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●書籍化&コミカライズ化決定【SSS級スキル配布神官の辺境セカンドライフ】~左遷先の村人たちに愛されながら最高の村をつくります!~  作者: 天池のぞむ
第2章 因果応報

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第36話 的外れな提案


「それじゃあなリド少年、楽しかったぞ。近いうちにまた会おう」

「はい。僕もラクシャーナ王とお話できて光栄でした」


 リドたちとの話を終え、その後ラストア村の視察を行ったラクシャーナが王都に帰還する時間となった。


 村の中央広場には防衛班や狩猟班以外の村人たちが集まっており、盛大な見送りが行われている。

 ラクシャーナは、帰りの馬車で酔った時用の薬草をミリィから受け取ることも忘れない。


「王よ。そろそろ参りましょうか」

「うむ。他の者たちも感謝するよ。今度来た時にはぜひ酒を呑み交わそう」


 従者のガウスに促され、ラクシャーナが馬車を置いてある小屋に向かおうとした時だった。


「あれ……」


 村の入り口に立っていた人物に、リドが声を漏らす。


 そこにいたのはゴルベールだった。

 豪奢な教会服はどこかくたびれており、ゴルベールはそれを引きずるようにして歩いてくる。


「げっ」

「何でゴルベール大司教がここに……?」


 シルキーが心底嫌そうな声を漏らし、リドもまた意外な来訪者に怪訝な表情を浮かべていた。


「あれがリドさんを左遷したっていう大司教さん……」

「うへぇ。あんまり見たくない顔ですわ……」

「あんの野郎、今更何をしに来やがったんだ?」


 ミリィ、エレナ、バルガスも良い顔をせず、遠くにいるゴルベールの姿に視線を注ぐ。


 そして、ゴルベールは人だかりの中にリドの姿を認めたらしい。

 近くまでやって来ると、開口一番で声を上げた。


「お、おおっ! リド・ヘイワースよ、元気にしておったか?」


 若干引きつった顔で、ゴルベールはリドの肩を叩く。


 大きな声で言ったのは、左遷した相手と相対する気まずさを振り払う意味もあったのだろうが、その場にいたリド以外の者たちは揃って眉間にシワを寄せていた。


 ――突然やって来て何でコイツは偉そうなんだ? と思ったのはシルキー。

 ――まったく悪びれた様子もなく「元気か?」とは失礼な人だ、と思ったのはミリィ。

 ――気安く師匠の肩に触るな、と思ったのはエレナ。


 それぞれが悪印象を持つが、ゴルベールはリドに意識を向けているためか気づく様子がない。

 その傍ら、王であるラクシャーナは腕組みをしながら成り行きを見守っていた。


「ゴルベール大司教、どうしてラストア村に?」

「じ、実は貴様に素晴らしい話を持ってきたのだ」

「素晴らしい話?」

「うむ。聞いて喜べ。何と、貴様は王都神官に復帰できるのだ!」

「え……」


 気の優しいリドは困惑した表情を浮かべるだけだった。

 しかし、その周囲にいた者たちは一様に同じ怒りを沸騰させる。


 ――今更それか、と。

 ――謝罪も無しにそれか、と。


「実は、私からドライド枢機卿に掛け合ってな。リド・ヘイワースは辺境の村などにいる人物ではないと。そうして、この私自らが足を運んだというわけだ」


 嘘八百。

 ゴルベールの言葉には相手に対する誠意や謝意などはかけらも無く、自身がへりくだることなく済ませようという魂胆があった。


 そして、金も地位も名誉も手に入る王都神官に復帰できる、という餌をチラつかせれば無反応ではいられないだろうと、そう決めつけて――。


「貴様は王都教会のために尽くすべき人材だ。貴様自身もこんなチンケな村にいるのは苦痛だろう。だから、私と一緒に王都へ――」

「お断りします」

「なっ……」


 突然リドの目つきが変わったことにゴルベールは驚き、後退(あとずさ)りする。

 ゴルベールの言葉は、普段は怒りをあらわにすることが珍しいリドの、超えてはいけない一線を踏み越えるものだった。


「僕個人については何と言われようとも構いません。でも、ラストア村や村の人たちを馬鹿にするような物言いは許せません。お帰りください」

「何故だ! 私が遠路はるばる足を運んでやったというのに!」


 自分が行動を起こしたから相手もそれに報いるべきだと。

 そういう価値観を抱えたゴルベールはひどく狼狽する。


 ゴルベールの提案はこれまでバルガスやラクシャーナが提示した申し出とは明らかに違うものだった。


 リドのことを考えてのものではなく、自分自身のためのもの。

 そして、自分が上職であるドライドから罰を受けないようにするためという、あくまで保身のためのものなのだ。


 そんなものにリドがなびくわけはなかった。


 しかし、ゴルベールは自身の思い通りに事が進まない状況に苛立ち、引き下がろうとしない。


「王都神官に復帰したとなれば、金も地位も名誉も手に入るのだぞ! そういう機会をみすみす手放すつもり――」

「分かってねえなぁ」


 冷たく、しかしはっきりとした言葉がゴルベールの背後からかかる。


 ゴルベールの愚言に口を挟んだのは、それまで黙していたラクシャーナだった。


「王都神官に復帰したとなれば地位も名誉も金も手に入る? リド少年はアンタみたいに低俗な価値観は持ってねえってことに、何故気付かない?」

「な、何だお前は! 外野は黙っておれ!」


 ゴルベールは虚仮にされたとでも思ったのだろう。

 声をかけてきた人物が一体誰なのか考える余裕すら無く、ただ王都教会の大司教である自分に無礼な口を聞いた部外者であると断定する。


 ゴルベールが悠然と構えていたラクシャーナに掴みかかろうとしたところで、従者のガウスが腰に携えていた剣を抜き放った。


「貴様、王に対して不敬は許さんぞ」

「なッ……!?」


 剣の切っ先を喉元に突きつけられ、ゴルベールの動きがピタリと止まる。

 本能的な反射行動から遅れて、ゴルベールは今しがたガウスが言い放った言葉を理解しようとした。


 (おう? オウ? …………王?)


 脳内でガウスの言葉を処理し終え、ラクシャーナの胸に付けられた王家の紋章に気づくと、ゴルベールの手足は震えだす。顔からは血の気が引き、文字通り青ざめた表情へと変わる。

 そして、ゴルベールはその場に尻もちをつきながら呟いた。


「そ、そんな……。まさか……本当にラクシャーナ王……?」


 すぐにゴルベールは膝をつき、平伏の姿勢を取る。


「も、申し訳ございませんっ! まさか王がこのような村にいらしているとは露知らず……」

「何だお前、相手によって自分の態度を変えるのか? さっきまではあんなに偉そうに振る舞っていたじゃないか」

「い、いえいえいえっ! 滅相もございません! 私はただ、リド・ヘイワースにとっても明るい話だと思って勧めていたまでで――」

「あー、そういうの良いから。それよりもアンタ。リド少年を連れ戻そうと必死になるのは勝手だがよ、何故その前に自分の行ったことについて言及しない? そもそもリド少年を理不尽に追い出したのはアンタだろう?」

「そ、それは……」

「自分の行いについては省みず相手に求めるばかりって、そりゃあ通らんだろ。それとも、それが大司教様の理念ってわけかい? ハッ。随分と崇高な理念だな。聖職者が聞いて呆れるぜ」

「……」

「アンタの所業については色々と聞いている。バルガスやバルガスんとこの嬢ちゃんからもな」


 ゴルベールは、そこで初めてバルガスやエレナの姿に気づいたようだった。

 自分のしてきた行いが権力者の間で共有されていると知り、ゴルベールは弁明することすらできない。


「あの王様、言う時は言うなぁ」

「良くないかもですけど、ちょっとスッキリしちゃいました」

「別に良いと思いますわよ、ミリィさん。私も正直同じ気持ちですし。正直一度ぶっ飛ばしてやるくらいでちょうど良いと思いますわ」

「エレナちゃんよ、もうちょい丁寧な言葉を使ってくれるとお父さん嬉しいぞ。気持ちは分かるが」

「ま、散々吾輩の相棒を虐げてきた罰だ。これが因果応援(・・・・)ってやつだな」

「……シルちゃん。それたぶん因果応報、ですね」


 シルキーとミリィ、エレナにバルガスがそんなやり取りを交わし、頭を擦り付けて平伏するゴルベールを遠巻きに見つめる。


「この痴れ者が。俺がもう少し若ければリド少年の代わりに一発ぶん殴ってるところだ」

「う……」

「アンタが何故ラストア村にやって来て、リド少年を連れ戻そうとしているかは大方の予想がつくんだがな。それはまあいいや」


 許してもらえるのだろうかと、ゴルベールが僅かな期待を胸に顔を上げる。


 しかし今、ラクシャーナにとってはゴルベールの更生などどうでも良い。

 この期に及んでも自身の行いを恥じるのではなく、ただ穏便に事が過ぎ去ることを願うその姿勢に、心底軽蔑はしていたが。


 それよりも他に重要なことがあると、ラクシャーナは後ろにいたカナン村長と一言二言交わし、続けて配下の者たちに声をかけた。


「おう、お前ら。王都に帰還するのは後回しだ。村長さんからも承諾を貰ったから、今日はこのラストアに残るぞ」


 ガウスがラクシャーナの思惑を察して敬礼すると、他の兵たちもそれに(なら)う。


「あの、ラクシャーナ王。一体何を?」

「ああ。リド少年も同席してほしいんだがな」


 ラクシャーナはそこで言葉を切って、膝をついているゴルベールに再び視線を向けた。

 そして――。


「さて、楽しい楽しいお話し合いの時間だ」


 ラクシャーナはニヤリと笑って呟いたのだった。



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