を付けていく。
「うーん……。随分とバラけてますわね」
「どこか一つの場所に目的があって向かっていたわけではない、ということなんでしょうか?」
エレナとミリィが呟くが、その真意までは分からない。
と、顎に手をやっていたバルガスが何かに気付いたようだった。
「まさか、これは……」
「何ですの? お父様」
「ああ。ラクシャーナ王が印を付けた場所、最近モンスターの発生が活発化している地域ばかりなんだよ」
「それって……」
バルガスとエレナのやり取りに皆が反応し、ラクシャーナが頷く。
「そう。黒水晶を集めていたドライド枢機卿の行く先々でモンスターの異常発生が起こっているってことだ」
「となると王様が前に言ってた通り、最近のモンスターの活発化についてドライド枢機卿の野郎が糸を引いている可能性がより高まったってことだな。というかほぼ濃厚か?」
「もちろん確証は無いがな、シルキー君。だが、偶然の一致と言うには出来すぎている」
モンスターを発生させてドライドに何か利点があるのかは分からない。それは尋問したゴルベールも知り得ていなかったことだ。
しかし目的は別として、このままドライドを放置することは危険であると、その場にいた誰もが感じていた。
「いずれにせよ、俺は一度王都に戻らにゃいかん。そこで王都教会……いや、ドライド枢機卿のことをより詳しく洗ってみるつもりだ」
「とは言っても王一人じゃ大変でしょう。もちろん自分も協力させてもらいますよ。それなりに色んな所の情報網はあるんでね」
「ああ。バルガス、恩に着る」
互いに頷き合うラクシャーナとバルガス。
それに続いて次に声を発したのはリドだった。
「ラクシャーナ王。僕に考えがあるんですが」
「考え?」
「僕が王都教会に行くんです。そうすれば、ドライド枢機卿の目的や保管している黒水晶の在り処が分かるかもしれません」
「それは、ゴルベールに従ったフリをして王都教会に戻るってことか? しかし、それだとゴルベールと王都教会に戻らなければ不自然だろうし、ゴルベールを連れて行ってもドライド枢機卿を目の前にして寝返る可能性だってあるぞ」
「はい。ですので、分からないように潜入します」
リドの言葉を聞いて、ミリィとシルキーがその思惑を察する。
「あ……。リドさんの神器、《アルスルの外套》を使えば……」
「あー、確かにな。アレを使えば姿を見られずに潜入することができる、か」
鉱山都市ドーウェルの領主館に潜入した際に使用した神器。
姿を隠すことができるというその効果をもってすれば、リドの言っていることは実行可能だ。いや、リドにしかできない役目とも言える。
リドが神器の効果を掻い摘んで説明し、ラクシャーナは神妙な面持ちで腕を組んだ。
「しかし、それにしても危険はゼロじゃないぞ、リド少年。予想外のことが起きればドライド枢機卿と直接対峙する可能性だってある」
「それは百も承知です。でも、王都教会のトップが関わっているとなれば、僕にとっても無関係じゃない。それに、モンスターの異常発生に苦しむ人たちを見過ごすわけにはいきません」
「…………分かったよ。リド少年の強さは折り紙付きだし、言っても聞かなさそうだしな」
「ふふん。吾輩の相棒は一度決めたら頑固だからな」
ラクシャーナが折れたのを見て、シルキーが実に楽しげな声を漏らす。
それに続いて、ミリィが決意表明するかのごとく立ち上がって言った。
「リドさん、私もご一緒します!」
「ミリィ、良いの?」
「はい。事情を知って、村で待っているなんてできません。それに、リドさんのお役に立ちたいですから」
「もちろん私も付いていきますわ。師匠のためなら例え火の中水の中、ですわ」
「……ありがとう。二人がいてくれると心強いよ」
「まあ、と言ってもリド一人でどうにかしちゃうかもだけどな。くっくっく」
「もう、シルキーさんってば。こういう時は水を差すんじゃありませんわ」
三人と一匹が交わすやり取りを見て、ラクシャーナとバルガスは互いに笑みをこぼす。
リドたちは気づかなかったが、その姿には少年と少女たちに対する感謝と期待の念が込められていた。
そうして、各自がドライドの動向を探るべく王都に向かうことが決まり、ラクシャーナは皆に告げる。
「よし、それじゃあやることは決まったな。俺とバルガスは王宮に戻り情報収集、リド少年たちは王都教会に潜入だ」
「「「はい」」」
「しかしリド少年の神器があるとはいえ、くれぐれも無茶をするんじゃないぞ。危険だと思ったらすぐに撤退してくれ」
ラクシャーナの言葉にリドたちが頷く。
そしてラクシャーナは自身の胸に手をかざし、はっきりとした口調で告げた。
「今回の一件はヴァレンス王国全体に影響しかねない問題だ。共に立ち向かおうとする皆に、最大限の尊敬と、感謝を――」






